目に見えぬ侵略

中国のオーストラリア支配計画
未読
目に見えぬ侵略
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中国のオーストラリア支配計画
未読
目に見えぬ侵略
出版社
出版日
2020年06月05日
評点
総合
3.2
明瞭性
3.0
革新性
3.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

中国とオーストラリアの対立は最近もたびたびニュースで扱われ、シリアスな外交問題になっている。その背後に、中国があらゆるチャンネルを駆使して入り込もう、取り入ろうとしてきた現実がある。

世界に広がっている華僑ネットワークは、政治家、ビジネスマン、スパイ、学生など多岐にわたる。北京政府は、かれらを通じて国の制度や中枢に入り込むための活動を展開する。日本からはなかなか見えにくい部分だが、北京の影響や脅威はオーストラリアにとって、今まさに眼前にある危機であり、社会の各層に広がっていることがわかる。

たとえば、「高等教育の場はイデオロギー工作の最前線」という中国共産党の大方針のもと、教育機関への干渉が行われている。留学生をコントロールして、北京政府と一体になった扇動的なデモを起こさせることなども目立つ。中国からの多数の留学生は、学費収入や献金の面で大学にとって魅力的なのは確かだが、学問の自由や民主主義の価値は守っていかなくてはならない。これにどう対処すればよいのか。そのヒントは本書の随所に示されている。

チベットなどに対する人権侵害や国内の管理統制政策に世界中から批判の目を向けられている北京政府。その一番の被害者は、そこから逃れてきた中国系移民やその子孫たちかもしれない。目に見えぬ侵略から身を守るために、目に見える形にして世の評価を問うこと。このことはオーストラリアのみならず、同じ世界を生きるすべての人たちが考えなくてはならないことである。

ライター画像
毬谷実宏

著者

クライブ・ハミルトン
オーストラリアの作家・批評家。著作には『成長への固執』(Growth Fetish)、『反論への抑圧』(Silencing Dissent:サラ・マディソンとの共著)、そして『我々は何を求めているのか:オーストラリアにおけるデモの歴史』(What Do We Want: The Story of Protest in Australia)などがある。14年間にわたって自身の創設したオーストラリア研究所の所長を務め、過去数年にわたってキャンベラのチャールズ・スタート大学で公共倫理学部の教授を務めている。

本書の要点

  • 要点
    1
    オーストラリアは中国に狙われている。経済、政治、文化などあらゆる面で包括的な影響力を行使しようとしており、主権が北京に脅かされている。
  • 要点
    2
    北京政府は領土的野心を隠さず、巨額のカネや親中団体の設立によりプロパガンダ活動を続けている。
  • 要点
    3
    中国からオーストラリアに巨額の資金が流入し、買収を狙う対象は、資源や電力などのインフラにも及んでいる。
  • 要点
    4
    大学など教育分野や不動産売買に至るまで、オーストラリアへの中国の影響力は増大し続けている。

要約

【必読ポイント!】 中国の影響力が増すオーストラリア

脅かされる自由と主権
Nerthuz/gettyimages

オーストラリアの主権が中国によって脅かされていることは、わずかな数の中国研究者や政治系のジャーナリスト、戦略専門家、諜報部員たちの間では知られている。主権が奪われつつあることを許している背景にあるのは、「中国だけがわれわれの経済成長を保証できる」という考えだ。

「オーストラリアの主権にどれほどの価値があるのか」と問われたら多くの人は、「それほど高くない」と答えるだろう。しかし、学校や大学、職業団体やメディア、鉱山業から農業、地方議会から連邦政府、主要政党といった自国の制度機関が、中国共産党の関係機関によって浸透され、影響のメカニズムに誘導されていると知ったら、きっと見方を変えるにちがいない。

近年になってオーストラリアの一般国民は、自分たちの国と中国との関係にややネガティブな面が出てきたことにいらだち始めている。中国からの移民の流入数はかつてない速いペースで進んでおり、シドニーの一部はまるでオーストラリアではないような雰囲気だ。中国系の学生は超優秀なエリート高校を独占しつつある。中国の億万長者たちはオーストラリアの政治家に対して多額の資金提供を行っており、大きな影響力をもち始めている。

華僑をも利用する北京

世界に広がる500万人以上の華僑を動員するために、中国共産党は華僑を狙った多方面にわたるきわめて精緻化されたプランを作成している。そのターゲットには、100万人を超えるオーストラリア在住の中国系市民も含まれる。華僑を管理するこの「僑務工作」により、華僑を使ってオーストラリア国民全体を親中的にし、北京がコントロールしやすい社会に変えようとしている。具体的には、中国系の人々を組織票として動員することや、中国系の議員を当選させたり、政府高官を送り込んだりすることなどが見込まれている。

北京は、オーストラリアを西洋諸国の中の「最弱の鎖」と見ている。アメリカの世界的な展開を断ち切り、国家主席である習近平が掲げる「中国の夢」を実現するための戦略を実験できる、理想的な場所だと位置付けている。中国共産党が、それまでの政策を一変させて中国系移民を奨励するようになったのは、まさにこの理由からである。

黒いカネと資本による浸透

プロパガンダ施設・豪中関係研究所
Wachiwit/gettyimages

2014年5月、シドニー工科大学に豪中関係研究所を設立する目的で、中国系の富豪実業家は180万ドルを寄付した。そのうえ、労働党の元外相でニューサウスウェールズ州知事を務めたこともあるボブ・カーを所長に任命した。オーストラリアの政治に北京の世界観がいかに浸透しているかがわかる事例である。

ニューサウスウェールズ州の野党のリーダーとして天安門事件と中国の一党独裁体制を批判していたボブ・カーが、「豪中関係に関しては、あえてポジティブで楽観的な立場をとっている」と宣言するまでになっていた。すっかり親中派となったその変わりようはすさまじいとしか言えない。

しかし、「学問の自由」や「知的な独立性」という点で創設当初から問題だらけの組織だ。財務状況は不透明なままであり、研究所が主催するセミナーや出版物が「中国政府のプロパガンダ」に似ているとの指摘も出ている。研究所では、中国の行う人権侵害などに関する鋭い批判は禁止されている。

中国に流れ込む巨額の中国資本

オーストラリアは、中国からの大規模な資本流出先としてアメリカに次ぐ第2位である。しかも、アメリカは2007年以降に累積で1000億ドルの新たな投資を中国から受けているが、オーストラリアは900億ドルという調査もあり、その差はそれほど大きくない。オーストラリアの経済はアメリカの13分の1であることを考えれば、オーストラリアに流れ込んでいる中国資本はアメリカへの流入分に比べて12倍の大きさということだ。

2016年は中国からの投資額が最大になった。ビジネス契約やインフラ、農業投資などで過去最大の記録を更新している。中国人の農地の所有数も上昇しており、イギリスに次いで2位になっている。豪中自由貿易協定はそうした耕地の買い占めにむしろ協力している。

重要アセット買収に対する懸念
TebNad/gettyimages

オーストラリアは長年にわたって、中国からのあらゆる投資をまったく疑うことなく歓迎してきた。政財界のエリートは、自分たちを「最もオープンな経済」と示すことが正しいかのように振る舞った。したがって、オーストラリア北部の防衛に決定的な港を人民解放軍に関連のある企業が購入することに対して、呑気に構えていたのだ。

しかし、2016年にターンブル政権が問題に気付く。

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要約公開日 2020.12.05
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