著者は、企業経営の傍らビジネススクールの講師を務める。著者がその立場から痛感するのは、ビジネスの現場でセオリーを実践することの難しさだ。「売上増は七難隠す」というが、好況下で短期的な成功を手にした企業は「経営の本質的な課題」に気づきにくい。成長しているときこそ失敗事例を通じて「水面下に潜む課題」を考えるべきなのだ。失敗事例には、そこからしか学べないことがたくさんある。
本書では、失敗事例を倒産原因別に体系化して掲載している。まず倒産の原因別に大きく「戦略に問題があったケース」と「マネジメントに問題があったケース」という二つに分類する。
そのうえで、前者を2つに分ける。成功体験にとらわれて重要な局面で変化に対応できず倒産した「過去の亡霊」型と、成功確率の低い戦略で勝負に挑んで倒産した「脆弱シナリオ」型だ。
後者は3つの型に分ける。競合を意識するあまり自滅した「焦りからの逸脱」型、マネジメントが適切でなかった「大雑把」型、トップと現場が遠すぎて組織としてうまくいかなかった「機能不全」型である。
倒産は必ずしも企業生命の終焉を意味するわけではない。倒産後復活して成長する企業もあれば、再び倒産してしまう企業もある。
具体的な事例を紹介する前に、まず「倒産」の定義を確認しておこう。帝国データバンクによると、「倒産」とは「企業経営が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態」、つまり借金を返せなくなってしまった状態を指す。
倒産の処理方法としては、会社を消滅させるパターンと、事業を継続しつつ債務を弁済するパターンがある。会社更生法や民事再生法が適用されて再建をめざすのは、事業を継続するパターンのほうだ。本書には、両方のパターンの倒産事例が紹介されている。
ポラロイドは、アメリカの天才発明家であった、ランドが設立した会社だ。ランドは、写真の現像時間がわずか50秒しかかからないインスタントカメラを発明する。通常のカメラでは現像まで数週間かかっていた当時、この発明は画期的で、ポラロイドは著しい成長を遂げた。
しかしその後、カメラ業界の巨人・コダックが通常のカメラの現像時間を60分まで短縮することに成功すると、インスタントカメラの優位性は弱まった。さらに、キャノンなどの日本企業がより画質の良いコンパクトカメラを世に送り出し、ポラロイドの経営は低迷していく。
この状況の中、実はポラロイドは次のイノベーションの種を持っていた。1980年代半ばに、フィリップスとのジョイントベンチャーにより、デジタル化へ踏み出そうとしていたのだ。しかし、デジタル技術という新市場の魅力は既存のロジックでは分析できず、デジタル化に向けた企画はすべて否決され、研究開発費は既存製品のブラッシュアップに振り向けられた。その後1995年にデジタルカメラの時代がやって来ると、ポラロイドは時代から取り残される結果となり、連邦倒産法11章を申請することになってしまう。
経営学者クリステンセンの著書『イノベーションのジレンマ』には、大企業が革新的技術を導入できない理由のひとつとして、「存在しない市場は分析できない」ことが挙げられている。重要なのは「分析」ではなく、新技術を世に出しつつ新市場の可能性を「学習」する姿勢だ。変化に対応できる強い人材や組織となるためには、「分析できないことにはチャンスがある。失敗を通じて学習していこう」というスタンスが大切なのである。
鈴木商店という名は、今でこそ知る人は少ないかもしれないが、双日や神戸製鋼所、帝人、アサヒビール、サッポロビール、三井住友海上火災保険などの有名企業のルーツは同社にさかのぼる。鈴木商店は1874年、神戸で海外の砂糖を輸入する「洋糖引取商」として発足した。
3,400冊以上の要約が楽しめる