ピボット・ストラテジー
ピボット・ストラテジー
未来をつくる経営軸の定め方、動かし方
ピボット・ストラテジー
ジャンル
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2019年10月17日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

そもそもピボット(Pivot)とは何だろうか? 辞書をひくと、「旋回軸、てこの支点、スポーツでの軸足を中心とした回転」といった言葉がでてくる。そこから転じて、ビジネスでは「方向転換」という意味で使われる。

2014年、アクセンチュアの経営陣は、新しいテクノロジーによって自社のビジネスが創造的破壊の波にさらわれ、コモディティ化しつつあることを理解した。ここから後に「賢明なピボット(Wise Pivot)」と呼ばれるようになる、継続的な事業の「再構築」が始まった。それはいまの言葉でいえば、デジタル・トランスフォーメーション(DX)に他ならない。このピボット(方向転換)によって、結果としてアクセンチュアは脅威をチャンスに変えることに成功した。そして学んだ教訓を、多くのクライアントにサービスとして提供するようになった。そのコンセプトが、本書のタイトルにもなっている「ピボット・ストラテジー」である。

ピボット・ストラテジーを一言で表すなら、「動的なポートフォリオの管理」だ。ポイントとなるのは、「未来の事業」に投資するのはもちろんのこと、「過去」と「現在」の事業にも新しいテクノロジーを導入し、さらなる成長を実現することである。そこで重要になるのはイノベーションであり、投資のバランスであり、人材だ。

本書はDXの教科書としても出色と言えるだろう。「何ができるのか?」の羅列に終始するのではなく、「何のためにDXを行うのか?」といった本質的な問いかけをしてくれる一冊である。

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しいたに

著者

オマール・アボッシュ (Omar Abbosh)
アクセンチュアの通信・メディア・ハイテク本部でグループ最高責任者を務める。それ以前はアクセンチュアのCSO(最高戦略責任者)を務め、戦略と投資のあらゆる面を監督し、アクセンチュア・セキュリティ、ダブリン・センター・フォー・イノベーション(The Dock)、またアクセンチュアのベンチャー&アクイジション、インダストリー・プログラム、リサーチ、コーポレート・シチズンシップの運営を担当していた。アクセンチュアのグローバル経営委員会のメンバーも務めている。

ポール・ヌーンズ (Paul Nunes)
アクセンチュア・リサーチにおいてソート・リーダーシップのグローバル・マネジング・ディレクターを務める。社内において、テクノロジーと戦略的事業改革に関する画期的な知見の開発を監督している。また著書に、Big Bang Disruption: Strategy in the Age of Devastating Innovation(邦訳『ビッグバン・イノベーション――一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ』共著、ダイヤモンド社)、Jumping the S-Curve: How to Beat the Growth Cycle, Get on Top, and Stay There(『S字曲線を飛び越える――成長サイクルを乗り越え、支配し、留まる方法』共著、未邦訳)、Mass Affluence: Seven New Rules of Marketing to Today’s Consumer(『大きく繁栄する――今日の消費者に対するマーケティングを成功させる7つの新しいルール』共著、未邦訳)がある。

ラリー・ダウンズ (Larry Downes)
創造的破壊をもたらすイノベーションの時代におけるビジネス戦略開発の専門家であり、アクセンチュア・リサーチでシニア・フェローを務める。Big Bang Disruption: Strategy in the Age of Devastating Innovation(邦訳『ビッグバン・イノベーション――一夜にして爆発的成長から衰退に転じる超破壊的変化から生き延びよ』共著、ダイヤモンド社)、The Laws of Disruption: Harnessing the New Forces that Govern Life and Business in the Digital Age(『創造的破壊の法則――デジタル時代におけるビジネスと生活を支配する新しい力を利用する』、未邦訳)、Unleashing the Killer App: Digital Strategies for Market Dominance(『キラーアプリを活用する――マーケット支配に向けたデジタル戦略』共著、未邦訳)など、数多くの著書がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    新しいテクノロジーは、潜在的な収益価値を膨らませて、現実のビジネスとの間でギャップを生む。そのギャップを解消するのが創造的破壊である。
  • 要点
    2
    「圧縮型創造的破壊」が、数多くの既存業界で起こっている。それはゆっくりと市場を蝕んでいく継続的な破壊であり、それをまぬがれるためには事業の「継続的な再構築」が欠かせない。
  • 要点
    3
    「賢明なピボット」によって、過去の事業に第2の人生を与え、現在の「金のなる木」を「花形」に変身させる。そしてそこから得た利益を未来の事業に投じていくことで、継続的な成長を実現できる。

要約

潜在している価値を解き放つ

潜在的なベネフィット

まず理解するべき概念が「Trapped Value(潜在的収益価値:本来手にしていてもおかしくない潜在的な収益価値)」だ。これは新しいテクノロジーが提供する可能性のある、潜在的なベネフィットを指す。テクノロジーは次々と進化し、この潜在的な価値を膨らませていく。だがリアルのビジネスが、かならずしもその進化に追随するわけではない。多くのケースでそこにギャップが生じ、それがどんどん広がっていく。これが潜在的収益価値の「ギャップ」である。

たとえば組織内の情報共有ツールであるグループウェアを導入すれば、オフィスの効率は格段に向上する。しかし古参社員の理解が得られず、なかなか導入が進まない。ここに、導入すれば達成されるはずの効率化が、獲得されない潜在的なベネフィットとして膨らんでくる。これがギャップのある状態であり、これを解放することができれば、その企業は大きなベネフィットを手にすることができる。

企業、業界、消費者、社会

潜在的収益価値は、「自社内に内在する価値(企業)」、「自社に関連する産業に内在する価値(業界)」、「消費者に内在する価値(消費者)」、「自社が帰属する社会に内在する価値(社会)」の4つに分けられる。

企業のレベルだと、先程のグループウェアの例のように、後ろ向きの組織風土や競合他社に比べて遅れているITシステム、官僚制や時代遅れのプロセスといった形を取る非効率性が、この潜在的な価値を膨らませている。

業界の場合、電気自動車の充電ステーションなど、共有インフラに関する協力や必要な投資が欠けているのが、潜在的な価値に当たる。

消費者においては、貧弱な顧客サービス、高い価格、少ない選択肢が放置されているようなケースが該当する。アマゾンは、テクノロジーの進化によって消費者が手にしてもおかしくなかった利便性を、既存の小売にかわって解放した。

社会を見ると、きれいな水、信頼できるエネルギー、通信など、人間の基本的なニーズにアクセスできていない人々が少なくない。そのような人々の生活環境を改善し、その過程で莫大な収益を生み出すことができるテクノロジーは存在する。しかしそのような広大な市場に焦点を当てている企業はほとんどない。

2つの創造的破壊と7つの勝利戦略

アップルが音楽や携帯電話の市場で実現したこと、アマゾンが小売業で変革したことは、この潜在的収益価値の解放である。どちらも既存の企業ではできなかったように、価値の解放には新興企業のほうが有利に見える。こうした一夜にして変わるような市場破壊を「ビッグバン型創造的破壊」と呼ぶ。

一方でエネルギー、金融、材料などの資産集約型の業界で、より大規模で、より目立たない形でゆっくりと進む創造的破壊もある。それが「圧縮型創造的破壊」だ。こうした業界では、その症状は利益率の低下として表れ、それが本格的に始まると元に戻ることはできない。じつは2014年にアクセンチュアが直面していたのも、この圧縮型創造的破壊だった。

問題は、創造的破壊が徐々に進行している間に、潜在的収益価値のギャップがじわじわと広がっていくことである。

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要約公開日 2020.02.14
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