遅いインターネット

未 読
遅いインターネット
ジャンル
著者
宇野常寛
出版社
定価
1,600円 (税抜)
出版日
2020年02月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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遅いインターネット
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著者
宇野常寛
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定価
1,600円 (税抜)
出版日
2020年02月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
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レビュー

なぜ、ドナルド・トランプは大統領になれたのだろうか。はたまた、どうしてイギリスはEUを抜けることになったのだろうか。右傾化かポピュリズムか、グローバル化の反動か格差か。いずれも要因のひとつには違いないだろう。だがそれだけではない。

いま民主主義自体が、かつてないほどまでに得体のしれない大きな岩礁に乗り上げてしまっている。フェイクニュースが政局を左右することだって珍しくない。ネットでは常に誰かが「生贄」となり、匿名の人々が浅い思慮のもと、それに対して中傷、断罪を行う。過激なことを言えばSNSで注目を集められるため、根拠のない極論を展開する人も少なくない。それがインフルエンサーとなれば、ますますやっかいだ。その支持者がバンドワゴンに乗り、インフルエンサーの発言を追いかけ、加勢する。そしてインフルエンサーとしての市場価値はまた上がっていく。なんとも地獄絵図ではないだろうか。

こういった現状について、多くの方が苦慮しながらも、それを打破する策を持っていない。そこで著者がその解決策として提示するのが、本書のタイトルにもある「遅いインターネット計画」である。インターネットはかつて「民主的」なツールと見なされていたが、実態はご覧のとおり。むしろ憎悪や偏見、分断を増長させるものにしかなっていない。こうした問題を乗り越えるためには、速さが売りのインターネットを、あえて遅く使うしかないというのが著者の提案だ。これからのインターネットのあり方を、いま一度ともに考えていくうえで、伴走者となってくれる一冊である。

小林悠樹

著者

宇野常寛 (うの つねひろ)
評論家。批評誌編集長。1978年生。『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『日本文化の論点』(筑摩書房)、『母性のディストピア』(集英社)、『若い読者のためのサブカルチャー論講義録』(朝日新聞出版)、『こんな日本をつくりたい』(石破茂との対談、太田出版)、『静かなる革命へのブループリント この国の未来をつくる7つの対話』(編著、河出書房新社)など著書多数。
立教大学社会学部兼任講師。

本書の要点

  • 要点
    1
    世界各地で、グローバルな経済とローカルな国家の対立が起きており、グローバル化に対応できる人とそうでない人の間で分断が生まれている。
  • 要点
    2
    現在のインターネットはポピュリズムを強化し、考えるためではなく考えないための装置として使われている。
  • 要点
    3
    「遅いインターネット計画」とは、自分のペースで情報に触れ、ゆっくりと考えられる場の構築をめざす。

要約

グローバルな経済とローカルな国家の対立

国家や民主主義を必要としない人々の出現
hyejin kang/gettyimages

世界ではいま、急速にグローバリゼーションが進み、「グローバルな経済とローカルな国家の対立」が顕在化しはじめている。この構造自体は、かつてから指摘されていたものだ。問題はそのパワーバランスの急激な変化である。2016年11月8日、トランプ大統領が誕生した理由もここに見いだせる。

トランプを支持する層の多くは、ブルーカラーだと言われている。彼らはグローバル化の流れに乗れず、自分たちは格差社会の割を食っていると考えている。そのため「壁を作れ」と声高に叫ぶリーダーを選んだのだ。一方で大都市に住む企業家、投資家、エンジニアたちは、すでに国家や民主主義を必要としていない。なぜなら彼らは住む場所に拘泥せず、世界を舞台にした巨大なマーケットの中で生きられるからである。その国がイヤであれば、いつでも出ていける立場に彼らはいる。

英ジャーナリストのディヴィッド・グッドハートは、グローバルな経済で活躍する「Anywhere」な人々と、ローカルな国民国家に依存する「Somewhere」な人々というかたちでカテゴライズしている。

世界に素手で触れているという感覚

「Anywhere」と「Somewhere」の人々を分けるものは何か。それは「世界に触れている感覚を持てるかどうか」だと著者は主張する。Anywhereな人々が世界と接続されていることは、想像に難くないだろう。彼らはグローバル市場(=「境界のない世界」)で、情報テクノロジーを駆使しながら活躍できる人々だ。一方でSomewhereな人々はどうか。たとえばラストベルトの自動車工が、「自分はグローバル市場のプレイヤーである」という意識を持つことはなかなか難しい。だからこそ、グローバル市場に対抗するための「壁」を作ってくれそうなトランプやブレグジットを支持する。ここでいう「壁」というのは、「メキシコの間に壁を作れ」というような、物理的な意味だけに限らない。

「Anywhere」な人々からすると、そんな「Somewhere」な人々を否定するのは簡単だろう。だが「Anywhere」な人々がグローバルな資本主義のプレイヤーである以上、ローカルな民主主義において「Somewhere」な人々に敗北するのは、なかば必然のことである。「Anywhere」な人々が国家やローカルな民主主義を飛び越えて活躍できるようになったいま、民主主義という機能はむしろ「Somewhere」な人々にとって、世界に触れている実感を与えてくれるものとなった。

グローバルな経済がローカルな政治を凌駕し、民主主義がグローバル市場を統制する術を持たない。この社会システムの機能不全こそが、いま私たちが直面している問題なのである。

文化の四象限

かつてはメディアが個人と世界をつないでいた
nuvolanevicata/gettyimages

21世紀は「コト」の時代だ。モノを所有するよりも、自分の物語としての体験(「コト」)に重きが置かれる。

一方でそれ以前、つまり20世紀は他人の物語を共有する時代だったと言える。ラジオ、映画、テレビなど、マスメディアは市民生活と密接にかかわり合ってきた。メディアは基本的に他人の物語を見たり聞いたりするものだ。そしてそれを皆で共有することで、社会が維持されてきた。メディアが世界との接点となっていた時代である。

インターネットはポピュリズムを強化する

メディアはその強力なリーチから、しばしば政治に利用された。ナチスや戦時中の日本軍を見てもわかるとおり、マスメディアはポピュリズムを増大させる装置として非常に有能だからだ。

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