WHO YOU ARE

君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる
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おすすめポイント

『WHO YOU ARE』、「あなたは何者なのか」とタイトルに銘打った本書のテーマは、企業文化である。この著者はなぜ自分が何者であるかを問うのだろう。やがて線となり面となり、立体となって文化というものが眼前に顕わになったとき、ストンと自分の中に落ちてきた。文化は突き詰めると「自分が何者か」に行き着くのだ。いや、それこそが文化の正体とも言える。

これまで、企業文化は組織の中だけで完結するものだと思っていた。仕事が終わって会社から一歩外に出れば、私たちについてきたりはしないのだと。本書は、そうした思い違いが企業文化の真の姿を霧の向こうに隠し、理解を阻んでいたのだと気づかせてくれた。

本書の特色は、より広い社会学的視点から時代も場所も異なるリーダーたちを取り上げて、文化を考察している点にある。多くのビジネス書のように、すでに成功した企業文化の分析に終始していない。むしろそれでは因果関係が逆だと指摘する。なぜなら、企業文化が破綻していても成功している企業は存在するからだ。そこで著者が目をつけたのは、歴史上唯一成功した奴隷革命の指導者や、日本で約700年もの統治を実現した武士階級、アメリカの刑務所を統率した元囚人、モンゴル帝国を一代で築き死後まで続く繁栄へと導いた男である。彼らはいかにして望む文化をつくり上げたのか。そこから得た普遍的な学びは、現代にも生かすことができる。

話題作『HARD THINGS』の著者による待望の第2弾。目の前の霧を晴らしたければ、避けては通れない一冊である。

ライター画像
金井美穂

著者

ベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz)
次世代のテクノロジー企業のリーダーとなる起業家に投資するベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)の共同創業者兼ゼネラル・パートナー。ニューヨーク・タイムズのベストセラー『HARD THINGS』(日経BP)の著者でもある。アンドリーセン・ホロウィッツを立ち上げる前はオプスウェア(旧ラウドクラウド)のCEO兼共同創業者を務めた。ラウドクラウドは2007年にヒューレット・パッカードから16億ドルで買収されている。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)でコンピューターサイエンスの修士号を取得。またコロンビア大学でコンピューターサイエンスの学士号を取得している。妻と3人の子供と共にサンフランシスコ・ベイエリアで暮らしている。

本書の要点

  • 要点
    1
    新たに文化をつくるには、いくつかのテクニックがある。すでにうまくいっている部分を生かすことやショッキングなルールをつくること、外部からリーダーシップを取り入れることなどだ。
  • 要点
    2
    文化とは行動の積み重ねである。一日の大半を過ごす会社での行動はその人自身を形づくり、良くも悪くも会社の外にも波及する。
  • 要点
    3
    自分と違うものや脅威からさえも役立つ部分を見出し活用することで、多様性ある文化は生まれる。
  • 要点
    4
    文化づくりには終わりがない。それは組織とともに変化し、進化するものだ。完璧を目指すより、うまくやることのほうが大切だ。

要約

企業文化が大事な理由

悪しき行いはいずれ悪しき文化と化す
Love portrait and love the world/gettyimages

企業文化とは何か。まずここからはじめよう。企業文化とは、トップがいないところで社員が判断の拠り所とする一連の前提をいう。つまり、誰も見ていないときにどう行動するか。それが企業文化である。それがいかに大事かは、次の話を読んでもらえばわかるだろう。

著者がはじめて起業した会社であるラウドクラウドに、ある優秀な中間管理職がいた。彼はマーケティングの専門家らしく話し上手だった。ところが、実態はとんでもないウソつきだということが後に判明した。それまでに会社は何度も彼を昇進させており、社員はそれを見ていた。すると、どうなったか。いつの間にか会社には、ウソをついても許されるという文化が根づいていた。そんなことを許した覚えはないのに。

軍隊では「基準以下の行いを放置しておくと、それが新しい基準になる」と言われる。会社にもそれが当てはまる。日常のちょっとした行いの積み重ねは、会社を繁栄させもするし、滅ぼす要因にもなりうる。心にとめておかなければならないのは、文化は一度つくったら終わりではないということだ。戦略と同様、ビジネス環境に合わせた変化が求められる。百点満点の文化など存在はしない。完璧を目指す必要もない。うまくやる方法をこれから学んでいこう。

【必読ポイント!】 どうやって文化をつくり上げるか

人は簡単に異なる文化規範を受け入れない
Devrimb/gettyimages

世界でただひとり、国家独立につながる奴隷革命を成功させた男がいる。フランスから独立する前のハイチであるサン=ドマングの黒人奴隷、トゥーサン・ルーベルチュールである。身に受けた残虐行為は、人を卑屈な猜疑心の塊に変貌させる。そんな奴隷たちを団結させ戦闘集団に仕立て上げた彼のテクニックに、文化づくりのヒントがある。

