日本列島回復論
この国で生き続けるために

未 読
日本列島回復論
ジャンル
著者
井上岳一
出版社
定価
1,400円 (税抜)
出版日
2019年10月25日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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日本列島回復論
日本列島回復論
この国で生き続けるために
著者
井上岳一
未 読
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定価
1,400円 (税抜)
出版日
2019年10月25日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
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レビュー

日本経済は長らく停滞しており、世界的な地位が低下している――このような論考を目にする機会が最近増えている。最近は「日本は凄い」と自賛するテレビ番組が数え切れないほど放送されているが、それも日本人が自信を喪失した裏返しと言えるだろう。本書でも指摘されているとおり、企業が生き残るために労働者の賃金上昇を犠牲にした結果、貧困が増え、格差は広がった。そして社会保障システムの崩壊により、将来への不安を抱え、希望を持てない人が増えている。それが現代の日本だ。これまで拡大、成長してきた経済が、衰退のフェーズに入りつつあるということが、目に見えて実感できるようになってきている。

人口減少の時代において、いままでと同じやり方を続けても経済成長は難しい。だが経済成長なくして、税収増や増税は見込めない。このままでは福祉もインフラ維持もままならぬまま、高齢化・過疎化した地方から、日本社会は崩壊してしまう。そうした不安に対して、本書は地方に豊かに存在している山水の恵みこそ、日本に希望をもたらすと提起している。

日本列島の長い歴史から見れば、平野部や都市に人が多く住むようになったのは最近のことであり、昔から日本人は里山に住み続けてきた。近代的な成長モデルからの脱却が迫られている現代において、本書が紡ぐような新しい社会の物語が必要とされている、そう予感させてくれる一冊である。

大賀祐樹

著者

井上岳一 (いのうえ たけかず)
(株)日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。1994年東京大学農学部卒業。Yale大学修士(経済学)。林野庁、Cassina IXCを経て、2003年に日本総合研究所に入社。森のように多様で持続可能な社会システムの実現をめざし、官民双方の水先案内人としてインキュベーション活動に従事。現在の注力テーマは「ローカルDXによる公共のリノベーション」。共著書に『Maas』(日経BP社)、『公共IoT』(日刊工業新聞社)、『AI自治体』(学陽書房)等がある。南相馬市復興アドバイザー。

本書の要点

  • 要点
    1
    土建国家モデルはインフラ整備だけでなく、社会保障としての機能を持っていた。ゆえに土建国家モデルの崩壊は、そのまま社会保障の崩壊を意味している。
  • 要点
    2
    里山には共同体の絆、豊かな山野河海の恵みがあり、震災時にはセーフティネットとして機能した。日本列島の山水郷にこそ、究極のセーフティネットがある。
  • 要点
    3
    近年、都会から山水郷に移住する若者や、研究拠点や本社機能を移転させる企業が増えている。地方で暮らし、働くことはかえって合理的と考えるからだ。
  • 要点
    4
    中央で立身出世するという物語とは違う、新しい社会の物語がいま必要とされている。

要約

日本型社会保障システムの崩壊

列島改造ではなく列島回復を
Blue Planet Studio/gettyimages

田中角栄の『日本列島改造論』は、経済成長に置き去りにされる地方の問題に真正面から向き合った、真摯な論考だった。国土を大改造することによる均衡ある発展や、交通や通信の意味を見通した田中角栄の慧眼には、心から敬服させられる。しかし山を削り、海を埋め立てて道路をつくる列島改造の論理では、地方の現実を変えられず、むしろ道路をつくるほど人が出ていくという皮肉に苦しむようになる。

では改造でなければどんな方法があるのか。それを考えるうえで参考になるのが、障がい者のケアにおける回復(リカバリー)の考え方だ。そこでは、障がいはハンディではなくアイデンティティであり、障がいを受け入れ、新しい人生の物語を編み上げてゆく過程こそが回復だとされる。いまの日本に求められているのは、このような意味における回復なのではないだろうか。

改造の論理の根底にあるのは自己否定である。しかし否定でも改造でもなく、共に生きようとする努力の先に、この国ならではの未来があるはずだ。列島改造から列島回復へ――新しい社会の物語を編みだすことがいま求められている。

土建国家による社会保障が崩れたとき

日本がこれまで比較的平等な社会を築けてきたのは、公共事業を通じた地方と低所得層への再分配という、「土建国家モデル」が存在していたからだ。土建国家モデルには、社会保障政策の充実、公共事業を通じた地方と低所得者への所得の再分配、減税による中間層への所得還付という、社会保障システムとしての意味合いがあった。欧州各国がソフト面を中心に福祉を拡充し、「福祉国家」化していったのとは対照的に、日本はハード中心・公共事業偏重の「土建国家」と化していった。再分配にせよ、所得還付にせよ、その前提にあったのは雇用である。土建国家モデルとは、所得があることを前提に成立した社会保障システムと言える。

しかし土建国家モデルが破綻すると、地方と低所得者層への再分配が困難になり、中間層への減税による所得還付もなくなって、不十分な公的サービスだけが残された。再分配ができなくなれば格差は拡大し、社会の分断は進行する。雇用が空洞化することで、稼ぎをセーフティネットにしてきた社会保障システム自体が機能しなくなった。

国土はコンクリートで埋め尽くされたが、インフラは老朽化し、メンテナンスのための財源もない。土建国家モデルが破綻したあとに残された負の遺産に、私たちはどのように向き合っていけばよいのだろうか。

豊かな山野河海に恵まれた日本列島

震災を乗り越える孤立集落の絆
Vectorig/gettyimages

バブル崩壊後、新自由主義的な経済運営が行われ、「お金がすべて」的な価値観が広がっていった。一方でそれとは裏腹に、若い人達を中心に“つながり”への希求が急速に高まっていった。そして東日本大震災によって、その傾向は一層強まっていく。

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