本書の要点

  • 世界の流れとして、テキストから動画へと移行していっている。若い世代はすでに学習や情報収集にも動画を活用している。

  • 中国だとTikTokは若者向けサービスではなく、あらゆる層が「動画」に親しむようになっている。

  • 人気のコンテンツは「映え」から、日常を切り取った力の抜けたものへとシフトしている。

  • TikTokでは15秒~1分と短い動画が主流だ。この短さが見る側、投稿する側、双方のハードルを下げ、コンテンツの多様性を生んでいる。

  • 中国ではショートムービーを利用したインフルエンサー・マーケティングが主流になっている。今後は日本でも注目されるだろう。

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【必読ポイント!】 世界を席巻するTikTok

中国全土が「動画の国」化している

スマートフォンの普及とともに、中国社会を一変させた2つの革命がある。キャッシュレス革命と動画革命だ。中国では多くの人が空き時間に短尺の動画を見て過ごしている。これは特定の地方や都市だけでの現象ではない。中国全土が「動画の国」と化しているのだ。中国には政府による情報管理システムがあり、外国のサービスやコンテンツが遮断されてきた。これによりGAFAを始めとするIT先進企業は、中国への本格的な進出を断念していた。その結果、中国では14億人という世界最大の市場で無数のスタートアップが登場し、独自のイノベーションが進んでいったのだ。その「チャイナ・イノベーション」の最前線に存在するのが、動画配信サービスであるTikTokである。

すべてが「動画化」する

metamorworks/gettyimages

TikTokは中国のメディア企業であるバイトダンス社が運営する、15~60秒のショートムービーを投稿・閲覧できるSNSだ。日本では「若者だけが使っているSNS」というイメージが強い。しかしTikTokは、FacebookやTwitter、Instagramなどを超えて世界最強のSNSとなる可能性を持つサービスだ。いま世界的に、テキストから画像・動画へとシフトする流れがある。文字よりも画像、画像よりも動きのある動画と、人々はより情報量の多いコンテンツを求めている。すべてのサービスが動画化していく流れがすでに発生している。テキストは「ポータビリティ」、つまり持ち運びやすさにおいて動画よりも優位性を保っていた。だがスマートフォンの普及により、それも崩れた。またテキストのもうひとつのメリットとして、「時間のコントロール権がユーザーにあること」も挙げられていたが、これも動画の編集技術の高まりや倍速再生機能の充実などにより解消されつつある。動画がテキストの強みを奪っているのである。中国では、すでに動画がテキスト優位だった分野に侵食している。学習や商品レビューなどの情報収集の際には、当たり前のように動画が利用されている。

「検索型」から「レコメンド型」へ

Mykyta Dolmatov/gettyimages

TikTokの最大の特徴は、「レコメンド機能」だ。ユーザーは、自分で見たい動画を探す必要すらない。何もしなくとも、コンテンツが次々と表示されるからだ。これはバイトダンス社が誇る、強力な機械学習技術によるものである。視聴者ごとに最適化された動画がレコメンドされ、しかもユーザーがTikTokを使えば使うほど精度が高まる。TikTokは検索よりもレコメンドに振り切った珍しいサービスだ。業界全体でも、「検索」から「レコメンド」へと変化する動きが起きている。TikTokのレコメンドのシステムは、「クリエイターのフォロワー数によらず、優良なコンテンツを評価し、適切なユーザーに届ける」という理念で設計されている。そのためフォロワーがまったくいないクリエイターにも、注目されるチャンスがある。これはフォロワー数が絶対的な意味を持つ他のSNSとは大きく異なる。この強力なレコメンド機能の背景には、バイトダンス社がニュースアプリで培った機械学習技術がある。GAFAのサービスだと、レコメンド技術はサービスの補助的な機能にすぎなかった。だがTikTokでは、レコメンド技術そのものが会社の主軸となっている。

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世界を飲み込むTikTok

リフトアップが日本での課題

新しいサービスを開始する際は、まず新しいものに親しみやすい10代のユーザーを取り込むのがセオリーだ。若い層で流行すればビジネスとして注目が集まるようになり、上の世代も取り込める。これをリフトアップと呼ぶ。

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要約公開日 2020.02.17
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