世界標準の経営理論

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世界標準の経営理論
出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2019年12月11日
評点
総合
4.7
明瞭性
5.0
革新性
4.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

なぜ私たちビジネスパーソンは、経営理論を学ばなければならないのだろうか。それは、「意思決定」こそがビジネスの本質だからだ。大きな事業戦略から、顧客への対応、商品企画、部下からの相談事まで、私たちは日々意思決定をしている。その難しさを実感しているからこそ、確固たる思考の軸をもった経営者に憧れを抱くのかもしれない。

著者によると、一流の経営者の共通項は「常に考え続けている」ことだという。経営理論は考え続けるための「拠り所」となる。経営理論をベースや補助線として、自分ならではの思考の軸を形成していく。それがビジネスパーソンとしての成長を促すというのだ。

考え続けるための拠り所は、自分の経験則でも、尊敬する先輩や経営者の言葉でもよい。しかし、経営理論は圧倒的に普遍性が高い。これまで私たちには、理論の断片やビジネス・イシューの解決策、フレームワークしか与えられてこなかった。主要経営理論を網羅的・体系的に解説するという本書の試みは、世界初となる。

本書は800ページを越える大著であるが、ひるむ必要はない。なぜならこれほど画期的で示唆に富む本でありながら、驚くほどわかりやすいからだ。本要約では、理論についての基本的な捉え方と、『ダイヤモンド・オンライン』(2019年12月30日)で著者自身が「好き」だと語った3つの理論を紹介する。先が見通せず変化の激しい現在こそ、普遍的な経営理論による知的武装が重要なのではないだろうか。世界の経営学の英知が凝縮された本書をぜひともすすめたい。

ライター画像
しいたに

著者

入山章栄(いりやま あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    経営学は、人と組織を対象として、その思考、意思決定、行動の普遍的なあり方、メカニズムを解明する学問である。
  • 要点
    2
    経営理論の構築においては、人と組織についての根本原理として、経済学、心理学、社会学という3つのディシプリン(学問分野)の知見を活用している。
  • 要点
    3
    本書では、多くの経営理論のなかから真理に肉薄している可能性が高い、30もの世界標準の経営理論を、ディシプリンごとに分類し、紹介する。

要約

【必読ポイント!】 経営理論とは何か

現象と理論は別物

経営学というと、読者はどのようなテーマを考えるだろうか。「戦略」「人事」「アントレプレナーシップ」「ガバナンス」「イノベーション」などが思い浮かぶかもしれない。しかし、これらはビジネスのイシュー(課題・テーマ)であって理論ではない。著者は、これらをビジネスの「現象」と総称して、「理論」と混同しないように注意を促している。

ではなぜこのような混同が起きるのか。それはMBAなどの経営学の初歩のカリキュラムが、ビジネスパーソンのニーズに合わせて現象で切り取ったもの、つまり現象ドリブンになっているからだ。いうまでもなく、ビジネスパーソンの関心は現実の課題となっている現象にある。

現象は細分化すれば数に限りなく、また新しいイシューも次々と現れてくる。それに対して、世界の主要経営理論は、本書にまとめられた30程度だ。したがって、現象からではなく理論から学んだほうが圧倒的に効率がよいのである。

ビジネスの真理法則をめざす
fizkes/gettyimages

そもそも経営理論とは何だろうか。それは「人・組織が、何をどう考え、どう意思決定し、どう行動するか」を突き詰めたものである。理論がめざすのは、「経営・ビジネスのhow、when、why」に応えることだ。

howとは、「X→Y」のような因果関係を指す。「Xが高まれば、Yも高まる」といった関係を示す命題である。

whenは、「その理論が通用する範囲」を意味する。ある理論は大手企業に当てはまっても、スタートアップのことは説明できないかもしれない。このように、理論が持つ仮定・条件から、その適用範囲を明確にすることである。

