マッキンゼーが読み解く食と農の未来

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マッキンゼーが読み解く食と農の未来
出版社
日経BP 日本経済新聞出版本部

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出版日
2020年08月17日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「農業」の枠に収まりきれない次世代農業――これは、そんな食と農における現在進行形のお話である。

たいていの人は、「農業」は別世界のことだと思っている。なぜなら、自分は農業のイロハも知らない素人であり、農業分野で役に立つような知識も技術も持っていないと思い込んでいるからだ。

しかし実際には、「農業×ドローン」「農業×不動産」「農業×価格比較サイト」など、私たちが日常的に利用しているテクノロジーやサービスは農業分野に応用され、実績を上げている。農業は、一握りの専門家だけの世界ではない。アイデア次第で、誰であっても世界の農業をもっとよいものにできるのだ。

本書は、マッキンゼーが世界の食と農にまつわる動向などをデータ分析し、将来の展望としてまとめた農業戦略白書である。戦略系コンサルティング会社らしく、論理的で無駄のない構成になっており、豊富な図表がビジュアル的な理解を助けてくれる。学術的な難解さもなく、思った以上に読みやすい。農業のグローバルトレンドを効率的に把握できるという点だけでも、本書を読む十分な理由になる。

農業は生産者だけのものではない。これからの農業を農業の世界だけで考えていたら、ブレイクスルーなんて起きるわけがない。マッキンゼーは最終章で、「仕掛ける農業」という発想に触れているが、私たちの食と農がこれからどのように発展していくのか、大いに期待させてくれる一冊である。

ライター画像
金井美穂

著者

アンドレ・アンドニアン(André Andonian)
マッキンゼー日本支社長
マッキンゼー・アンド・カンパニー シニアパートナー
主に自動車、組立産業、先端エレクトロニクス、半導体、航空宇宙および防衛関連分野において、およそ30年にわたり、戦略やオペレーション、組織に関するコンサルティングを世界中の企業に提供。マッキンゼーにおける最高意思決定機関である株主審議会のメンバーを長期にわたって務めるなど、グローバルで多くのチームを指揮している。ウィーン大学大学院修士課程修了(経済・経営科学)、ペンシルベニア大学ウォートン校大学院修士課程修了(経営学)。

川西剛史(かわにし たけし)
マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイトパートナー
農業博士。大学院時代は、東京大学において、植物の病気の診断や、病原菌の生態、病気の発生メカニズム等を専門に研究。マッキンゼー・アンド・カンパニー入社前は、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会において、食品汚染や森林汚染等を調査。マッキンゼー入社後は、製造業、素材系、金融業等、幅広い分野を経験。最近では、農業・化学業界において、戦略立案および現場における実行支援、企業の変革における組織設計・人材育成に従事。

山田唯人(やまだ ゆいと)
マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー
大学在学中に米国公認会計士を取得。慶應義塾大学経済学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京支社に入社。ロンドン支社を経て、現在サステナビリティ研究グループのアジア・リーダーを務める。主に資源分野(食糧・農業・水・ケミカル分野)の課題に取り組む。日本の農産物の生産性向上・環境技術の新興国参入戦略や、公的セクター、経済成長とGreen Growthの両立を目指す特区の設計などをアジアで行う。2011年世界経済フォーラム(ダボス会議)のグローバル・シェーパーズに選出され、2013年1月ならびに2020年1月にスイス・ダボス会議に出席。

本書の要点

  • 要点
    1
    これからの日本の農業を考えるうえで重要なのは、「グローバルの視点」と「他業界の視点」である。
  • 要点
    2
    世界の人口増加による中間所得層の拡大や地球温暖化、各国の政策転換、食習慣の変化などのトレンドが、世界の農業に影響を与える要因となる。
  • 要点
    3
    消費者は「腹を満たす」ことより、食の「体験」に価値を置くようになっている。求められるのは、ニーズに合わせて食材を選ぶ目利き役と、農業バリューチェーン上の各プレイヤーを有機的に動かすオーケストレーター(指揮者)の存在だ。