ルーベルチュールは農園に奴隷として生まれた。無愛想だが勉強家で、主人の蔵書から政治と戦争の作法や経済の知識を学んだ。革命以前からすでに仲間内では一目置かれる存在だった。その後、農園の法律顧問だった人物に馬車の御者に引き上げられて、給料をもらう立場を得た。人脈も広がりフランス植民地の流儀を理解するようになると、肌の色でなく文化が人々の振る舞いを決めていることに気づいた。

フランス革命の知らせが聞こえてしばらく後、ルーベルチュールはフランスへの反乱軍に参加した。部隊長としてそれを大成功に導いたあとも、狡猾な軍事戦略を駆使してヨーロッパの超大国を次々と打ち破っていった。彼はいったいどんな魔法で、反乱兵たちを強力な軍隊につくり変えたのだろうか。

すでにそこに文化が根づいている場合、それを覆してごっそり新体制に移行させることなどまずできない。人はそう簡単に異なる文化規範を受け入れたりしないからだ。そこでルーベルチュールは元の奴隷文化の強みを生かした。ひとつは奴隷の歌。歌詞の一節が敵にはわからない攻撃の合図となった。また戦争経験者の兵士が知っていたゲリラ戦法を最先端のヨーロッパ戦術と組み合わせ、敵にとって未知の複合部隊をつくり上げるのに役立った。

長続きする文化はショッキングなルールから

軍隊など大きな組織を運営する上で、信頼は不可欠である。信頼とコミュニケーションの量は反比例するからだ。しかし明日をも知れぬ奴隷たちは信頼など持ちえない。そこでルーベルチュールは当時としてはショッキングなルールをつくった。既婚の兵士が妾を持つことを禁じたのだ。強姦や略奪が当たり前の時代に、婚姻の誓いを尊重させたのだった。

文化を長続きさせたいなら、誰もが「マジで?」と聞き返すようなルールをつくるべきだ。それが文化の概念をよく表し、ほぼ毎日使うものであれば、みんなの記憶に残って組織に浸透する。ルーベルチュールは、妻との約束すら守れない者に軍隊の約束が守れるはずがないことを示し、信頼の重要性を認識させた。

ほかにもこの原則を活用した例がある。ニューヨーク・ジャイアンツの監督トム・コフリンは「時間通りは遅刻」というルールを定めた。ミーティングはすべて定刻5分前にはじめ、定刻に来た選手に1000ドルもの罰金を課したのだ。はじめは賛否両論あったが、準備は定刻までに済ませて当たり前ということを意識させるのにうってつけの習慣となった。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグは、「素早く動き、破壊せよ」というドキッとするルールをつくった。既存のコードを犠牲にしてでも前に進めという、スピード重視の戦略をエンジニアに伝えるためのメッセージだった。ただし会社のフェーズが変われば当然ルールも変わる。そのあと「インフラを安定させたまま、素早く動け」というルールになった。

リーダーは思い切って外から雇え
AntonioGuillem/gettyimages

敵を倒すにはまず敵を知らなければならない。フランスを倒すためにルーベルチュールは、白人のフランス兵をも仲間に引き入れ、敵の文化や軍事戦略を自らの軍に役立てた。ビジネスも同様だ。新規事業に参入したければ、新しい市場をよく知るリーダーを外部から呼び込む必要がある。状況に合わせて自分たちを変えられなければ、優れた文化は手に入らない。

著者が創業した当初のラウドクラウドは、引く手あまただったため需要に追いつくことが最優先だった。そこで、社員に権限を委譲し働きやすい職場をつくることに努めた。そうした背景も合って、みなカリフォルニアらしくカジュアルな服装で、おっとりしていた。しかしそれが通用したのはドットコムバブルが弾けるまでだ。エンタープライズソフトウェア企業への転身を余儀なくされ、ライバル企業にコテンパンにされたために、まったく異なる価値観による大胆な文化改革が必要になった。

そんなときに会社の生き残りをかけて雇い入れたのは、新たな事業分野に明るいが、規律の鬼だった。スーツとネクタイを身につけ、負けず嫌いで危機感の強い人物だった。それまでの会社の文化とまったく相容れない人物を外からリーダーとして雇い入れたため、大なり小なり軋轢は生まれた。しかし、彼のもたらした文化によって、4年で会社は救われた。

どうやって文化を根づかせるか

行動が積もり積もって文化となる

いわゆる「企業理念」には意味がない。それはただの信条であって行動が伴わないからだ。文化は行動の積み重ねでつくられる。肝心なのはあなたが何を信じているかではない。何をするかに意味がある。日本文化は「武士道」という行動規範によって基礎が築かれた。約700年間も武士階級が日本を統治できたのは、ひとえにこの簡潔で首尾一貫した包括的なフレームワークがあればこそだ。

