エスタブリッシュメント

彼らはこうして富と権力を独占する
未読
エスタブリッシュメント
エスタブリッシュメント
彼らはこうして富と権力を独占する
未読
エスタブリッシュメント
出版社
出版日
2018年12月13日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

国民投票におけるイギリスのEU離脱賛成派の勝利、およびアメリカ大統領選挙におけるトランプの勝利。これらは「エスタブリッシュメント」に対する大衆の反抗という意味合いがあると言われている。

エスタブリッシュメントといえば、社会や政権の中枢にいる人々のことであるが、その正体や実情を詳しく理解するのは困難だ。だが本書は現代イギリスにおけるエスタブリッシュメントの内実を分析し、今日のエスタブリッシュメントがなぜ影響力を握ることができたのか、どのように権力を行使しているのかを鮮やかに分析している。

著者は34歳の青年だが、勧善懲悪の反権力的思考に陥ることなく、膨大な数のエスタブリッシュメント当人にもインタビューを重ね、歴史や経済的要因も分析したうえで、冷静に怒りを向ける。論及の対象は20世紀後半から21世紀初頭にかけてのイギリス社会であるが、グローバル化が進む現代において、エスタブリッシュメントによって生み出される問題は、もはやイギリス固有のものではない。著者が提示する対策は、右派ポピュリズムが蔓延する世界全体にも通用するものだろう。

現代のエスタブリッシュメントについて理解し、社会変革の必要性を考えるうえで、必読の書といえる。

ライター画像
大賀祐樹

著者

オーウェン・ジョーンズ(Owen Jones)
イギリスのシェフィールド生まれ。オックスフォード大学卒(歴史学専攻)。20代で上梓した初の著書『チャヴ』(海と月社)が世界的ベストセラーとなり、各国の政治運動に影響を与える。その3年後に本書を刊行。前作をしのぐ「支配層に対する鋭い追及」が拍手喝采で迎えられ、アメリカ、スペイン、フランスなど欧米各国のほか、中国・韓国でも翻訳出版される。現在は、新聞・雑誌のコラムニスト、TV・ラジオのコメンテーターとして活躍。いまや左派の重要な論客である。またLGBTQ問題にも関心が高く、国内外の幅広い運動に精力的に参加している。

本書の要点

  • 要点
    1
    エスタブリッシュメントとは、具体的な個人ではなく「体制」であり、ひとまとまりの「メンタリティ」を指している。
  • 要点
    2
    エスタブリッシュメントの間では「国家は悪であり、自由市場こそが成長と進歩の原動力である」とする新自由主義のコンセンサスが形成されている。だが貧困者が厳しい現実にさらされている一方で、銀行や大企業は国家によって救済されている。
  • 要点
    3
    いま求められているのは、エスタブリッシュメントが私物化している民主的な権利と権力を平和的な方法で取り戻すこと、すなわち「民主革命」である。

要約

エスタブリッシュメントとはなにか

エスタブリッシュメントの定義

「エスタブリッシュメント」は耳慣れているにもかかわらず、定義があいまいな言葉である。イギリスにおけるエスタブリッシュメントとは、右派から見ると「制御不能で道徳的に堕落した社会自由主義を国家レベルで推進する者たち」のことであり、左派から見ると「イギリスの政治の主要機関を支配しているパブリック・スクールとオックスブリッジのネットワーク」のことだ。つまり「気に入らない権力者たち」を指し、非難の意味合いが含まれているという共通点がある。

著者はエスタブリッシュメントを、「成人のほぼ全員が選挙権を持つ民主制において、自分たちの地位を守らなければならない有力者の集団」と定義している。

エスタブリッシュメントとはどのような人たちか
ysbrandcosijn/gettyimages

エスタブリッシュメントは法律を制定する政治家、議論の下地を作るメディアの大物、経済を動かす企業や金融業者、強者に有利な法律を執行する警察機関などによって構成される。だがそれは政治家やメディアの誰それといったような、個々の「悪役」を指すわけではない。

エスタブリッシュメントとは「体制」であり、ひとまとまりの「メンタリティ」である。彼らをひとつにまとめている共通認識は、「社会の頂点に立つ人々が権力と増え続ける富を所有するのには、正当な理由がある」というものだ。エスタブリッシュメントに属するかどうかを決めるのは、その人の生い立ちや教育、公的立場の有無ではなく、「権力」と「メンタリティ」だといえる。

総じて今日のエスタブリッシュメントに属する人物は、社会的にリベラルであり、直接会うと寛容さと他者への共感に満ちている。「個人」の品格と、もっとも有害な「体制」は、なんの問題もなく共存しうるのだ。

それでもエスタブリッシュメントは、「イギリス国民に奉仕している」と主張しながら、実際には国民ではなく「エスタブリッシュメントそのもの」に奉仕している。なぜなら「私にはその価値があるから」だ。

エスタブリッシュメントに共有される思想

新自由主義の「先兵」として
Boonyachoat/gettyimages

イギリスでは1970年代まで社会民主主義が支配的であり、第二次世界大戦後のイギリスを支配したエスタブリッシュメントの政治基盤となっていた。当時は収入に対する所得税の最高税率が75パーセントに達し、基幹産業や公益事業は公有化されていた。

一方で今日のエスタブリッシュメントの基本理念となっているのは、「経済問題における国家の介入を少なくするべき」と主張する新自由主義である。新自由主義を生み出したフリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンらの自由放任主義経済学は、戦後間もない頃の西ヨーロッパやアメリカにおいては「のけ者」にされていた。だがそれまで世界経済を支えていたブレトンウッズ体制の廃止や「石油ショック」をきっかけとして、西欧ではインフレが急激に進み、景気は低迷した。すると生活費の上昇に見合った賃上げを求め、労働組合が全国でストライキを繰り広げるようになった。1978~1979年の「不満の冬」には、ストライキによって生活に不可欠なサービスが停止した地域もあったほどだ。不況を背景にして、戦後の社会民主主義的なコンセンサスは危機にさらされた。

1977年、社会民主主義に対抗する新しいコンセンサスの形成を目標としたシンクタンクが結成された。シンクタンクのメンバーたちは政治家に働きかけ、主要新聞に記事を書くことで、自らが「先兵」となり、野心的かつ攻撃的に研究内容を拡散していった。彼らが主張した民営化、規制撤廃、富裕層への減税といった政策は、マーガレット・サッチャー政権によって実施されていくこととなる。だがサッチャーの首相就任は、こうした流れの始まりに過ぎなかった。

新しいコンセンサスの形成

2000年代後半になると〈納税者同盟〉という運動団体が、公的支出の削減と減税を訴え、盛んに活動を行った。彼らがジャーナリストと密接な関係を築き、政治家に対して働きかけた結果、公共部門の支出は大幅に削減され、大部分が民営化された。また彼らは労働組合を激しく攻撃し、優遇措置の廃止を訴えた。

それはたしかに草の根運動の体裁をとっていた。

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要約公開日 2019.03.22
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