要約

【必読ポイント!】 世界の農業のトレンドを見る

世界の人口増加と食肉消費量への影響
tic/gettyimages

農業は、サステナブル(持続可能)な世界を実現するうえで「必要条件」だ。しかし生産者以外の者が当事者意識をもって考えることはあまりない。

マッキンゼーが、日本の農業の未来を考えるうえで必要と提言するのは次の2つだ。(1)農業を全世界のすべての人間の問題として捉え、グローバルな視点で俯瞰すること、(2)「業界の壁」を排除して、農業バリューチェーン内外を有機的にコネクトすることである。

世界各国の動向は、農業に直接的あるいは間接的に影響を及ぼす。2030年までに、世界人口は85億人に達するとみられている。発展途上国の中間所得層(年間所得50万〜250万円の層)は拡大し、今後20年間の農産物需要は約1.5倍に膨らむと予想されている。

特徴的なのは、世界の食肉消費量の増加である。国や地域、畜種により差はあれども、その需要は今後着実に増えていく見通しだ。世界的には米国、カナダ、オーストラリアなどのアングロサクソン系の国々で肉需要は大きく、アジアでは小さい。

しかし人口拡大のピークを迎える中国は、アジアの中でも例外的に畜産消費量が増大する傾向にある。牛肉需要についていえば、国内生産だけでは需要拡大を賄えない。そのため2025年までには、輸入量を2015年の水準の最大40%を引き上げる必要があると考えられる。

こうした中国の牛肉需要は、飼料となる大豆やトウモロコシの需要の伸びに影響し、世界の食料需要の拡大を牽引している。

農作物の輸出入戦略に影響を与える要因

世界における主要農産物の貿易取引額は、小麦、大豆、トウモロコシ、砂糖の順に多い。一方で消費量に占める輸出入取引量は、大豆が43%、砂糖が33%と極めて大きな割合を占める。輸出入への依存度が高いと、生産地の政情変化や大規模な自然災害などにより、食料供給が不安定になりがちだ。

地球温暖化も、輸出国の順位に影響を与える。トウモロコシの輸出入量の予測では、このまま温暖化が進行すれば、米国とブラジルが二大輸出国となる。だがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃シナリオ(気候変動による地球の温暖化を1.5℃未満に留める)だと、ロシアやウクライナが大輸出国となる。日本はこうした可能性も考慮し、各国との関係構築をすべきだろう。

世界の農業を変えるアグテックの登場
gremlin/gettyimages

近年、世界の農業を変えるような技術革新が進んでいる。大きくは、デジタル活用、ゲノム編集技術、バイオ製剤と生物農薬に分けられる。ここではデジタル活用として、「アグテック(農業テクノロジー)」について紹介しよう。

まず、ドローンを活用したリモート技術だ。搭載したカメラで農地をライブモニタリングすれば、1日の作業時間の大半を畑の見回りに費やさなくてもよくなる。AIの画像解析と組み合わせれば、必要な箇所にピンポイントで農薬散布することも可能になり、農薬使用量を低減できる。

スマート農業設備としては、GPSを使った自動操縦のトラクターが挙げられる。土壌に合わせて刃が地面に入る深さをコントロールすれば、畑の質を均一化することも可能だ。

さらにAIの活用により、理想の栽培環境を実現できる技術も登場している。実地で収集されたさまざまなデータをもとに、農作物の生育状況や生産量をモニタリングすることで、生産性の最大化や収量予測ができるようになるのだ。

中国の政策転換が世界の農業へ与える影響

世界の農業は、輸出入を通じて相互に関係し合っている。このことは、日本の農業戦略を考えるうえでも無視できない。一国の政策転換が世界の農業にどう影響するのか。

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要約公開日 2020.12.01
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