日本企業の勝算

人材確保×生産性×企業成長
未読
日本企業の勝算
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日本企業の勝算
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2020年04月09日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「中小企業が多すぎるから、日本は労働生産性が低いのだ」。誤解を恐れずに言えば、これこそが本書のキーメッセージである。かなり辛辣に思えるのだが、この主張にはしっかりとした裏付けがある。たとえば、あるデータによれば、日本企業の平均規模はアメリカの半分にも満たない。製造業を除けば、たったの27%のサイズである。アメリカは世界有数の高生産性国家であるが、この産業構造の違いこそが国全体の生産性の明暗を分けている。

現在の日本社会に見られる年功序列、終身雇用などの制度は、人口が増えていた高度経済成長の名残でしかない。高齢化と人口減少の前では崩れつつある。このような感覚を持たれている方は多いだろう。本書ではその「なんとなく、日本このままだとやばいよね」という危機感が、さまざまなデータとともに巧みに言語化されている。

中小企業で働いている人にこそ、この本を読んでいただきたい。日本の企業数に占める大企業の割合はたったの0.3%だ。日本人のほとんどが中小企業に勤めていることを考えると、本書で披露されるデータとロジックは不都合な真実となるかもしれない。だが、給料が上がらず、女性活躍が進まないままで、格差が拡がり、少子化が加速化する日本の問題の真髄を確実に突いている。感情は一旦脇に置いて、隅々まで目を背けずにご覧いただきたい。なお、著者のデービッド・アトキンソン氏は菅首相のブレーンと言われており、スガノミクスの目玉である「中小企業再編」は本書がベースとなっていることを申し添えておく。

ライター画像
小林悠樹

著者

デービッド・アトキンソン(David Atkinson)
小西美術工藝社社長。1965年イギリス生まれ。日本在住31年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。
1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同社会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。
『日本人の勝算』『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』(山本七平賞、不動産協会賞受賞)『新・生産性立国論』(いずれも東洋経済新報社)など著書多数。2016年に『財界』「経営者賞」、2017年に「日英協会賞」受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    労働人口が減っていく中、日本は労働生産性を上げなくては今の経済規模を維持できない。
  • 要点
    2
    労働生産性の低い国々には、「中小企業で働く人の割合が高い」という共通点がある。
  • 要点
    3
    中小企業は雇用を生むため、人口が増えている局面においては大きな役割を担っていた。しかし、人口減少局面においては、規模の小ささに由来する生産性の低さがかえって経済全体の足を引っ張ってしまう。
  • 要点
    4
    現在の中小企業優遇策をやめる。規模ではなく投資行動に対してインセンティブを設け、企業の成長を促すための政策にシフトすべきである。

要約

【必読ポイント!】 日本の労働生産性はなぜ低いのか?

生産性とは何か
alphaspirit/gettyimages

日本では今後数十年にわたって、先進国でも突出したスピードで生産年齢人口が減り、高齢化が進む。労働者1人、1時間あたりの社会保障費は現在の824円から、2060年には2150円まで増える。人口減少時代に変わったいま、社会保障費を確保するためにはGDPを少なくとも現状維持しなければならない。そこで必要となるのが、どの先進国よりも大きい「生産性」の改善だ。

ただし、生産性と一口にいっても、その意味合いは2つに分かれる。ひとつは単純な「生産性」、もうひとつが「労働生産性」である。生産性は、付加価値総額を総人口で割ることで算出できる「1人あたりのGDP」のことだ。一方労働生産性は、付加価値総額を労働者の数で割ることで導き出せるものである。したがってこの2つは、労働参加率(就労している国民の割合)を用いて次のような関係がある。

「生産性=労働生産性×労働参加率」

つまり、国全体の生産性を上げるには「労働生産性を上げるか」、「労働参加率を上げるか」の2つの方法があるということだ。

一般論として、労働参加率を上げるほうが容易である。確実にそして急激に生産年齢人口が減る日本で、アベノミクスが掲げた「女性や高齢者の活用」はまさにそのための施策だ。2011年から2018年にかけて日本の生産年齢人口は618万人減少した一方で、労働者の数は371万人増加している。その内訳を年齢別に見ると65歳以上が291万人、男女別に見ると女性が292万人を占める。

しかし、労働参加率がある程度まで上昇した現在、もはや労働生産性を高めることしか選択肢がない。

低い労働生産性の原因
pixdeluxe/gettyimages

国によって労働生産性の水準は異なる。この違いはどこから生まれるのだろうか。まず、生産性は3つの要因に分けられる。人数や時間で測れる「人的資本の生産性」、設備投資などの「物的資本の生産性」、そしてブランド力やビジネスモデルの改革など人と設備投資で説明ができない要素すべてを含む「全要素生産性」だ。そして、この全要素生産性が長期的な経済成長を促し、国全体の生産性の違いを生む。人員や設備は変わっていなくても、資源配分の効率性を変えるだけで劇的に生産性が向上する。

国際競争力は世界第5位であるにもかかわらず日本の労働生産性は世界第28位で、大手先進国の中では最低の水準である。人材配分、産業構造自体が他国と比べて非効率だからだ。

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要約公開日 2020.11.25
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