葉隠 処世の道

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葉隠 処世の道
出版社
日本能率協会マネジメントセンター

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出版日
2019年11月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「死ぬ事と見つけたり」という言葉で武士道を表現したことで有名な『葉隠』。本書は、『葉隠』のエッセンスを抽出し、ビジネスシーンで応用できるように編訳したものだ。

『葉隠』が書かれた江戸時代中期は、乱世とはかけ離れた泰平の世だった。主君に忠節を尽くす武士道の倫理は、江戸時代に徳川幕府が儒教的価値観を取り入れた影響で形成された。また頻繁に主君を変えたり裏切ったりしながら、弱肉強食の世界を実力でのし上がっていく下剋上も、戦国時代までの武士の生き方の一つだった。

『葉隠』の時代の武士は、責任をとるために切腹することはあれども、戦場で命のやり取りをする機会はなく、一生を穏やかに過ごし、役所勤めの公務員のような生活をしていた。だからこそ、刀を差す戦闘階級たる侍としての心構えや、善き生き方とはいかなるものなのかという理念を、深く探究したのだろう。つまり『葉隠』に描かれている武士道は、戦場での生き死にの経験をくぐり抜けた実践的な言葉ではなく、理念化された言葉なのである。

一方で、家来=部下として成功するためにいかに振る舞うのがよいのか、人とうまく付き合うためにはどうすればよいのかといった、当時の武士の実践的で現実的な処世術が数多く描かれている点も興味深い。日本文化の根幹を為す考え方がまとめられた本書からは、組織の一員や中間管理職の立場から、いかに上司や部下と付き合い、仕事と向き合えばよいのかについて、舶来のビジネス書以上に現代日本にマッチした観点を得られるのではないだろうか。

ライター画像
大賀祐樹

著者

前田 信弘(まえだ のぶひろ)
経営コンサルタント。高校講師、専門学校教員を経て独立。長年、経営、会計、金融、マーケティングなど幅広くビジネス教育に取り組むとともに、さまざまなジャンルで執筆・コンサルティング活動を行う。あわせて歴史や古典などをビジネスに活かす研究にも取り組んでいる。著書に『コンテンポラリー・クラシックス 武士道 ぶれない生きざま』『コンテンポラリー・クラシックス 韓非子 人を動かす原理』『コンテンポラリー・クラシックス 五輪書 わが道をひらく』『君の志は何か 超訳 言志四録』(日本能率協会マネジメントセンター)、『知識ゼロからのビジネス韓非子』『知識ゼロからのビジネス論語』『知識ゼロからの孫子の兵法入門』(幻冬舎)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    「武士道といふは、死ぬ事と見つけたり」という一文は、死を美化・奨励したものではなく、生に真摯に向き合い、一生奉公を勤め上げる覚悟を表現したものである。
  • 要点
    2
    人に意見をすることは大切だが、難しい。さまざまに気配りをし、直接言わなくても相手が思い当たるようにするのが理想的だ。
  • 要点
    3
    好きなものは、おのずと自分のもとに集まってくるものだ。そのため、すぐれた人材を集めたいのであれば、ひたすらよい人材を好むことが大切だ。

要約

『葉隠』とは

成り立ち
artisteer/gettyimages

『葉隠』は、江戸中期の将軍吉宗の時代、享保元年(1716年)ごろに、2人の佐賀藩士によって生み出され、完成したとされている口述の聞書である。

口述者である山本常朝(やまもとじょうちょう)は、佐賀藩の二代藩主鍋島光茂(なべしまみつしげ)の側近として仕えた人物だ。光茂は常朝が42歳のときに亡くなった。常朝は主君のあとを追って切腹するつもりでいたが、これは許されず、後を追うことがかなわなかった。彼はやむなく出家し、佐賀市にある金立山(きんりゅうざん)の山すそで余生を過ごした。

常朝の口述を筆録したのが、田代陣基(たしろつらもと)である。陣基は常朝よりも19歳年下で、3代藩主綱茂(つなしげ)の文書・記録をつかさどる役割を担っていた。だが、32歳のときに解任され、失意のなか、常朝の草庵を訪ねることとなる。その後、約7年の歳月を費やし、常朝の談話を筆記していった。失意の底にいる青年にとって、常朝の言葉は心にしみるものだっただろう。

構成

『葉隠』は、武士の生きざまを生々しく伝える書だ。常朝は『葉隠』の中で、佐賀藩の藩祖鍋島直茂(なべしまなおしげ)や初代藩主鍋島勝茂(なべしまかつしげ)、さらには9歳のころから仕えた鍋島光茂(なべしまみつしげ)はじめ家臣団のことを語っている。

『葉隠』は、総論ともいえる位置づけの序文「夜陰の閑談」と、「聞書1」から「聞書11」までの全11巻から成る武士道の教訓・説話集である。

「夜陰の閑談」には4つの請願が掲げられている。「武士道において後(おく)れをとってはならないこと」「主君のご用に立つべきこと」「親に孝行するべきこと」「大慈悲(悲しみ哀れむ心)を起こして人のためになること」だ。これらの請願を毎朝仏神の前で自分の心に刻めば、後ずさりせず、一歩ずつ前に進めるようになるのだという。

【必読ポイント!】人生

日々、生に真摯に向き合う

『葉隠』においてもっとも有名な一文は、「武士道といふは、死ぬ事と見つけたり」だ。この言葉は、死を美化・奨励しているのではないかと誤解する人もいるかもしれないが、決してそのようなことはない。死ぬか生きるか、二つに一つという場合に、いち早く死を取るだけのことだ。

人はだれでも、死ぬよりも生きるほうが好きなものだ。往々にして人は好きなほうに理屈をつけるものである。

目的を果たせず死ねば犬死だが、決して恥ではない。毎朝毎夕、繰り返し命を捨てる修行を積み、常に死に身になってはじめて、武士道において自由を得て、一生失敗なく家職を果たすことができる。つまり、決定的な場面では自分の利害に関係なく、身を処す覚悟を持つこと。そして、死に身になる心構えを持って生きることで、生に真摯に向き合い、無事に奉公し続けることができるのだと説いている。

仕事

どのような仕事であっても
AzmanL/gettyimages

常朝は『葉隠』の中で、奉公にどう取り組むべきかを説いている。現代人にとっては、仕事への取り組み方に読みかえられるだろう。

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要約公開日 2020.01.20
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