武士の規範は8つの徳から構成される。それらは相互に作用し合い、誤解や誤用がないようにシステムとして機能している。本書ではそのなかでも「名誉」「礼」「誠」の3つにフォーカスする。ある人がとる行動はその人自身の「名誉」に影響する。ただ、自分では名誉ある行動をとったつもりでも無作法があれば咎めを受ける。そこで、相手に尊敬と愛を示す「礼」が必要となる。しかし、偽善や二枚舌にとらわれてはいけない。そこで正直さや誠実さ、つまり「誠」が必要となるのだ。

著者がベンチャーキャピタルである「アンドリーセン・ホロウィッツ」を起業した当時、周囲には起業家より自分たちのほうが上だと勘違いしているベンチャーキャピタリストが多かった。「起業家への尊敬」という文化が必要だった。ただし、尊敬という価値観は一旦脇に置いて、時間を守るという誠実な行動に重きを置き、起業家とのミーティングに遅れたら罰金を支払わせることにした。さまざまな努力と訓練は必要だったが、時間厳守に付随して、起業家に敬意を払う名誉ある企業文化が組織に根付くこととなった。

文化は組織の外でも威力を発揮する
Oleg Elkov/gettyimages

文化をつくるのが難しい場所はどこだろう。「約束を守る」といった共通のルールが通用しない刑務所は、間違いなくそうした場所のひとつだ。殺人の罪によりアメリカの刑務所に服役したシャカ・サンゴールは、そこで新たな文化を築いた。

サンゴールが入った刑務所には5つのギャング団があった。どこにも所属しない新人はつけ込まれるため、そのうちの小さなギャング団に入った。仲間内の暴力を禁ずるなど掟の厳しさで有名だったが、現実にはリーダー自ら恐喝に手を染めたりしていた。理想のリーダー像を団員に説くうちに、サンゴールの考えに賛同する者が増えていった。

団を率いる立場に立ったサンゴールは、規律と絆を重視した。相手を貶める言動を禁じ、清潔な服を身につけ、毎日運動して一緒に食事をすることを徹底したのだ。そうするうちに、団員たちのあいだには厚い忠誠心とコミットメントが芽生えた。

企業文化が組織の中だけのものだと考える人は多い。しかし現実はそう単純ではない。一日の大半を過ごす職場での行動はその人自身を形づくる。会社でみんなが汚い言葉を使っていれば、社員は家に帰っても汚い言葉を使う。組織の文化はすべてに波及するのだ。

サンゴールは、刑務所内の文化を変えただけではなかった。囚人たちが出所したあとの行動をも変えた。そして、これからの子どもたちが刑務所に入ることがないよう、よりよい環境をつくろうとしていた。

昨日の敵は今日の多様性を導く

人は自分と違うものをやすやすと受け入れたりしない。それが脅威となりうるものならなおさらだ。だが、そうしたものを恐れず、才能を見出し、自らの目標に役立てたのがチンギス・ハンであった。多様性を生かし小さなリソースで大きな帝国をつくり上げたその手腕を見てみよう。

まずチンギスの戦術は「素早い侵攻」だった。当時の軍隊は、リーダー以外はぞろぞろと歩いて移動するのが普通であったが、チンギスはみなに平等に馬を与え、物資供給部隊を置かずに必要なものは各自で準備し運ばせた。そのためチンギスの軍は機動性が高く敏捷で、ときには自分たちより大きな軍隊を打ち破ることも少なくなかった。

チンギスが築いた文化は、実力主義、忠誠心、多様性の3本柱で成り立っていた。階級制度を廃止し、リーダーになるために必要なのは血縁ではなく個人の能力と勇気、知性だと示した。そして、忠誠心は兵士だけに求められるものでなく、統治する側も自らが率いる兵士に対して持つべきものと考えていた。60年間ひとりも裏切り者は出なかった。また多様性の面では、負けた敵兵を自軍に引き入れるだけでなく、ことさら厚遇することでチンギスへの確固たる忠誠心を得ることに成功していた。

こうしてでき上がった盤石な文化は、チンギスが死してなお150年ものあいだ帝国を存続させたのだ。

理想の文化をつくるのに大事なこと

自分らしくうまくやる

文化は、他人のやり方をまねてもうまくいかない。まずリーダーが自分らしくあることが大事だ。上司の立場になったからといって自らの信念にそぐわない理想を掲げても、あなたの魅力がなくなるだけで人を導くことはできない。全員に好かれることはないのだから、自分でも消化できない誰かの理想や成功に無理に合わせる必要はない。そして、リーダーの感性と習慣を文化に反映する。そうでなくては文化に命は宿らない。

また文化は、戦略と比べるものではない。共存すべきものである。たとえば、すべての兵士に同じ役割を与えたチンギス・ハンの軍事戦略は、彼の平等主義の文化にぴったりだ。シャカ・サンゴールは小さなギャング団を率いていたため、強い仲間意識に支えられた文化をつくった。フェイスブックはイノベーションのスピードが勝敗を決すると思ったからこそ、「素早く動いて、破壊しろ」をモットーにした。あなたの企業戦略に役立つ文化を選んでみよう。

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要約公開日 2020.06.02
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