現代経済学の直観的方法

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現代経済学の直観的方法
出版社
出版日
2020年04月08日
評点
総合
4.7
明瞭性
5.0
革新性
5.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

世の中には数多くの学問分野があるが、最もつかみどころがなく得体のしれない学問は、ひょっとすると経済学ではないだろうか。普段の生活に直結しているため、身近な学問だとも言えるが、理解しようとすると途端に牙をむく。「とても簡単なことを、わざわざ難しく言い換えているのではないか?」と勘繰りたくなることもある。経済学の本の前書きには、「簡単」「やさしい」などという言葉が並んでいるものだが、それでもなお難しいのが実態である。

だが本書は、難解な経済学を「要するにこういうことだ」と見事にまとめ、その本質を論述することに成功している。いままで経済学をいまいち理解できなかった方は、文字通り目から鱗が落ちるはずだ。また、経済学を学んだことがあるという方でも、本書を読めば「なぜインフレやデフレが起こるのか」「ビットコインとは本質的にどういうものか」といった身の回りの経済現象について、自然と腹落ちできるようになるだろう。

さらに本書の試みは、それだけにとどまらない。きわめて野心的なことに、これからの経済学が歩むべき道筋をも提示している。自分の将来に漠然と不安を覚えている人は多いし、経済的に満たされていても幸せを感じられない人は少なくない。だが本書によると、じつはそれも資本主義と無関係ではないのだという。

資本主義に対する理解を深めるとともに、その将来に警鐘を鳴らす名著だ。ぜひ何度も読み返してみてほしい。資本主義とはそもそもどういった性質を持つものなのか(そしてなぜ他のシステムよりも「強い」のか)、本書から学べることは多い。

ライター画像
香川大輔

著者

長沼伸一郎 (ながぬま しんいちろう)
1961年東京生まれ。1983年早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理)卒業。1985年同大院中退。1987年『物理数学の直観的方法』(通商産業研究社)で理系世界に一大センセーションを巻き起こす。「パスファインダー物理学チーム」(http://pathfind.motion.ne.jp/)代表。著書に『物理数学の直観的方法 普及版』『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』『経済数学の直観的方法 確率・統計編』(以上、講談社ブルーバックス)、 『一般相対性理論の直観的方法』『無形化世界の力学と戦略』『ステルス・デザインの方法』(以上、通商産業研究社)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    資本主義は、成長し続けなければシステムを維持することができない。それは金利が存在するからである。
  • 要点
    2
    経済が縮小均衡すると、「神の手」で回復させることは難しい。このためケインズは「公共投資により、政府が適切に介入する必要がある」と主張した。
  • 要点
    3
    いまの資本主義は量的な拡大よりも、質的な「縮退」で富を絞り出すようになっている。縮退が起きると、一部の巨大企業に富が集中してしまう。

要約

【必読ポイント!】資本主義における経済のメカニズム

走り続けなければ崩壊する資本主義
themacx/gettyimages

資本主義経済は、成長を続けなければシステムを維持できないという宿命を持っている。その直接的な理由は金利にある。借りた資金以上の利益を生み出さなければ、利払いができないため、企業は売上拡大に邁進し続けなければならない。

ところで軍事の歴史をひもといてみると、近代戦をもたらしたのは鉄道の登場だ。それまでは指揮官の能力や兵の練度・士気などに依存していたが、鉄道の輸送能力を最大限に活用した数量が、勝敗を決める決定的な要因となった。戦争は鉄道網の登場で、国民皆兵という制度をもたらすことになる。

同様に経済社会においては、資金の輸送を金融機関が担うことで、苛烈な経済に移行することとなった。中世においては、宗教的理由により金利が禁止され、結果的に経済の暴走を抑えることができた。しかし近代になって金利が公認されるようになると、貯蓄が急速に膨らんだ。貯蓄が金融機関という資金の輸送網に乗れば、設備投資に結び付くことで経済社会に循環され、経済は浮力を維持して上昇できる。逆に貯蓄が投資に回らなければ、経済は下降してしまう。

資本主義経済では、経済全体の5分の1を連続的に投資する必要がある。その結果、生産量は際限なく加速度的に増加する。資本主義は、走り続けなければ崩壊するという異常性を内に抱えたシステムなのだ。

農業経済と商工業経済が持つ宿命

商工業に基礎を置く資本主義が不安定なメカニズムの上に立っているのであれば、昔の農業文明を再現すればよいと考えるかもしれない。だがそれは原理的に難しい。その理由は、産業としての機動力の差にある。農業の場合、供給はゆっくりと増やすことができるが、需要は人間の胃袋に限度がある以上、大きくは伸びない。そのため供給過剰になりやすく、値段が下がりやすい。一方で商工業の場合、競争環境が激しく供給の速度が速すぎるという不利はあるものの、変化する需要に応じて、次々と新しい市場に参入できることから、優位に立ってしまうのだ。

現代だと、農業に限らず一次産業や資源に依存する国は、生産量を増やせば増やすほど値下がりを招くことになり、経済的に困窮しやすい。一方で、有利に立つ商工業の側にも苦労の種がある。ある品物が「儲かる」と判断されると、ライバルが怒涛のように参入し、たちまち過剰生産に陥って、恐慌状態に近い値崩れを引き起こす。このような状態から脱出するためには、技術革新が必要だ。近代社会の経済は、需要の飽和と技術革新によるブームの創出で、浮き沈みを繰り返しつつ成長する波状カーブを描いてきたのである。

インフレとデフレのメカニズム
Fokusiert/gettyimages

インフレやデフレは、貨幣と品物の量的比率のバランスが崩れることによって起こる。社会全体の貨幣の量が、品物よりも多い状態がインフレだ。インフレは、貨幣の増加や品物の減少により引き起こされる。第一次大戦後のドイツが賠償要求に応えるために紙幣を乱発したときや、石油ショックで品物が不足した際には、大規模なインフレが発生した。

加えて、循環作用の中のインフレもある。多くの場合、値上げは原材料の値上げを販売価格に反映することで行われる。原材料の供給先も、運賃や電気代の値上げを理由に値上げする。このように、循環する経済のどこかで値上げが発生すると、多くのものが値上げすることになり、インフレが起こる。

一度インフレになると、企業にとって有利となる。値上げがしやすく、貨幣の価値の低下で、借金を実質的に減らせるからだ。一方で、デフレは物価と賃金の下落により、最終的には社会をどんどん貧しくしてしまう。

経済的な現象を理解する

貿易が経済に与える影響

経済問題を考える上では、貿易のメカニズムへの理解が不可欠である。

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要約公開日 2020.09.09
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