単純な脳、複雑な「私」
または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義

未 読
単純な脳、複雑な「私」
ジャンル
著者
池谷裕二
出版社
講談社(ブルーバックス)
定価
1,200円 (税抜)
出版日
2013年09月05日
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単純な脳、複雑な「私」
単純な脳、複雑な「私」
または、自分を使い回しながら進化した脳をめぐる4つの講義
著者
池谷裕二
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出版社
講談社(ブルーバックス)
定価
1,200円 (税抜)
出版日
2013年09月05日
評点
総合
0.0
明瞭性
0.0
革新性
0.0
応用性
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レビュー

著者の池谷裕二氏は、2014年4月現在、東京大学・大学院薬学系研究科の教授でありながら1970年生まれというから、その若さに驚く。

本書は、『進化しすぎた脳』の続編にあたる。前作同様本書も、高校生との対話形式で脳科学の最前線に迫る。本物の第一線の研究者が、高校生にむけて非常に分かりやすく、最先端の脳科学の世界を講義する。全編話し言葉で書かれており、大変読み進めやすい一方で、科学的な内容には一切手を抜いたところはない。参考文献は115冊に及び、脳科学を志す研究者の卵にも満足できるくらい、骨太な内容だ。さらに、あるはずの図形が消えてしまう錯覚、脳の活動のシミュレーションなど、動画が見られる特設サイトも必見だ(http://www.gaya.jp/bb/)。

今回は前作よりさらに深く、「勘とひらめきの違い」、「正しいとは何か」、「好き、嫌いはどこからくるのか」、「自由とは何か」など、より人間の心の根源に迫る講義が繰り広げられる。読破すると分かるのだが、そこには実は、目が覚めるようなシンプルなシステムが横たわっている。脳の驚くべき単純性とそこから創発される複雑性の共存。ぜひこの驚きを、本書で味わっていただきたい。

筆者は研究の魅力をこう語る。「科学の醍醐味は、(中略)高尚な推理小説を読み進めるようなワクワク感だ。難解なパズルを少しずつ露礁させていくかのような、この謎解きの創出プロセスが一番おもしろい」。さあ、脳科学の深淵なめくるめく世界へようこそ。

著者

池谷裕二
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学大学院薬学系研究科教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求をつづける。日本神経科学学会奨励賞、日本薬学会奨励賞、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞などを受賞。主な著書に『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』(ともにブルーバックス)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮文庫)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    脳の無意識の作用は強烈だ。ものごとの正しさや好き・嫌いを判断するとき、知らず知らずのうちにこれまでの経験や環境の影響を巻き込んでしまっている。しかも、私たちはそれに気づけない。
  • 要点
    2
    自らの意志で自由に判断、行動しているつもりでも、実は行動しようと思う前に、脳がすでに動く準備を行っている。「自由」は行動よりも前に存在するのではなくて、行動の結果もたらされるものだ。
  • 要点
    3
    「意志」や「意図」は、簡素なルールに従って創発されているだけなのではないか。

要約

「正しい」とは何か

Designer_things/iStock/Thinkstock
無意識の作用は強烈

日常は「根拠のない信念」に満ちている、と筆者は言う。「これは正しい」と信じていることに対し、果たしてどれだけその根拠を挙げられるだろうか。実は、脳が「正しい」という感覚を生み出すのは「どれだけその世界に長くいたか」や「どれだけそれに慣れているか」に依存するという。

ここで紹介されるのはシマ模様の箱の中で育てられたネコの実験。なんと、縦ジマの箱の中で育てられたネコは縦ジマしか、横ジマの箱の中で育てられたネコは横ジマしか見えなくなってしまう。縦ジマしか見えないネコの足元へ、つっかえ棒を設置しておくと、このネコは横方向の線は見えないため、棒につまずいてしまう。一方、横ジマの箱で育てられたネコは、これをピョンと飛び越えられる。

一般的なネコの大脳の神経細胞(ニューロン)には、縦ジマに反応するニューロン、横ジマに反応するニューロン、斜め30度に反応するニューロンなど、いろいろな線分方向に反応するニューロンが見つかるが、横ジマを見たことのないネコには、横ジマに反応するニューロンが見られない。だから横の線分を「見る」ことはできない。

似たようなことは人間の世界でもよく起こる。たとえば他人への気遣い。ある人は気がつけるけど、ある人は気づけない。気がつける人にとっては「なぜこんなことにも気がつかないのだろう」といぶかしく思ってしまうが、気がつかない人はそもそも「それが存在しない」世界に生きているから、自分がどれほど気づいていないか、にすら気がつけないのだ。だから、隣にいる人と同じ物を見ても、それを同じように感知しているかどうかの保証は、まったくない。

このように、正しさの基準は「慣れ」の問題に帰着し、正しさの信念は、結局記憶から生まれる。この世には絶対的な「正しい」・「間違い」の基準はなく、その環境により長く暮らし、その世界のルールにどれほど深く順応しているかどうかが、脳にとっては重要だ。

もう一歩踏み込めば、「正しい」というのは「それが自分にとって心地いいことかどうか」、つまり「それが好きかどうか」で変わってくる。好き、嫌いは環境にも大きく左右される。たとえば、何度も見かけた物は好きになりがちで、反復提示によって好みが操作されうることがすでに分かっている。また、意識にはっきりとのぼる理由がないままに、むしろ周りの状況を引き込みつつ、好きになったり嫌いになったりもする。たとえば、「あなたは人生に楽観的ですか?悲観的ですか?」という質問をすると、雨の日より晴れの日のほうが楽観的な答えが返ってくる傾向があるのだ。

「自由」とは何か

RomoloTavani/iStock/Thinkstock
自由意志は存在するかどうかではなく、知覚されるかどうかが重要

私たちには自由があるのだろうか。自由にものごとを想像しようとしても、実際は過去に見聞きした経験や記憶によって制限されてしまっているのではないか。「自由意志」を考える上で欠かせない、25年前の有名な実験を紹介しよう。

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