自閉症は津軽弁を話さない
自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く

未 読
自閉症は津軽弁を話さない
ジャンル
著者
松本敏治
出版社
定価
1,078円(税込)
出版日
2020年09月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く
著者
松本敏治
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定価
1,078円(税込)
出版日
2020年09月25日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
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レビュー

「社会性の障害」を抱えているとされる自閉スペクトラム症(ASD)は、特徴的な話し方をすることで知られている。臨床発達心理士であり、大学で教鞭をとってきた教育の専門家である著者は、そのことを長年「当たり前」に感じていた。ある日、臨床心理士である妻が「自閉症児は津軽弁を話さない」と言い出したときも、最初は「ASDの特徴的な話し方がそう感じさせるだけだろう」と考えていた。しかし、「間違った噂は正さねば」と、正式に調査に乗り出すことになる。本書は「自閉症児は津軽弁を話さない」から始まった研究活動の一部始終を追っている。一つの謎を検証しようと調査したら、また新たな謎が出現する――。まるで謎解きミステリーのようでもある本書は、研究というものの大変さと面白さを垣間見せてくれる。

本書のトピックは「自閉症児が方言を話さないという印象」の問題から「方言の機能・役割」へと進み、最終的には「ことばの裏にある意図」へと行き着く。人間は成長していく中で、ことばとともに背後にある意図の理解や、コミュニケーションの手法をも学んでいる。本書は、ことばとは何か、方言とは何か、改めて考えさせてくれる。

自閉症に関心のある方はもちろん、言語に興味がある方、研究の面白さに触れてみたい方にはぜひ本書をお読みいただきたい。「自閉症は方言を話さない」という糸からたどっていった世界は、想像以上に広かったことを目の当たりにするだろう。

矢羽野晶子

著者

松本敏治(まつもと としはる)
1957年生まれ。博士(教育学)。公認心理師、特別支援教育士スーパーバイザー、臨床発達心理士。1987年、北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。1999年、博士号取得(教育学)。1987~1989年、稚内北星学園短期大学講師。1989~1991年、同助教授。1991~2000年、室蘭工業大学助教授。2000~2003年、弘前大学助教授。2003~2016年9月、弘前大学教授。2011~2014年、弘前大学教育学部附属特別支援学校長。2014~2016年9月、弘前大学教育学部附属特別支援教育センター長。2016年10月より、教育心理支援教室・研究所『ガジュマルつがる』代表。

本書の要点

  • 要点
    1
    ことの発端は臨床心理士である著者の妻が「自閉症(ASD)の子どもは津軽弁を話さない」「津軽弁を話さない子どもを調べると自閉傾向があると見分けることができる」と主張したことだった。著者はこれを「困った噂」だととらえて、検証することにした。
  • 要点
    2
    調べていくと、津軽地域に限らず、ASDの子どもたちとかかわる人の多くが、ASDは方言を話さないという印象を抱いていることがわかった。
  • 要点
    3
    心理的背景の理解に困難を抱えるASDは、テレビのセリフの模倣はできても自然言語(方言)の習得ができない。共通語が主流のメディアから言語を学ぶことが多く、その結果ASDは共通語を話すようになるようだ。

要約

自閉症児は津軽弁を話さない?

きっかけは「困った噂」
pikappa/gettyimages

「自閉症の子どもって、津軽弁しゃべんねっきゃ(話さないよねぇ)」

ことの発端は、著者の妻の何気ないひとことであった。妻は津軽地域で臨床心理士として、日々自閉症の子どもとかかわっている。妻によると、母親が方言を話していても、方言を話さない子どもは自閉傾向があると見分けることができるのだという。そして、周囲の自閉症にかかわる人たちの間では【自閉症児者は津軽弁を話さない】は共通認識であるとまで主張するのだ。

自閉スペクトラム症(ASD)の話し方が独特であることはよく知られている。一本調子であったり、奇妙なアクセントやイントネーションがあったりする。著者は、この特徴的な話し方が「方言を話さない」という印象を与えているのではないかと解釈した。

大学で発達心理学の講義を持っている著者は、「津軽弁を話さない=自閉症」という間違った情報を広げるわけにはいかないと考えた。こうして、【自閉症児者は津軽弁を話さない】という研究がスタートする。

2007年、著者は青森市とむつ市で発達障害に関する講演をした。その際、参加者に【自閉症児者は方言を話さない】についてアンケートをとった。すると、この噂を聞いたことがある人は4割にものぼり、噂を聞いたことがあるなしにかかわらず、6割以上の人がこれを事実に近いと感じているようであった。

北東北でも自閉症児は方言を話さない?

噂がない地域でも、人々は同様の印象を抱くのだろうか? 本格的な調査の必要性を感じていた矢先、著者は秋田県北の特別支援学校から講演依頼を受ける。ここで、地域の方言使用、知的障害(ID)や自閉症・アスペルガー障害(ASD)の方言使用についてアンケートを取ることにした。

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