そして何より重要なのがwhyに応えることである。「X→Y」のような因果関係を示しても、「なぜそうなのか」が説明されなければ、それは理論ではない。

理論というものは「実証分析」に堪えなければならない。すなわち「なるべく多くの企業、経営者、従業員、組織などに、普遍的に当てはまる、ビジネスの真理法則(how、when、why)」の構築をめざす必要がある。本書に収められた理論は、そうした検証をくぐり抜けた「世界標準の経営理論」なのである。

本書を貫く3つのディシプリン

経営理論は「人と組織」を対象とする。そのため経営学では、人の思考や行動をどう認識するかについて、他分野の学問の知見を応用している。それが経済学、心理学、社会学という3つのディシプリン(学問分野)である。

まず経済学は、「人で構成される企業は、それなりに合理的に意思決定をするはずだ」という見方に立つ。ここでの合理的とは、「各人は、自分にとって可能な行動の中で最も好ましい行動を取る」ことを指す。

次に心理学、とりわけ経営理論に関わりの深い認知心理学は、「限定された合理性」という前提に立っている。人は必ずしも合理的に意思決定できるとは限らない。さらにいうと、その認知力・情報処理力には限界があるというのだ。本書では、心理学ディシプリンをマクロ心理学ディシプリンとミクロ心理学ディシプリンに分けている。前者は、経営学におけるマクロを意味する組織単位のメカニズムを説明する。これに対し後者は、リーダーシップやモチベーション、感情など、より個人単位の行動・意思決定に迫る理論である。

つづいて社会学からは、「人は他者とのつながりのネットワークに埋め込まれており、その範囲内でビジネスを行い、したがってその関係性に影響を受ける」という視点を導入している。

なぜ経営理論を学ぶべきなのか
taa22/gettyimages

では、なぜビジネスパーソンは経営理論を学ぶべきなのか。それは、正解が明確ではない状況下で、意思決定をしなければならないからだ。そのために求められるのは、思考の「拠り所(=軸)」に基づいて考え続けることである。軸は、本人の経験則でもいいかもしれない。あるいは、尊敬している上司や名経営者の言動でもよいだろう。

ここで非常に有用なのが、経営理論である。もちろん、軸は正解を教えてくれない。だが、軸があるからこそ、人はそれをもとに思考を飛躍させられる。本書に収められた経営理論は、世界の激しいビジネス環境の変化を通じて生き残ったものばかりで、普遍性が高い。これからビジネスの現象は目まぐるしく変化し、また多様化していくだろう。そうした「現象」に対して、「理論」がもつ普遍性は、確かな思考の軸となることを保証してくれる。これが経営理論を学ぶ意義といえる。

組織の知識創造理論

世界唯一の、知の創造の理論

まず紹介するのが、マクロ心理学ディシプリンの経営理論に分類される「組織の知識創造理論」だ。この理論は、組織において新たな知はいかに生まれるのか、すなわち「知の創造」プロセスについて説明する、世界唯一の理論だ。その背景には、「情報」(information)と「知識」(knowledge)は異なるという洞察がある。

人の知識は「暗黙知」と「形式知」に分類される。そして、情報は形式知の1つに過ぎないが、人はこの2つの知を使って全人格的に仕事をしている。よく知られているのが「氷山モデル」である。形式知が海面に出ている部分だとすると、海面下にはさらに大きい暗黙知という塊があるというわけだ。暗黙知は、AIには決して置き換えられない人間だけの身体的な知であり、これからますます脚光を浴びることが予想される。

SECI(セキ)モデル
dorian2013/gettyimages

では知の創造の動的プロセスについて順に見ていこう。組織で知識が創造される際、まず暗黙知の共有がある。これを「共同化」(socialization)という。経営者や先輩の行動を見ること、一対一での腹を割った対話をすることなどを通じて、信条、信念、思考法、直感などに対し、相互の共感が生まれる。[暗黙知→暗黙知]

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要約公開日 2020.07.29
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