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本書の要点

  • 同じ民主主義であっても、古代ローマから系譜をつないできたイタリアと、およそ150年前に取り入れた日本で、そのあり方が異なってくることは当然である。

  • そうした民主主義の違いに基づく政治的なアプローチの違いが、今回のパンデミックへの対応によって浮き彫りになった。

  • いち早くロックダウンという強硬手段をとったイタリアに対して、日本は世間体や空気によるプレッシャーを利用したのが特徴的であった。

  • 文化的な背景に基づき、日本における民主主義のあり方を、あらためて見つめ直してもいいのではないか。

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イタリアの感染事情

中国からイタリアへ

中国に続いて感染爆発が起きたイタリアでは、3月10日に全土でロックダウン(都市封鎖)が施行された。それによって新規感染者の数は抑えられ、6月3日に国内の移動制限が解除されたが、7月半ばの時点で累計感染者数は24万人を越えた。死者数はアメリカ、ブラジル、イギリス、メキシコに続く世界5位になった。

なぜ中国からイタリアに飛び火したのか。意外に思った人もいるかもしれないが、すでに1980年代から中国資本はイタリアに進出しており、今だと中国なくしてはイタリア経済が成り立たないほどだ。とくにミラノなどが位置する北イタリアと中国の都市はビジネスの結びつきが強く、人の往来も頻繁である。

なぜマスクを嫌うのか

divampo/gettyimages

イタリアでの感染爆発のニュースに、「イタリア人は何かとルーズだから、感染症についてもそうなのではないか」と思った人もいるかもしれない。だが事実はまったくの逆である。

彼らは感染症を含む病気に対して、神経質な一面をもっている。17世紀の黒死病(ペスト)や20世紀初頭のスペイン風邪のことが、民族的記憶として強く残っているのかもしれない。

彼らの感染症と闘う戦略は、体内に「抗体」を持つことである。体の内側から病気をブロックさえすれば、マスクのような表層的な対処は必要ないと考えている。たとえ感染しても、それで抗体ができるなら必ずしも悪いことではない。ウイルスと共生できる人が生き延びていくのであり、極論を言えばウイルスによる淘汰を受け入れるという発想がそこにはある。

日本の感染への疑念

著者はイタリアの家族(夫、舅、姑、小姑)と毎日のように電話で話しているが、日本の感染者の少なさに疑念を持たれているという。とくに日本で何度か満員電車に乗ったことのある夫は、「あんな過密な状態が放置されているのに、ウイルスが蔓延しないはずがない」と主張する。それに対して著者はこう返している。

「よく考えてごらん。あなたが乗った電車って、誰かしゃべってた?」

「いいや。よくあんなところで黙っていられるなと思った」

「だから、そこなんだよ。しゃべらないのよ。むやみに口を開けないし、ベタベタと誰かに接触もしないのよ」

人の距離が近いイタリア

DisobeyArt/gettyimages

イタリア人たちは、恋人や夫婦に限らず、誰ともくっつきたがる性質がある。家族や隣人、友人とも頻繁に抱擁を交わし、頬にキスもする。今度の新型コロナウイルスにおいては、こうした人との接触や会話が多いところが、不利に働いたのではないだろうか。

イタリアだと、親子であればたとえ別々に暮らしていても、ほぼ毎日と言っていいほど電話でおしゃべりするし、週に一度は親族で集まってご飯を食べる。そんな家族のつながりが強いイタリア人からすれば、日本で横行している「オレオレ詐欺」のような手口はありえない。

ひるがえって日本の感染率が他国と比べて抑えられているのは、人との接触が少ないことや、家族でも不必要にベタベタしないといった常日頃の生活習慣が、少なからず関係しているのかもしれない。

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【必読ポイント!】 日本の民主主義のあり方

美術に現れた疫病

感染症に対する認識の違いは、著者の専門分野である美術でも著しい。14世紀半ばにも欧州で猛威を振るい、何千万もの犠牲者を出したペスト。このときは、当時のヨーロッパの人口の3分の1から3分の2が亡くなったとされている。

それを描いたのが「死の舞踏」だ。ペストが骸骨の姿をした死神として表現され、天罰として地上に降りてきて人々を懲らしめるという、まさに地獄絵図のような絵画である。ここから読み解けるのは、「神の教えに忠実に生きない人間は、疫病という『悪』に襲われかねない」という教訓めいたメッセージだ。

一方で日本の昔の絵の場合、あくまで人間と共生する妖怪として疫病を描いているものが多い

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要約公開日 2020.12.18
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