無形資産が経済を支配する

資本のない資本主義の正体
未読
無形資産が経済を支配する
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資本のない資本主義の正体
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無形資産が経済を支配する
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2020年01月30日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書のタイトルにもある「無形資産」とは、アイデアや知識、社会関係などを指し、現在のビジネスの立役者ともいえる存在である。しかし企業の財務諸表のどこを見ても、これらは見つからない。せいぜい研究開発費が開示されているくらいだ。

本書は無形資産について、これまで深く考えてこなかった私たちの虚を突いてくる。著者らの試算によると、米国では1990年代半ばに、無形資産に対する投資(無形投資)が有形資産に対する投資(有形投資)を上回ったらしい。しかも本書によると、興味深いことに、無形投資は有形投資にはない振る舞いをすることで、経済にさまざまな影響を与えているという。GAFAのような独占企業の出現もその一例だ。

さらにこうした無形資産の持つ特徴から、長期停滞や経済格差といった社会課題の説明も試みている。たとえば2008年の金融危機(いわゆるリーマンショック)以降の長期停滞も、無形投資を勘定に入れると、GDPは伸びているのではないかという指摘だ。ただしこうした議論は、多分に憶測の域を出ない。著者らもそう断りを入れている。言うまでもなく、無形資産や投資についての会計データが、そもそも存在しないからである。

本書はそのほか、無形投資にシフトした社会における競争や経営から、投資のあり方や公共政策まで幅広く、そして中立的に考察している。経営者や政策立案者にとっては必読の書といえる。

ライター画像
しいたに

著者

ジョナサン・ハスケル (Jonathan Haskel)
インペリアル・カレッジ・ビジネススクール経済学教授。スティアン・ウェストレイクと2017年インディゴ賞を共同受賞した。

スティアン・ウェストレイク (Stian Westlake)
イギリス全国イノベーション財団ネスタ・シニアフェロー。ジョナサン・ハスケルと2017年インディゴ賞を共同受賞した。

本書の要点

  • 要点
    1
    先進国の経済は、有形投資から無形投資へシフトしている。無形投資には4つの経済的性質があり、それが経済に不確実性、オプション性、紛争性をもたらしている。
  • 要点
    2
    企業間の格差が広がるなか、無形資産を扱う経営者には強いリーダーシップが求められる。
  • 要点
    3
    投資家は、現行の財務諸表をはるかに越えた情報を見つけなければならない。
  • 要点
    4
    政策立案者は知的財産規制を明確化し、教育、公的科学支援、都市計画といった知識インフラに対する支援を強めなければならない。

要約

見出された無形資産

無形資産はデータに出てこない
bob_bosewell/gettyimages

国の経済規模を表す「国民総生産(GDP)」は、消費+投資+政府支出+純輸出から求められる。この4要素のうち、好況・不況の引き金ともなり、またその影響を受けやすいのが投資である。というのも投資は未来に関わるものであり、金融政策や事業者の将来への見通し次第で変動するからである。

投資には、有形資産に対する「有形投資」と、無形資産に対する「無形投資」がある。しかしGDPにカウントされるのは有形投資のみで、無形投資は含まれていない。無形資産は、企業の財務諸表(バランスシート)にも表れない。

無形資産とは、物質的なモノではなく、アイデアや知識、社会関係といったものを指す。具体的に挙げると、次のようなものである。

・スターバックスの「店舗マニュアル」

・アップルの「デザイン」と「ソフトウェア」

・マイクロソフトの「研究開発」と「研修」

・グーグルの「アルゴリズム」

・コカ・コーラの「製法」と「ブランド」

・ウーバーの運転手の「ネットワーク」

無形投資が有形投資を追い越す

今世紀に入って、この無形資産を把握しようという試みが経済学者のあいだで始められた。

当時、世界で最も時価総額が高かったのはマイクロソフトで、2006年における市場価格は2500億ドルだった。財務諸表を見ると総資産は700億ドルほどで、うち600億ドルは現預金や金融資産であり、工場や設備といった伝統的な資産はたった30億ドルだった。これはマイクロソフトの資産全体のわずか4%に過ぎなかった。時価総額と比べれば1%である。1%の有形資産で100倍の企業価値を生み出す世界は、本書のサブタイトルにあるように、「資本なき資本主義」の世界と言ってよいだろう。

各種データやアンケートを使った経営学者の研究は、徐々に洗練されてきている。その結果、米国だと1990年代半ばには、無形投資が有形投資を追い越したと推定されるようになった。

【必読ポイント!】 無形資産の4S

スケーラブル(Scalable)
eichinger julien/gettyimages

無形資産は、有形資産とは異なるふるまいを示す。その特性を一言でまとめると「4S」となる。すなわちスケーラブル(Scalable)で、その費用は埋没(サンク:Sunk)していることが多く、スピルオーバー(Spillover)する傾向があり、お互いにシナジー(Synergy)を持つということだ。

順番に見ていこう。たとえばデジタル化された音楽やソフトウェアは、一度オリジナルを作ってしまえば、質的にまったく変わらないコピーを低コストで作ることができる。つまり無限に拡張(スケールアップ)できる。こうした無形資産の性格を「スケーラブル(拡張可能)」という。

これは航空機エンジンのようなモノにおいても、その設計という無形資産(知識)に着目すれば同じように言える。一度設計を完成させれば、その知識は繰り返し使用できる。

こうしたスケーラブルという特徴を生かし、あるカテゴリーの業界で支配的な地位を占める巨大企業が生まれてきている。グーグルの検索アルゴリズムが最高であれば、他の検索エンジンを使う理由があるだろうか?

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要約公開日 2020.04.15
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