はずれ者が進化をつくる

生き物をめぐる個性の秘密
未読
はずれ者が進化をつくる
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生き物をめぐる個性の秘密
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はずれ者が進化をつくる
出版社
定価
880円(税込)
出版日
2020年06月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

あなたは、学校や会社といった社会の中で、自由に身動きが取れず、疲れを感じることはないだろうか。自分らしさを見失ったり、社会における自分の存在価値に疑問を感じたりすることもあるだろう。

著者は、人間は対象を理解しやすくするために、ものごとを分類し、境界を引き、比較しがちだと書いている。このような管理手法は人間自身にも及んでいる。個性を失わせて画一的な人間を生み出す社会を、私たち自身が創り出しているのかもしれない。

生物多様性やマイノリティといった言葉に代表されるように、私たちは次第に「いろいろなものがあること」にも目を向けるようになってきた。そうした視線をもっと私たち自身に向けて、自分の個性をもっと自由に発揮してもいいのではないだろうか。

本書の著者は、雑草の研究者だ。そんな著者によると、雑草は強いと思われがちだが、実は決してそんなことはないのだという。しかもその弱さが、生き残り、繁栄するために役立っているのだそうだ。

人間からは邪魔者扱いされがちな雑草だが、本書を読むと、そのしたたかさは目をみはるものがある。著者はきっと、雑草を研究する過程でそのしたたかさに驚愕し、深い愛着を持つようになったのだろう。

本当の意味での「雑草魂」とは何なのか、本書を手に取って確かめていただきたい。今の時代を生きるためのヒントを得られるはずだ。

ライター画像
香川大輔

著者

稲垣栄洋(いながき ひでひろ)
1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院農学研究科修了。農学博士。専攻は雑草生態学。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て、静岡大学大学院教授。農業研究に携わる傍ら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている。著書に、『植物はなぜ動かないのか 弱くて強い植物のはなし』『雑草はなぜそこに生えているのか 弱さからの戦略』『イネという不思議な植物』(ちくまプリマー新書)、『身近な雑草の愉快な生きかた』『身近な野菜のなるほど観察録』『身近な虫たちの華麗な生きかた』『身近な野の草 日本のこころ』『身近な生きものの子育て奮闘記』(以上、ちくま文庫)、『たたかう植物 仁義なき生存戦略』(ちくま新書)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    複雑で多様な世界を理解するために、人間の脳は数値化して序列をつけたり、境界を設けたりする。しかし自然界には、本来「ふつう」も「境界」もない。
  • 要点
    2
    生物たちは生き残るために、オンリー1になれるナンバー1のポジションという、自分の居場所を見つけている。
  • 要点
    3
    強いことは生き残るための条件ではない。生物には、ものさしでは測れない、さまざまな「強さ」がある。
  • 要点
    4
    生物にとっての「生きる」ことは、与えられた時間を精一杯大切に生きて、命のバトンを次の世代に渡して死んでいくことだ。

要約

「たくさんあること」は素晴らしい

個性があるから社会が成り立つ
sarayut/gettyimages

雑草は勝手に生えてくるものだ。それなのに、育てるとなると難しい。品種改良されている野菜や花の種とは異なり、芽が出たとしても時期はバラバラだ。

「くっつき虫」という別名を持つ雑草「オナモミ」には、早く芽が出る種と、なかなか芽を出さない種の2種類の種子がある。芽を出す時期を変えることで、どんな条件下でも生き残っていけるのだ。

自然界においては、何が正解なのかは、そのときになってみないとわからない。だからこそ生物は、「個性」と呼ぶべき遺伝的多様性を持つようになった。

個性がなければ、環境の変化に耐えられない。実際に、アイルランドでは、病気に弱いが収量の多い「優秀な」ジャガイモだけを栽培した結果、その種が病気に侵されてしまい、壊滅状態になったことがある。

人間社会も、個性があるからこそ成り立っている。あなたの個性は、世界でたった一つのものだ。私たちの特徴は親から引き継ぐ染色体によって形作られるが、その組み合わせは70兆を超える。さらに、染色体を構成するDNAが変異することで、宇宙の歴史上唯一無二の、あなただけの個性が生み出されている。

ものさしでは測れない価値がある

人間の脳は、数値化し、序列をつけて並べることによって、複雑で多様な世界を理解しようとする。そのためのツールの一つとして作り出されたのが、平均だ。平均があるから、人間は大きさや長さを判断することができる。

平均に近い存在は、「ふつう」とよばれる。しかし実際の自然界には、「平均値」も「ふつう」もない。あるのは「多様性」だ。なかには、平均から大きく外れたはずれ者もいる。こうしたはずれ者がいるからこそ、環境の変化にも適応し、生き残ることができる。そして、はずれ者が新たな標準となって、生物は進化していく。

人間は、ものさしを使って優劣をつけたがる。だが、そこにあるのは優劣ではなく、単なる違いだ。ばらつきがなければ、種を存続させることはできない。

人間には、ものさしでは測れない価値がある。管理しやすい「ふつう」ばかりを評価するのではなく、もっと違いを大切にするべきだ。学校では「ふつう」であることを評価されるのに、社会に出たら「どうしてみんなと同じような仕事しかできないんだ」「他人とは違うアイデアを思いつきなさい」と言われるのは、なんとも皮肉なことではないだろうか。

境界が差別を生み出す
schmez/gettyimages

人間が物事を整理し、理解するために用いるものに、「境界」がある。本来、自然界に境界はない。すそ野が広がる富士山は、どこからどこまでが富士山なのか誰にもわからないし、昼と夜に境界はない。なのに、

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