多くの人は、コミュニケーションを「言葉」や「仕草」など、表面に現れるものだととらえているかもしれない。けれど、相手に対する気遣いや思いやりといった「根」にあたる部分があってこそ、表面に現れるコミュニケーションが魅力的なものになる。
著者がフジテレビ入社1年目の頃、「アナウンサーをやめたい」と思うことは何度もあったという。何もできない状態でテレビに出て、多くの人の視線を受けるプレッシャーが苦しかったからだ。2008年には『カトパン』という番組が始まり、大きな重圧を受けて「つらい」「やめたい」という拒否反応はさらに募った。
そんなとき、先輩アナウンサーの松尾翠さんに「考えすぎなくていいよ! ちょっとみんなとおしゃべりしに行こ! って遊びに来るぐらいの気持ちで仕事に来ればいいじゃない」というふうに声をかけられた。「やめたい」と口にしてはいても、心の中で相反する感情が渦巻いていた著者に、この言葉はすっと届いた。心の負担が軽くなるとともに、仕事への前向きな気持ちも引き出され、本当に救われたという。
自分の中に「もっと頑張りたい」という気持ちがあったことを実感したのは、『カトパン』が終了すると知ったときに涙が流れたからである。松尾翠さんの思いやりのこもった言葉は、落ち込んでいるとき、慰めるだけでなく、そっと背中を押してくれたのだった。
会話では、必ずしも相手の目を見て話す必要はない。もちろん、相手の目を見て自信満々に話すことも大事だが、それが苦手な人もいる。
著者がある番組で、大人気のバンドメンバーにインタビューしたときのことだ。とても口数が少ないと有名なメンバーの一人が、目を合わせてくれなかったものの、しっかりと曲への思いや制作エピソードを話してくれた。目が合わなかったことはまったく気にならず、話そうとしてくれたことが純粋にうれしかったという。
目が合うか合わないか、ではなく、お互いが伝えたいことを伝えられるかどうかが大切なことだ。「明るくハキハキしなければいけない」「常に笑顔を絶やしてはいけない」というようなプレッシャーを自分にかけるのではなく、相手を知り、自分を知ってもらうことを意識すれば、自然と楽しい会話が生まれるだろう。
『笑っていいとも!』のADはみな、タモリさんのことが大好きだった。
番組中の『曜日対抗! いいとも選手権』というコーナーには、誰でもネタ出しできる空気があった。そこで若手のADが企画を出すと、どんなにうまくいかなそうなネタにも、タモリさんはOKを出したという。タモリさんはもちろん、どんなネタだろうと必ず面白くして番組を成立させてしまうわけだが、信じて任せてくれたことにADはとても感謝して、奮起してがんばり、次の企画につなげていった。こうしたタモリさんの懐の深さが優秀なスタッフを育て、番組を長寿番組に育てたのだろう。後輩や部下への接し方として、素晴らしい姿勢だ。
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