P&Gウェイ

世界最大の消費財メーカーP&Gのブランディングの軌跡
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P&Gが製造業として、ブランド戦略を軸に据えながら、大量生産体制を確立してワールドワイドに展開する過程を描く本書は、単なるP&Gの歴史書ではない。P&Gの経験や実践を通じて、ブランド構築の基本、そして経営の本質を学ぶことができる。P&Gという企業は、間違いなく、今日まで経営学が発展する礎となった企業の一つといえるだろう。

本書を一読して思い浮かんだのは、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることが出来るのは、変化できる者である」というダーウィンの言葉だ。P&Gは、リスクを恐れず積極果敢に「変化」を積み重ねて、巨大なグローバル企業に成長したのだ。ここ日本でも、P&Gは試行錯誤を繰り返しながら、パンパースやアリエール、ファブリーズ、パンテーン、ヴィックス ヴェポラッブ、ウィスパー、プリングルズといったブランドを定着させた。

2020年を迎えた今、経営環境は劇的に変化し、消費者ニーズは多様化し、インターネット販売はますます拡大している。GAFAに代表されるハイテク企業に注目が集まっているが、160年以上にわたって時代の荒波を乗り越えてきた消費財メーカーから学ぶべきことは多いはずだ。この新しい時代に、P&Gはどのように適応し、これからどのような新しい経営を形づくっていくのだろうか。改めて、P&Gの今後にも注目していきたい。

ライター画像
香川大輔

著者

デーヴィス・ダイアー(Davis Dyer)
マサチューセッツ州ケンブリッジに本部を置き、歴史・記録文書の保管サービスを提供したコンサルティング企業であるウィンスロップ・グループの共同創設者兼理事。『ハーバード・ビジネス・レビュー』の元アソシエイトエディターであり、企業戦略について広くコンサルティングを行っている。共著書に、Changing Fortunes: Remaking the Industrial Corporation(共著、Wiley)、The Generations of Corning: The Life and Times of a Global Corporation(Oxford University Press)、Performance Without Compromise: How Emerson Consistently Achieves Winning Results(Harvard Business Review Press)などがある。

フレデリック・ダルゼル(Frederick Dalzell)
ウィンスロップ・グループ シニアコンサルタント。金融サービス、消費財、製造、教育などの分野で活躍。米国文明の研究によりハーバード大学から博士号を取得。ハーバード・ビジネススクール元研究員。著書にEngineering Invention: Frank J. Sprague and the U.S. Electrical Industry(The MIT Press)、Changing Fortunes: Remaking the Industrial Corporation(共著、Wiley)などがある。

ロウェナ・オレガリオ(Rowena Olegario)
オックスフォード大学コーポレート・レピュテーションセンター研究員。イェール大学で歴史学学士、ハーバード大学で歴史学博士を取得。ヴァンダービルト大学の歴史学助教授を経て現職。著書にA Culture of Credit: Embedding Trust and Transparency in American Business(Harvard University Press)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    石鹸とローソクのメーカーとしてシンシナティで産声を上げたP&Gは、石鹸のアイボリーと洗濯用洗剤のタイドを通じてブランド戦略を身につけ、競争優位を築いた。
  • 要点
    2
    企業買収など通じて総合的な家庭用消費財メーカーへと変貌を遂げたP&Gは、海外進出に乗り出し更なる事業の拡大へと邁進した。
  • 要点
    3
    急拡大するグローバル市場や急速な経営環境の変化に対応するために、P&Gは組織やサプライチェーンの改革に乗り出し、市場での地位をさらに高めた。

要約

黎明期(1837年~1945年)

P&Gの創業

世界最大の消費財メーカーの一つであるプロクター&ギャンブル(P&G)の誕生は、1837年に遡る。石鹸とローソクのメーカーとしてシンシナティで産声を上げたP&Gは、手工業から工場生産に移行する時代の波に乗り、大量生産体制を整えて事業を伸ばしていった。そして、蒸気船を使った物流網や鉄道網の拡大により順調に商圏を広げた。

