本書の要点

  • 国や企業はこれまでGDP(国内総生産)という単一の指標を追求してきたが、GDPでは測れない精神的な豊かさや幸福感を増やしていくことが重要になりつつある。

  • 経済資本に加え、これまで軽視されてきた「人と人とのつながり」と「自然や文化」を「資本」と考え、それを増やすことを目的とするのが「鎌倉資本主義」である。

  • カヤックは、「まちの社員食堂」「まちの保育園」「まちの人事部」などといった取り組みを通じて鎌倉というまちを「応援」している。

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【必読ポイント!】従来の資本主義と鎌倉資本主義

「多様性」は「面白い」

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著者が設立した「面白法人カヤック」(以下、カヤック)は、面白い社会をつくることを目指している。彼らにとって「面白い」とは、自分たちが楽しんでいること、そしてそこに「オリジナリティ」や「個」があることだ。全員が同じでは面白くない。したがって、カヤックでは「多様性」を「面白さ」ととらえている。近年は、東京に似た地方都市が増えている。東京がいくらすばらしくても、日本中が東京のようになってしまっては面白くない。カヤックが考える「面白い社会」とは、「多様性が認められる社会」「一人ひとりが輝く社会」「一社一社が特徴的である企業社会」「地域ごとに特徴がある地域社会」だ。カヤックが本社を置く鎌倉は都心から離れており、不便だ。だからこそ面白いと考えている。東京を目指すのではなく、その地の個性を残したまま繁栄する――それがカヤックの考える「地方創生」である。そして地方創生への取り組みがすなわち、資本主義が抱える課題への取り組みに直結すると考えている。

限界を迎えた資本主義

資本主義は大きな課題を抱えている。それは、「地球環境汚染」と「富の格差の拡大」の2つだ。その背景には、企業や国がGDP(国内総生産)という単一の指標を追求してきたことがある。GDPは経済活動の状況と経済的な豊かさを測る指標として使われ、GDPが成長し続けることがよいことだと考えられてきた。だが、本当にGDPだけが豊かさの指標になるのだろうか。職住近接のワークスタイルを実現したり、地産地消の食材を楽しんだり、コミュニティでつながりが生まれて、金銭の介在しないプロジェクトによって自分のまちをよくしたりといった活動は、GDPの増加にはつながらない。むしろ、電車などで長距離移動したり、輸入した食材を食べたりしたほうが輸送にお金が使われ、GDPが増加するしくみだ。だが職住近接のほうが疲れないし、地元産の食材のほうが安くて新鮮である。こうした矛盾が積み重なり、大きな問題になってしまっているのではないだろうか。もちろん経済成長は必要だが、それだけを指標にしていては面白くない。精神的な豊かさや幸福感を増やしていくことこそ、重要になってきているのではないだろうか。

新たな価値基準「地域資本」

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GDPに代わる指標を探し続けてたどり着いたのが、地域を中心とした新しい資本主義のかたち、「鎌倉資本主義」だ。鎌倉資本主義では、「地域資本」という考え方をする。地域資本は、「地域経済資本」(財源や生産性)と「地域社会資本」(人のつながり)、そして「地域環境資本」(自然や文化)の3つの要素で構成される。この3つをバランスよく増やすことが人を幸せにするという考え方だ。従来の資本主義とは異なり、鎌倉資本主義では、お金で測れない価値を考えていく。地域資本という新しい価値を測ることによって、より持続的な成長を目指す。そしてその結果、地域が多様に発展し、従来資本主義の2つの大きな課題の解決が導かれる。鎌倉資本主義が目指すのは「持続可能な資本主義」である。本書で紹介されるのは、この3つの資本を増やす方法と、それを測るための指標だ。著者らは鎌倉から地域資本主義を発信すべく「鎌倉資本主義」という名称を使っているが、今後は鎌倉に限らず、さまざまな地域でその地域ごとの地域資本主義が発信されるようになることを願っている。

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GDPではない価値基準

「評価しない評価」サイコロ給

GDPが経済成長を測る指標であるように、会社は評価制度というモノサシを持っている。著者は、評価制度が社風をつくると考えている。面白法人では「面白がる人」が高く評価される組織をつくっていきたいという思いがある。そこで採用されているのが「サイコロ給」だ。これは毎月「基本給×(サイコロの出目)%」が+αとして支給される仕組みだ。基本給が減ることはない。

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要約公開日 2019.04.07
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