AIゲームチェンジャー

シリコンバレーの次はシアトルだ
未読
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シリコンバレーの次はシアトルだ
未読
AIゲームチェンジャー
出版社
出版日
2019年11月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

シアトルのAIビジネスが熱い。ITビジネスの中心地といえば、まずはシリコンバレーが頭に浮かぶが、実は今、シアトルのAIやIoTに関わるビジネスシーンに勢いがある。

AIビジネスに理想的な環境が整っているシアトル。アマゾンやマイクロソフト、Tモバイル、エクスペディアなど、世界中で使われるサービスを生み出した企業が拠点を置いており、スタートアップも数多く生まれている。さらにシアトルは、日本企業が多く進出しており、地元のAIスタートアップも、日本の大企業との連携に前向きなケースが多いという。

本書では、これらの多くのシアトル企業がどのようにAIを開発・活用しているのかが、多彩な具体例とともに示されている。「AIビジネスで海外に進出したいが、どこを選べばいいかわからない」「シアトルのAI事情が知りたい」「シアトルにどのように参入すればいいかわからない」。こうした疑問を解消するヒントが数多く得られるはずだ。日本企業が現地でどのように立ち回ればいいか、現地で働く人の視点からも描かれているのはありがたい。視察前におさえておきたい情報をカバーしているため、現地への視察を検討中の方には必読の内容といえよう。

AI産業に従事する者であれば知っておくべき情報が盛りだくさんの良書だ。AIによるゲームチェンジの波を乗りこなしたいのなら、本書を読まない手はない。

ライター画像
池田明季哉

著者

市嶋洋平(いちしま ようへい)
日経BP シリコンバレー支局 支局長
1996年日経BP入社、「日経バイト」でマイクロソフトやノベルなどのテクノロジー業界、「日経コミュニケーション」「日経コンピュータ」で、IBMやNTT、ソフトバンクなどの情報通信産業や通信行政、リスクマネジメントなどを取材した。2009年から3年間、日本経済新聞社の産業部で電機業界を担当。14年に日経ビッグデータを創刊し、事業部門のデータ活用やデータ市場を取材。17年同編集長、18年シリコンバレー支局編集委員。早稲田大学理工学研究科(工業経営)修了。新潟県出身

江藤哲郎(えとう てつろう)
イノベーション・ファインダーズ・キャピタル代表
1984年アスキー入社、86年マイクロソフト日本法人の設立に参加。広報宣伝課長、マーケティング部長代理などを歴任。92年電通入社、2013年経営企画専任局次長。2015年米国ワシントン州カークランドにイノベーション・ファインダーズ・キャピタル(Innovation Finders Capital)を設立。AIスタートアップを日本企業とつなげるAIミートアップを主催。2019年からスワンベンチャーファンドのパートナーを兼任。慶應大学商学部卒。鹿児島県出身

本書の要点

  • 要点
    1
    AIやIoTに関するビジネスでは、日本企業はシリコンバレーよりもシアトルに注目すべきだ。
  • 要点
    2
    税制や立地、優秀な技術者の多さ、スタートアップの支援体制など、シアトルはAIビジネスを行うのに適した環境である。
  • 要点
    3
    シアトルの位置するワシントン州自体が日本企業に好意的だ。現地で働く日本人が多いなど、日本企業の進出においても有利といえる。
  • 要点
    4
    日本企業がシアトルの最先端AI分野で戦うには、「BtoB分野にフォーカスすること」「相手のニーズを見極めること」「ショッピングリストを整理すること」の3つが必要となる。

要約

【必読ポイント!】 AI都市シアトル

なぜシリコンバレーではなくシアトルか
grapegeek/gettyimages

近年、シアトルとその周辺都市に、多くのスタートアップが出現するエコシステムが形成され、世界中から注目を浴びている。その中心は、グーグルやアマゾン、マイクロソフト、フェイスブックといったテックジャイアントだ。これまでは、「ITといえばシリコンバレー」であった。だが、これからAI分野でビジネスを行う日本企業は、シアトルに注目すべきだ。その理由は次の5つである。

1つめは、AIエンジニアを育てるエコシステムがあることだ。人材の供給源は州立ワシントン大学だ。ワシントン大学はAIやマシンラーニングに強みをもつコンピュータサイエンスの学科を擁しており、他分野でもAI利用が活発である。また、マイクロソフトやボーイング社といった大企業が、資金面・教育面で同大学を強力にバックアップしている。優秀なエンジニアを安定して多く輩出する仕組みが整っているのだ。

2つめは、ビジネス分野に強いスタートアップが多いことだ。BtoBの分野をカバーする企業が多いため、インテグレーターなどと連携すれば、日本企業が現地のAIスタートアップを活用することもできる。

3つめは、日本を受け入れる土壌があることだ。シアトルでは、日本の大手企業とシアトルのスタートアップをマッチングするイベントが、過去に14回開催された。もともとシアトルはボーイングなどの航空産業で栄えた街として有名だ。そのため、取引先である日本メーカーに勤める日本人も多い。例えば、任天堂の米国本社もシアトル郊外にあり、1000人以上の従業員を抱えている。こうしたこともあり、ワシントン州政府は日本に対して好意的だ。

4つめは、シアトルの街がシリコンバレーに比べてコンパクトであり、移動がしやすいこと。より短期間でエリアの全体像を理解できるだろう。

そして5つめは、物価がシリコンバレーより全体的に安いということだ。

都市間・州の競争がゲームを変える

産業都市シアトルの優位性とは?
metamorworks/gettyimages

アメリカでは州によって法律や税制がさまざまであり、地理条件も影響して、異なる産業クラスターができあがっていく。シアトルの場合、AIビジネスを取り巻く環境について他都市と比べた際、次の2つの優位性がある。

1つは、エンジニアやデータサイエンティストの層が厚く、企業が受ける恩恵が大きいことだ。コンサルティング大手のアクセンチュアは、2015年に人材確保の面から拠点をシアトルへ移転。データ分析・活用に関わる人材の採用を、ニューヨークとシアトルのみに絞った。州をあげて多数の優秀な技術者を育成しているシアトルでは、これにより理想的な人材が確保しやすくなった。

もう1つは、シアトルはAIだけでなくクラウドサービスの開発拠点でもあるということだ。アマゾンのAWS、マイクロソフトのAzureの世界2大クラウドサービスの開発拠点が存在している。サービスで協業したいと思えばすぐに担当者や責任者と話せるのは、大きなメリットだ。

ワシントン州は法人税・所得税がゼロ

ワシントン州には、法人税も所得税もゼロという制度面での優位性がある。よって同州には、高所得エンジニアやストックオプションを得たスタートアップ企業の経営者が多く集まっている。

ただし法人税がゼロの代わりに、高い売上税が課される。さらには、企業の最終顧客の拠点がワシントン州の外である場合は、それぞれの州の法人税を払う必要がある。そのため、州外の最終顧客と多く取引を行うならば、法人税がないというメリットがそれほど活かされない場合もあることに留意したい。

シアトルからカナダにつながる「AIシルクロード」

シアトルはアメリカの陸海空の交通や物流の要所だ。その交通が今後さらに便利になるかもしれない。シアトルとカナダのバンクーバー、そしてシアトルの南に位置するポートランド。これら3都市を交通機関で結ぶ計画が持ち上がっている。この「AIシルクロード」と呼ばれる計画を強力に支援しているのが、マイクロソフトだ。

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要約公開日 2020.11.12
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