政府・日銀の大胆な金融緩和政策にもかかわらず、いつまでたってもデフレから脱却ができず、先進国の中で唯一経済成長していない国、日本。
この問題は「人口減少」に由来している。日本では、他の先進国と比べものにならないスピードと規模で人口が減っていることで、人口増加を前提とした従来の経済学では現状に対処できなくなっているのだ。
さらに、低成長には「生産性の低さ」も大きく影響している。日本の生産性は、1990年には世界9位であったのに、いまでは28位まで下がっており、先進国として最低水準である。「生産性」というと、効率の良し悪しや残業について言及されがちだが、生産性=一人あたりのGDPである。生産性とは労働者の給料や企業の利益、政府などが受け取る税金などの「お金」のことだ。
GDPとは「人口×その国の生産性」であるから、人口が減少する日本でも生産性を高めることができれば、GDPを大きくできる可能性がある。
一方で、日本経済のほとんどは個人消費が占めている。個人消費の源は、「賃金」だ。人口が減少する中で個人消費を維持しようと思ったら、一人ひとりの賃金を上げていくしかない。
しかし、日本では賃金水準が下がっているという現象がある。まず、日本の最低賃金は他の先進国と比べて驚くほど低い。そして、増加した非正規雇用と働く女性が最低賃金およびそれに近い水準で働いているケースが多いため、そのような現象が起きているのだ。
低い賃金は、生産性が増大しない理由のひとつでもあり、また、日本経済の根幹をなす個人消費も冷え込ませている。だからこそ、日本の最低賃金を引き上げることは重要であり、それは生産性向上の原動力にもなるはずなのだ。
日本の「生産性向上」を阻んでいるものは何なのか。著者は、それは日本企業の99・7%を占め、日本経済を支えると言われてきた357万の「中小企業」なのだという。
一般に、生産性を改善する方策としては、女性活躍、最先端技術、AI、ロボット、社員教育などが挙げられる。しかし、たとえば女性活躍にしても、今まで女性の活躍が進んでいなかったことには根本的な原因や構造がある。企業の規模が大きくなり、人材マネジメントに余裕があるほど、女性の活躍は活発になる。ひるがえって、「中小規模が多い社会」は「女性が活躍しにくい社会」になる。
また、最先端技術の導入にしても、普及が阻まれてきた背景がある。企業の規模が小さければ、技術を買うお金もなく、買うつもりもなく、「効率の悪い方法でもやろうと思えばやれてしまう」。そのため、小さな企業が多ければ、最先端技術の普及が遅れてしまうのである。
こうして、生産性向上の方策が機能しない原因をたどっていくと、すべて「中小企業が多すぎる」ことに行きつく。つまり、人口増加による経済成長が期待できない日本が、生産性を向上していくためのグランドデザインの中核は、日本中の会社の規模を大きくしていくことなのである。
生産性以外の日本の経済的な評価を見てみると、人材評価は世界4位、国際競争力は5位である。しかし生産性は28位であり、労働者の給料も低く、生活水準も低い。
日本と生産性がそれほど変わらない国にイタリアとスペインがある。すると、イタリアとスペインと日本との間に、生産性に影響を及ぼす経済的な共通点があるのだろうか。
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