人口減少社会のデザイン

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人口減少社会のデザイン
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2019年10月03日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「2050年、日本は持続可能か?」これが本書のテーマだ。日本はいま危機的状況にあるが、それをどれだけの日本人が自覚しているだろうか。政府の債務残高は1000兆円にのぼり、格差が拡大。貧困層が増え、人々は所属するコミュニティを失い、社会的に孤立している。日本の現状は「持続可能性」とはほど遠い。

こうした状況を打開するには、社会のデザインを変えていかなければならない。著者は東京などの大都市にすべてを集中させるのではなく、地方に生活の拠点を分散させていくことが重要だと主張している。地域で経済が循環し、ゆるやかなコミュニティ的つながりが感じられる社会を構築する、人々の生活の質や幸福度が上がるような都市設計だ。ローカルから出発し、それをナショナル、グローバルと積み上げていくのが、今後の世界標準のスタイルとなっていくという予想である。

日本はいまだ「景気回復によっていずれすべての問題が解決する」という幻想を捨てきれていない。しかし問題はもっと根本的なところにある。社会の在り方そのものを変えていかなければ、日本は持続可能にならないだろう。

日本に住む人にとって、これは他人事ではまったくない。ここに述べられている危機的状況は他でもない、私たちが暮らしているこの国の話なのである。

ライター画像
池田明季哉

著者

広井 良典(ひろい よしのり)
京都大学こころの未来研究センター教授。1961年岡山市生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了後、厚生省勤務を経て96年より千葉大学法経学部助教授、2003年より同教授。この間マサチューセッツ工科大学(MIT)客員研究員。16年4月より現職。専攻は公共政策及び科学哲学。社会保障や環境、医療、都市・地域に関する政策研究から、時間、ケア、死生観等をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞。その他の著書に『ケアを問いなおす』『死生観を問いなおす』『持続可能な福祉社会』(以上、ちくま新書)、『日本の社会保障』(第40回エコノミスト賞受賞)『定常型社会』『ポスト資本主義』(以上、岩波新書)、『生命の政治学』(岩波書店)、『ケア学』(医学書院)、『人口減少社会という希望』(朝日選書)など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    現在の日本社会は「持続可能性」という点で危機的状況にある。政府財政のひっ迫、格差拡大による少子化と人口減少、コミュニティの崩壊などが問題視されており、これらを解決するには「地方分散型」社会がカギとなる。
  • 要点
    2
    人口増加の時代は拡大・成長の時代だが、人口減少の時代は環境と福祉の時代である。人口減少社会はかならずしもネガティブな影響ばかりを与えるのではなく、ポジティブな可能性もそこに見出せる。
  • 要点
    3
    人口減少社会では、それぞれの地域が持つ固有の価値や風土的・文化的多様性への人々の関心が高まっていき、「ローカル志向」が浸透していく。

要約

【必読ポイント!】 人口減少社会の到来

日本の「持続可能性」は危機的
recep-bg/gettyimages

現在の日本社会は「持続可能性」という点において、危機的と言わざるを得ない。まず財政的な問題がある。政府の債務残高は1000兆円と、国際的に見ても際立って高い。これは膨大な借金を将来世代にツケとして残しているということである。格差拡大と人口減少も問題だ。現在はとくに若者の雇用や生活が不安定になっている。これが未婚化・晩婚化の背景となり、少子化を招いている。さらに現代日本人には「つながり」を失い、社会的に孤立している人が多い。日本にかつてあった農村社会などの共同体が崩壊した一方で、いまだそれに代わるコミュニティが構築できていないのだ。

日本社会の持続可能性を維持するシナリオとしては、「都市集中型」か「地方分散型」が考えられる。「都市集中型」のシナリオの場合、都市の企業が主導する技術革新により、人口が都市に一極集中し、地方は衰退する。出生率の低下と格差の拡大がさらに進行し、個人の健康寿命や幸福感は低下するだろう。その一方で、政府支出が都市に集中することにより、政府の財政は持ち直すと想定される。

「地方分散型」シナリオでは、地方への人口分散が起き、出生率が回復する。格差が縮小し、個人の健康寿命や幸福感が増大する。ただしこのシナリオは、政府の財政や環境を悪化させる可能性がある。ドイツなどヨーロッパでは、すでに地方分散型の都市デザインが進んでいる。

日本の持続可能性を維持するには、地方分散型社会が望ましいというのが著者の考えだ。

人口減少社会が秘めるポジティブな可能性

2005年、日本の人口は初めて減少に転じた。2008年をピークに、2011年以降は減少し続けている。人口減少社会にはさまざまな問題があるが、いまは文字通りの「ターニング・ポイント」であり、「真の豊かさ」に向けた新たな出発の時代とも言える。

急激な人口増加の時代は、日本社会が集団で一本の道を登る時代と表現できる。それは画一化が進み、集団の同調圧力が強い時代だ。一方で人口減少社会は、このような強力で一元的なベクトルから人々が解放された時代である。元号と結び付けて考えるならば、昭和が人口増加とともに「限りない拡大・成長」を志向した時代、平成がバブル崩壊や人口減少社会へ移行した変容の時代だったといえる。そして令和は本格化する人口減少に向き合いつつ、そこにいくつものポジティブな可能性を見出し、成熟社会の真の豊かさを実現する時代として捉えるべきだろう。

都市から地域へ
shtonado/gettyimages

近年「幸福」というテーマが、さまざまな分野で関心を集めている。複数の社会的指標を組み合わせ、各国の幸福度を評価する試みが行われているが、幸福度において日本は低いポジションにある。その原因として考えられるのが、「社会的サポート」や「多様性」という項目におけるパフォーマンスの低さだ。日本は経済的、物質的な豊かさを追求するなかで、大事なものをないがしろにしてきたのではないか。

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要約公開日 2020.02.06
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