全社戦略とは、個別事業戦略とは大きく異なる概念である。個別事業戦略とは、コンビニの会社であればコンビニ事業の戦略など、単一事業に関する戦略のことだ。
だが世の中を見渡すと、単一事業だけを営んでいる企業はじつのところ少ない。むしろ一企業が複数事業を展開していることのほうが多いといえる。たとえばトヨタ自動車も自動車事業の他に、住宅事業や金融事業を手掛けている。
複数事業を持つ会社において、経営者あるいは本社が全社的視点で考える戦略、それが全社戦略なのである。
複数事業を営んでいると、顧客に提供する価値も競合先も、事業ごとに異なってくる。複数の事業を束ねている経営者あるいは本社から見れば、「競合は誰か」などといった問いは意味をなさない。個別事業戦略と全社戦略とでは、考えなくてはならない内容が大きく異なるからだ。つまり全社戦略を立案して実行する経営者や本社スタッフと、個別事業戦略を立案して実行する事業部長やそのスタッフとでは、考えるべき内容や行うべきことが異なるのである。
本社がやるべき全社戦略は、大きく分けて以下の要素からなる。
・事業ポートフォリオ・マネジメント
・事業間のシナジー・マネジメント
・全社事業ドメインの設定とマネジメント
・全社ビジョンの作成と徹底
・全社組織の設計と運営
経営学では複数の事業「群」のことを「事業ポートフォリオ」と呼ぶ。この事業ポートフォリオをいかにマネジメントするかが、全社戦略において熟考するべき大切な要素である。
事業ポートフォリオで具体的に考えるべきなのは、「やめる」、「まとめる」、「分ける」、「始める」の4つである。たとえば事業をやめるかやめないかは、まさに全社レベルで行うべき意思決定だ。逆にいうと事業部長は「全社的に見れば私の事業をやめるべきだ」と言ってはならない。たとえどんなに事業環境が厳しくても、成果を出すことが事業部長のミッションだからである。
ある事業をやめるかどうかを決断するのは本社だ。この意思決定こそ、「全社戦略」でもっとも重要な事項のひとつである。
どの事業に資源を重点配分するのか、どの事業から資源を取り上げるのか、どの事業から撤退するのか、あるいは新規に事業を始めるべきか――複数事業を持つ会社の経営者や本社部門は、このような事業間での配分に頭を悩ますことになる。とりわけまったくタイプの異なる事業があった場合、同じ物差しで判断することは困難だ。
こうした問題に対応する意思決定のコンセプトがある。それがコンサルティング会社のボストン コンサルティング グループ(以下「BCG」)が提唱した、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(以下「PPM」)である。
BCGのPPMは、2×2のマトリクスで描かれる。縦軸にはその事業の市場成長率を用いる。これが上側にあればあるほど、成長率が高いことを示している。一方で横軸は相対的マーケットシェアを表しており、左側にあるほど相対マーケットシェアが高い。この2軸で4象限をつくって各事業を当てはめ、象限ごとに資源配分を変えるというのが、PPMの基本的な考え方である。各象限は次のことを意味する。
(1)問題児(成長率=高、シェア=低):このポジションの事業が取るべきアクションは、競合他社を上回る大型積極的投資を一気に行うか、すばやく撤退するかの二者択一である。
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