全社戦略がわかる

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出版社
日本経済新聞出版社

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出版日
2019年05月24日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

経営計画が、事業部の計画を集約したものだけになっている――そんなケースは少なくない。しかしそれでは解決すべき問題が明確にならないと著者は指摘する。本社が考え実行すべき戦略は、事業部の戦略・戦術の延長上にあるものではない。事業部による部分最適だけでは、会社の全体最適は実現できないのである。

そこで必要になるのが「全社戦略」だ。しかし経営戦略の教科書は多くの場合、事業部の考える「いかに市場を取るか」という個別事業戦略に終始しており、全社戦略を正面から解説している本はあまり見ない。そういう意味で本書は、全社戦略に関する稀有な入門書といえる。

著者は10年以上にわたりボストンコンサルティンググループで経営者たちの意思決定をサポートし、現在は早稲田大学ビジネススクール教授として活躍する、まさに実務と理論の両方を携えた人物だ。経営戦略を理論面と実務面から徹底解説し、事業ポートフォリオ・マネジメント、シナジー・マネジメント、全社ビジョン、事業ドメイン、組織運営など、本社が考え実践すべき戦略を網羅している。

本社で働いている方はもちろんのこと、事業部で働いている方にとっても、本書を読む価値は非常に高い。なぜなら経営者や本社のもつ、「1つ上の階層」の視点が身に付くからである。また自営業においても、自らを会社、行なっている業務を事業部と見立てれば、戦略を考えるうえで大いに参考になるはずだ。

ライター画像
木下隆志

著者

菅野 寛 (かんの ひろし)
早稲田大学ビジネススクール教授。東京工業大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。カーネギー・メロン大学経営工学修士。日建設計、ボストン コンサルティング グループ、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授を経て、2016年より現職。著書に『BCG流 経営者はこう育てる』『経営の失敗学』(いずれも日経ビジネス人文庫)、『BCG経営コンセプト 構造改革編』(東洋経済新報社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    単一事業の事業継続について考えるのが個別事業戦略である。一方で複数事業を持つ会社において、経営者や本社が全社的視点で考える戦略を全社戦略と呼ぶ。
  • 要点
    2
    事業ポートフォリオ・マネジメントは、全社戦略における重要な要素だ。これは事業を「やめる」「まとめる」「分ける」「始める」という意思決定、および事業間での資源の再配分を決定することである。
  • 要点
    3
    資源配分を事業部に任せておくと、個別最適に陥りやすく、かならずしも全体最適にならない。そうならないためにも、1つ上の全社レベルで、ヒト・モノ・カネを再配分することが必須である。

要約

全社戦略では何を考えるのか

全社戦略とは何か

全社戦略とは、個別事業戦略とは大きく異なる概念である。個別事業戦略とは、コンビニの会社であればコンビニ事業の戦略など、単一事業に関する戦略のことだ。

だが世の中を見渡すと、単一事業だけを営んでいる企業はじつのところ少ない。むしろ一企業が複数事業を展開していることのほうが多いといえる。たとえばトヨタ自動車も自動車事業の他に、住宅事業や金融事業を手掛けている。

複数事業を持つ会社において、経営者あるいは本社が全社的視点で考える戦略、それが全社戦略なのである。

本社が考え、実践すべきこと
skynesher/gettyimages

複数事業を営んでいると、顧客に提供する価値も競合先も、事業ごとに異なってくる。複数の事業を束ねている経営者あるいは本社から見れば、「競合は誰か」などといった問いは意味をなさない。個別事業戦略と全社戦略とでは、考えなくてはならない内容が大きく異なるからだ。つまり全社戦略を立案して実行する経営者や本社スタッフと、個別事業戦略を立案して実行する事業部長やそのスタッフとでは、考えるべき内容や行うべきことが異なるのである。

本社がやるべき全社戦略は、大きく分けて以下の要素からなる。

・事業ポートフォリオ・マネジメント

・事業間のシナジー・マネジメント

・全社事業ドメインの設定とマネジメント

・全社ビジョンの作成と徹底

・全社組織の設計と運営

【必読ポイント!】事業ポートフォリオ・マネジメント

事業ポートフォリオ・マネジメントとは

経営学では複数の事業「群」のことを「事業ポートフォリオ」と呼ぶ。この事業ポートフォリオをいかにマネジメントするかが、全社戦略において熟考するべき大切な要素である。

事業ポートフォリオで具体的に考えるべきなのは、「やめる」、「まとめる」、「分ける」、「始める」の4つである。たとえば事業をやめるかやめないかは、まさに全社レベルで行うべき意思決定だ。逆にいうと事業部長は「全社的に見れば私の事業をやめるべきだ」と言ってはならない。たとえどんなに事業環境が厳しくても、成果を出すことが事業部長のミッションだからである。

ある事業をやめるかどうかを決断するのは本社だ。この意思決定こそ、「全社戦略」でもっとも重要な事項のひとつである。

異なるタイプの事業をどう評価すればよいのか
本文p.47 より

どの事業に資源を重点配分するのか、どの事業から資源を取り上げるのか、どの事業から撤退するのか、あるいは新規に事業を始めるべきか――複数事業を持つ会社の経営者や本社部門は、このような事業間での配分に頭を悩ますことになる。とりわけまったくタイプの異なる事業があった場合、同じ物差しで判断することは困難だ。

こうした問題に対応する意思決定のコンセプトがある。それがコンサルティング会社のボストン コンサルティング グループ(以下「BCG」)が提唱した、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(以下「PPM」)である。

BCGのPPM

BCGのPPMは、2×2のマトリクスで描かれる。縦軸にはその事業の市場成長率を用いる。これが上側にあればあるほど、成長率が高いことを示している。一方で横軸は相対的マーケットシェアを表しており、左側にあるほど相対マーケットシェアが高い。この2軸で4象限をつくって各事業を当てはめ、象限ごとに資源配分を変えるというのが、PPMの基本的な考え方である。各象限は次のことを意味する。

(1)問題児(成長率=高、シェア=低):このポジションの事業が取るべきアクションは、競合他社を上回る大型積極的投資を一気に行うか、すばやく撤退するかの二者択一である。

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要約公開日 2019.10.17
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