本書の要点

  • 単一事業の事業継続について考えるのが個別事業戦略である。一方で複数事業を持つ会社において、経営者や本社が全社的視点で考える戦略を全社戦略と呼ぶ。

  • 事業ポートフォリオ・マネジメントは、全社戦略における重要な要素だ。これは事業を「やめる」「まとめる」「分ける」「始める」という意思決定、および事業間での資源の再配分を決定することである。

  • 資源配分を事業部に任せておくと、個別最適に陥りやすく、かならずしも全体最適にならない。そうならないためにも、1つ上の全社レベルで、ヒト・モノ・カネを再配分することが必須である。

1 / 5

全社戦略では何を考えるのか

全社戦略とは何か

全社戦略とは、個別事業戦略とは大きく異なる概念である。個別事業戦略とは、コンビニの会社であればコンビニ事業の戦略など、単一事業に関する戦略のことだ。だが世の中を見渡すと、単一事業だけを営んでいる企業はじつのところ少ない。むしろ一企業が複数事業を展開していることのほうが多いといえる。たとえばトヨタ自動車も自動車事業の他に、住宅事業や金融事業を手掛けている。複数事業を持つ会社において、経営者あるいは本社が全社的視点で考える戦略、それが全社戦略なのである。

本社が考え、実践すべきこと

skynesher/gettyimages

複数事業を営んでいると、顧客に提供する価値も競合先も、事業ごとに異なってくる。複数の事業を束ねている経営者あるいは本社から見れば、「競合は誰か」などといった問いは意味をなさない。個別事業戦略と全社戦略とでは、考えなくてはならない内容が大きく異なるからだ。つまり全社戦略を立案して実行する経営者や本社スタッフと、個別事業戦略を立案して実行する事業部長やそのスタッフとでは、考えるべき内容や行うべきことが異なるのである。本社がやるべき全社戦略は、大きく分けて以下の要素からなる。・事業ポートフォリオ・マネジメント・事業間のシナジー・マネジメント・全社事業ドメインの設定とマネジメント・全社ビジョンの作成と徹底・全社組織の設計と運営

2 / 5

【必読ポイント!】事業ポートフォリオ・マネジメント

事業ポートフォリオ・マネジメントとは

経営学では複数の事業「群」のことを「事業ポートフォリオ」と呼ぶ。この事業ポートフォリオをいかにマネジメントするかが、全社戦略において熟考するべき大切な要素である。事業ポートフォリオで具体的に考えるべきなのは、「やめる」、「まとめる」、「分ける」、「始める」の4つである。たとえば事業をやめるかやめないかは、まさに全社レベルで行うべき意思決定だ。逆にいうと事業部長は「全社的に見れば私の事業をやめるべきだ」と言ってはならない。たとえどんなに事業環境が厳しくても、成果を出すことが事業部長のミッションだからである。ある事業をやめるかどうかを決断するのは本社だ。この意思決定こそ、「全社戦略」でもっとも重要な事項のひとつである。

異なるタイプの事業をどう評価すればよいのか

本文p.47 より

どの事業に資源を重点配分するのか、どの事業から資源を取り上げるのか、どの事業から撤退するのか、あるいは新規に事業を始めるべきか――複数事業を持つ会社の経営者や本社部門は、このような事業間での配分に頭を悩ますことになる。とりわけまったくタイプの異なる事業があった場合、同じ物差しで判断することは困難だ。こうした問題に対応する意思決定のコンセプトがある。それがコンサルティング会社のボストン コンサルティング グループ(以下「BCG」)が提唱した、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(以下「PPM」)である。

BCGのPPM

BCGのPPMは、2×2のマトリクスで描かれる。縦軸にはその事業の市場成長率を用いる。これが上側にあればあるほど、成長率が高いことを示している。一方で横軸は相対的マーケットシェアを表しており、左側にあるほど相対マーケットシェアが高い。この2軸で4象限をつくって各事業を当てはめ、象限ごとに資源配分を変えるというのが、PPMの基本的な考え方である。各象限は次のことを意味する。(1)問題児(成長率=高、シェア=低):このポジションの事業が取るべきアクションは、競合他社を上回る大型積極的投資を一気に行うか、すばやく撤退するかの二者択一である。

もっと見る
この続きを見るには...
残り2403/3885文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2019.10.17
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

逆境に克つ!
逆境に克つ!
小巻亜矢
PLAY WORK(プレイ・ワーク)
PLAY WORK(プレイ・ワーク)
ピョートル・フェリクス・グジバチ
市場を変えろ
市場を変えろ
永井俊輔
成功する日本企業には「共通の本質」がある
成功する日本企業には「共通の本質」がある
菊澤研宗
心。
心。
稲盛和夫
奇跡の経済教室【基礎知識編】
奇跡の経済教室【基礎知識編】
中野剛志
学びなおす力
学びなおす力
石川康晴
インテグラル理論
インテグラル理論
ケン・ウィルバー加藤洋平(監訳)門林奨(訳)

同じカテゴリーの要約

Z世代の頭の中
Z世代の頭の中
牛窪恵
一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本
一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本
越川慎司
世界標準の1on1
世界標準の1on1
スティーヴン・G・ロゲルバーグ本多明生(訳)
増補改訂版 フィードバック入門
増補改訂版 フィードバック入門
中原淳
完訳 7つの習慣
完訳 7つの習慣
スティーブン・R・コヴィーフランクリンコヴィージャパン(訳)
トリニティ組織
トリニティ組織
矢野和男平岡さつき(協力)
1分で話せ
1分で話せ
伊藤羊一
世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?
世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?
井上大輔
「仕事ができるやつ」になる最短の道
「仕事ができるやつ」になる最短の道
安達裕哉
部下をもったらいちばん最初に読む本
部下をもったらいちばん最初に読む本
橋本拓也