危機の時代
危機の時代
伝説の投資家が語る経済とマネーの未来
危機の時代
出版社
出版日
2020年05月25日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

新型コロナウイルスによって、大国アメリカの経済さえも沈みつつある。これははっきりと危機であると誰もが認識しているはずだ。誰にとっても「対岸の火事」では済まされないこの危機。それに対して、ある時は世界的な投資家、またある時は世界を旅する冒険投資家として知られるジム・ロジャーズ氏は、「絶望しなくてもいい」と述べる。その根拠は、まさに彼自身が成功した理由でもある。

本書は、危機に面した際にどのように振舞うべきかについて、惜しげも無く語りつくした本である。ニクソン・ショック、ブラックマンデー、リーマン・ショックという世界的な経済危機を何度も生き抜いてきた投資家の語る言葉には、たしかな説得力がある。哲学的な問いの立て方から、今日からでも実践出来そうな簡単なことまで、様々な内容が書かれている。投資を考えている人にはもちろんであるが、投資そのものを行わない人であっても、人生を乗りこなすために必要な態度について、多くのことを学べるはずである。

この本の中では、ロジャーズ氏の素晴らしい成功体験・武勇伝だけではなく、失敗経験についても丁寧にページが割かれている。「失敗は成功の母」だ。失敗から何を学び、それを活かしてどのように次の手を打ったのか。たくましく、粘り強い彼の姿勢を知ることができる。失敗を恐れるのではなく、チャレンジしたいという気持ちを後押ししてくれる1冊である。

ライター画像
河合美緒

著者

ジム・ロジャーズ
1942年、米アラバマ州生まれ。米イエール大学(歴史学専攻)卒業後、英オックスフォード大学(哲学・政治学・経済学専攻)を卒業。1973年にジョージ・ソロス氏と共同でクォンタム・ファンドを始め、驚異的なリターンを生み、脚光を浴びる。37歳で引退し、米コロンビア大学で金融論を教えた後に、世界各地を旅行しながら投資する「冒険投資家」に。2007年、一家でシンガポールに移住。現在も投資家として活動を続けており、2008年のリーマン・ショックの到来を予見したことでも知られている。主な著書に『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界バイク紀行』『冒険投資家ジム・ロジャーズ 世界大紀行』(ともに日本経済新聞出版)、『お金の流れで読む 日本と世界の未来』(PHP新書)、『日本への警告』(講談社プラスアルファ新書)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    2008年のリーマン・ショックを超える危機の兆しが、2020年現在の世界中でみられる。状況を分析すると、今回の危機は非常に大きいものになると考えられる。
  • 要点
    2
    危機に面した時に必要な態度は、何が起きているか理解すること、大衆の動きを考えること、常識を疑うことである。
  • 要点
    3
    投資が成功するために必要なのは、時が来るまで忍耐力を持って丹念に準備をしておくことである。また大きな失敗をしたとしても、状況は必ず変わるので悲観する必要はない。粘り強く、チャンスを狙い続けよう。

要約

リーマン・ショックを超える危機

危機の予兆
Maximusnd/gettyimages

新型コロナウイルスの問題が起きる前から、「2008年のリーマン・ショックを超える金融危機が迫っている」と警告していた。新型コロナはあくまできっかけに過ぎず、経済危機が訪れること自体は以前から見えていた。信じる人は少なく、世の中には楽観ムードが漂っていたが、この主張にはきちんと根拠がある。

思い返せば2008年にリーマン・ショックという深刻な金融危機が起きる前、米国ではサブプライム住宅ローンの問題が発生していた。それだけでなく、アイスランドなどの小国で金融・不動産のバブルが崩壊し、英国の中堅銀行が経営危機に陥るなど、多くの人は気にも留めないような「小さな兆し」がたくさんあった。

最近の世界経済でも、こういった「危機の予兆」が多く見られる。ドイツ最大の民間銀行であるドイツ銀行が経営危機に陥った。アルゼンチン経済はデフォルト状態と判定された。インドの銀行では不良債権比率が大きくなり、住宅金融会社の破綻処理が行われ、インドの経済成長に明らかなブレーキがかかっている。

膨らむ負債と金融緩和

短期的な場合を除いて機能しない無制限な金融緩和が、各国ではびこっているのも問題である。日本では、日本銀行が債券や上場投資信託(ETF)を積極的に購入することによって、低金利を維持している。同様の無制限な金融緩和は世界中で加速しており、借金のスノーボールはどんどん大きくなっている。だから、次に危機が起きた際の影響は、リーマン・ショックよりもひどいものになるだろう。

加えて、米中の間などで貿易戦争が起きていることも、悪い未来を予見させる。経済対立は、本物の戦争に発展する危険性もある。歴史を振り返ると、戦争の前には多くの政治家が外国人を非難するようになっていた。戦争が終わると、悲惨だったと言う人は現れる。しかし、戦争が始まった時点では誰もが戦争を愛する。歴史によって、多くの人が戦争を好むことは証明されている。プロパガンダとマスコミ、政治家はみな、戦争を称賛し、正当化する。「戦争の最初の犠牲者は真実だ」という指摘は正しい。

世界中ではすでにさまざまな問題が起きている。あらゆる場所に火種があったが、危機はすでに避けられないものになった。通常の不況で済む可能性もあったのに、大きな災害に変わってしまっている。

【必読ポイント!】 危機の際にとるべき行動

自分の頭で理解すること
bee32/gettyimages

それでは、危機の際にはどのような行動をとればよいのだろうか。

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要約公開日 2020.09.18
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