いま世界中で生産されているプラスチックは、年間4億トン。1950年代の200倍の量である。そのうち毎年910万トンが海に流出し、その一部が海流に乗って太平洋ごみベルトをなしている。プラスチックは軽量で丈夫なうえに密封性も高いため、エネルギー消費の抑制という点では、これまで地球の環境問題解決に一役買ってきた側面もある。だがこのペースでは、海洋プラスチックごみが2050年に魚の量を超えるとも言われている。
この「プラスチック汚染」の解決に乗り出したのが、オランダ生まれの青年がCEOを務める、NPOオーシャン・クリーンアップである。目標は太平洋ごみベルトのプラスチックごみを、5年以内に50%回収することだという。彼らが2015年に1カ月の大遠征を行い、サンプルを回収したところ、うち3割が日本のプラスチックごみであった。これは国別で最も多い。
プラスチック素材の問題は、分解しにくく自然に還らない点にある。プラスチックごみは、紫外線に晒され波に揉まれながら、長い時間をかけてゆっくり小さくなっていき、直径5ミリメートル以下のマイクロプラスチックになる。そうなると海の生き物の体内に取り込まれる可能性が高まり、地球の生態系を脅かす深刻な問題となる。
実際のところ、マイクロプラスチックは魚や貝類だけでなく、空気や水、人間の体内からも検出されている。マイクロプラスチックはそれ自体が毒性を帯びているだけでなく、海底の泥や海水中の有害化学物質を吸着し、汚染物質の“運び屋”にもなる。小さな捕食者から大きな捕食者に取り込まれる過程で、有害物質は濃縮されていき、最終的に食物連鎖の頂点である人間に巡ってくることが懸念される。
プラスチックの問題はそれだけではない。研究によると、プラスチックは温室効果ガス、特にメタンガスを排出することが確認されている。メタンガスは、二酸化炭素の25倍の温室効果のある危険なガスである。それが地球温暖化の進行にどう影響するかは未知数だが、プラスチックの年間生産量は、20年で2倍になると予測されており、待ったなしの状況と言える。
オーシャン・クリーンアップが調査した結果、海域のプラスチック総量8万トンのうち、92%がまだ5ミリメートル以上の大きさを保っている。いま回収してしまわなければ、手遅れになるかもしれない。2019年10月、大きな挫折を乗り越え、世界ではじめてオーシャン・クリーンアップが、プラスチックごみの大量回収に成功した。彼らはいま、「世界1000の河川からプラスチックごみを回収する」という次なる目標に挑んでいる。
いま世界は“脱プラスチック”へと動いている。アメリカでは気候変動問題に敏感なニューヨーク市が2019年、最大1000ドルの罰金つきで、使い捨て発泡プラスチック容器の使用を全面的に禁止した。またフランスでは、国民の88%が使い捨てプラスチックの規制に賛成しており、2020年からコップなどの使い捨てプラスチック容器の販売ができなくなる。
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