P&Gを更なる成長軌道に乗せるきっかけとなったのが南北戦争である。P&Gは、北軍に石鹸とローソクを供給するという大型契約を、政府と締結したのだ。こうして、南北戦争前に数万ドルであった売上は、終戦後には100万ドル規模にまで達した。この頃のP&Gは、大量の受注に対応する中でも、製品の研究を定期的に継続していた。こうした努力が、後の大ヒット商品へとつながっていった。

アイボリー――ブランドマネジメントの始まり
Kurgu128/gettyimages

ビジネスの中核であったローソク市場が縮小する中、P&Gは、アイボリーと名づけた石鹸を世に送り出す。石鹸市場で十分に差別化されたこの製品は、P&Gがブランド構築の優良企業へと変貌していくきっかけとなった。P&Gは、雑誌広告を通じて、P&Gではなくアイボリーを売り込んだ。そして、消費者に直接コミュニケーションすることで、アイボリーと消費者との新しい関係性を構築することに成功した。ブランド力でマスマーケティングに切り込んでいくというこの手法は、その後の同社の基本的な戦術となる。ブランドがどのように機能するのか、P&Gは実験と分析を繰り返しながら、理解していった。

アイボリーの成功で米国最大の石鹸メーカーになったP&Gは、1891年に株式公開に踏み切る。株式公開をきっかけに、P&Gは次々と企業基盤を確立する施策を打ち出していく。なかでもP&Gが競争優位を獲得する上で重要だったのは、ブランディングに関する施策だ。最終的にP&Gは、ブランドの開発に始まり、製造、マーケティング、営業、物流に至るまでの一連のプロセスを調和させるために、ブランドマネジメントという概念を組織として実現していった。

タイドの大成功

粘り強い研究開発により誕生した洗濯用洗剤タイドは、P&Gを躍進させることになる。タイドの成功を確信した経営陣は、テストマーケティングプロセスを省いて、市場への早期投入を決断する。大規模な設備投資で、生産体制も先行して確立した。このような、リスクを恐れず先行者利益を得ようとする経営方針は、タイドの大旋風を巻き起こした。タイドの大成功は、P&Gをさらなる成長軌道に乗せていくことになった。

P&G流マーケティングの確立(1945年~1980年)

総合的な家庭用消費財メーカーへの変貌
metamorworks/gettyimages

タイドの記録的な成功で安定的な財務基盤を獲得したP&Gは、これまでに培ったブランド構築能力を活用して、次々と新商品を送り出した。第二次世界大戦後の好景気も追い風となり、石鹸、洗剤、歯磨き、シャンプー分野で事業を順調に拡大させた。この頃、10年ごとに売上を倍増するという秘めた目標を掲げていたP&Gは、新しい消費財分野へ参入するために企業買収に動き出す。P&Gの既存事業との技術的関連性が深い事業を展開する企業を買収の標的にし、紙製品と食品カテゴリーの事業を拡充させたP&Gは、総合的な家庭用消費財メーカーへと変貌を遂げていった。

テレビ広告も効果的に活用しながら、米国で事業を拡大させたP&Gは、いよいよ海外進出に乗り出す。南米を皮切りに、ヨーロッパへ進出し、1980年になると日本を含めた22か国で事業を展開する多国籍企業に成長した。

その一方で、P&Gは、面倒な社会的・政治的な制約を受けるようになった。独占禁止法が強化されたため、同業種の企業買収や統合が難しくなった。環境保護主義の台頭も、洗剤を販売するP&Gには逆風となった。

成長期を支えたクレストとパンパース

フッ素配合の歯磨き粉クレストは、研究開発と、米国歯科医師会(ADA)の認定を取得するための活動が実を結んだブランドである。フッ素の有効性を示すための臨床試験を繰り返して粘り強くADAと交渉し、

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