戦略の創造学

ドラッカーで気づき デザイン思考で創造し ポーターで戦略を実行する
未読
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おすすめポイント

経営者はもちろんのこと、一般的な会社員でも経営学を学ぶことの意義は大きい。自分の仕事の質を高めるだけではなく、自分が進むべき方向性を定めるためにも経営学は多くの示唆を与えてくれる。しかし、経営学用語の意味を理解しただけでは学べたことにはならない。ドラッカーの経営哲学や、ポーターの競争戦略に触れ、理解したとしても、それを実践に移すことは簡単なことではない。近年注目されているデザイン思考に至っては、たくさん解説書が出ているために知った気になって、そこで止まってしまってはいないだろうか。

本書の副題には、「ドラッカーで気づき、デザイン思考で創造し、ポーターで戦略を実行する」とある。ドラッカーもデザイン思考もポーターも、それ単独では経営戦略は完遂しえない。複合的に組み合わせて、最適な場面で使いこなすことが求められる。本書には、真に競争力のある新しい価値を生み出し、長期にわたり事業を継続させるための実際的な示唆があふれている。

またこの本では、日本企業が閉塞感漂う現状から脱するための方法についても焦点を当てている。日本企業が求めてやまないイノベーションを引き起こすためには、今こそデザイン思考と戦略の両面から思考することが必要だ。そもそも「自社のビジネスとは何か」から立ち返り、会社がイノベーションを引き起こして競争力もつために何をしなければならないのか、考えるきっかけにしていただきたい。

ライター画像
香川大輔

著者

山脇秀樹(やまわき ひでき)
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院経済学修士課程修了。1982年にハーバード大学経済学博士号取得 (Ph.D.)。ハーバード在籍時の指導教授は、マイケル・ポーターの指導教授と同じリチャード・ケイブス。1982年より旧西ドイツ国立ベルリン社会科学研究所上級研究員、1990年よりベルギーのルヴァーン大学経済学部教授。1995年よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)アンダーソン・マネジメントスクール客員教授を併任し、2000年よりカリフォルニア州クレアモントにあるピーター・F・ドラッカー経営大学院教授。2006年度より同校副学長、2009~12年度に学長を務める。欧米のビジネススクールにおける初の日本人学長。

本書の要点

  • 要点
    1
    日本企業が誇る、品質とコストの最適化による競争優位モデルが揺らいでいる。経営者は、「すでに起こった未来」を見出してこれについて洞察する必要がある。
  • 要点
    2
    デザイン思考で使われるツールを適切に活用すれば、競合優位を生み出す新しい意味や世界観を創造することができる。
  • 要点
    3
    規模の経済性に基づく参入障壁を飛び越えたりするための示唆を、デザイン思考から得ることができる。

要約

ドラッカーで「気づく」

日本企業の戦略と問題点
Terroa/gettyimages

日本には「課題解決のための発想」がいたるところで使われていて、それが生活に溶け込んでいる。車の切り返しが必要ないように回転するターンテーブルがある立体駐車場や、男性用トイレに取り付けられている傘を掛けるフック。そうした例は、ユーザーの痛み・悩みに共鳴し、それを解決するための案を「デザイン」した成果だろう。

製造業においても同様な観点で、ジャスト・イン・タイムに代表されるような生産性向上に貢献するシステムが数多く開発されている。日本経済が置かれた制約条件のもとで直面する課題を解決するための正解を出していく力は、日本の産業が誇る能力だ。

こうした「問題解決のための発想」は「デザイン思考」と共通している点がある。

ところが、日本企業が誇る品質とコストの最適化による競争優位モデルは、さらなる低コストを実現する企業の出現や、今までの企業モデルを無意味にするほどの破壊的な技術革新を前に、根底から揺るがされている。日本企業は、ダイナミックな戦略を考え、未来のイノベーションに投資していかなくてはならない。

すでに起こった未来を見つける

ドラッカーは、著書『The Age of Discontinuity』(『断絶の時代』)のなかで、「エグゼクティブにとって最も重要な仕事は『すでに起こった未来』を見つけることだ」と述べている。

新しい課題を発見して事業機会のアイデアを創出し、イノベーションを引き起こすデザイン思考をさらに高めるためには、「すでに起こった未来」を見つけ、将来へのビジョンを創る作業が重要だ。「すでに起こった未来」の代表例は、人口動態の変化である。日本の高齢化や労働人口の減少は、もはや避けて通ることはできないからだ。政治・経済情勢についても、中国の経済成長や政治的な台頭、アジア諸国の市場拡大は、「すでに起こった未来」と捉えることができる。

経営者にとって重要なことは、技術革新だけでなく社会・経済・環境・政治の分野で起こる変化をも注意深く観察することだ。変化を見過ごすことは、事業機会を見逃すことにつながる。「将来、我々は何になりたいのか?」というビジョンのもと、観察された変化から洞察をおこない、機会を見つけて事業に結びつけることが求められる。

すでに起こった未来を洞察する
metamorworks/gettyimages

洞察は、「すでに起こった未来」によって生じる不調和に着目しておこなうとよい。たとえば、米国ではアジア系アメリカ人が増加しているにもかかわらず、いつも映画では白人が主役になっているという不調和が背景となり、出演者のほぼ全員にアジア系の俳優を起用した作品が大ヒットした。Uberや、Airbnbが始めた新しいサービスも、普段の生活の中で感じる「なんかしっくりしないな」という不調和がきっかけになっている。

消費者の認識の変化や、産業・市場の変化は新しい機会を創出する。技術革新によって世界中で「すでに起こった未来」となっていた消費者の認識の変化を見抜くことができずに、日本はスマホ市場で後手を踏んだ。テスラは、参入障壁の高い自動車産業に対し、シンプルなデザインの電気自動車や、ディーラーを通さない直接販売網といった、変則的な方法で市場参入を果たし、自動車産業の市場構造に変化を起こしている。

【必読ポイント!】 デザイン思考で「創造する」

新しい「意味」を創る

先述したように、新しい戦略モデルを構築するためのはじめの一歩は、すでに起こっている変化を見つけ洞察することだ。その上で、成功したイノベーターになるためには、人間の行動、心理的属性、そして共感を理解し、消費者に新しい「意味」を与える必要がある。

「意味」は、人間が購買を決定する要因となった、その製品が呼び起こす感動・共感を分析すると見えてくる。そして、従来主流であった意味とは別の新しい意味を創造することを目的として、製品・サービスをデザインする。

任天堂は、高画質で複雑な操作をおこなって遊ぶという意味を追求するのではなく、友だちと一緒に体を動かして遊ぶゲームという新しい意味を、Wiiで創り上げた。また、良品計画の無印良品(MUJI)ブランドは、シンプルで、自然で、無名で、調和のとれたその世界観に共感する顧客を世界に持つ。

このように、ユーザーの共感を生む意味と世界観を創り上げることを念頭に、新製品開発やイノベーションを起こしていかなくてはならない。

デザイン思考で使われるツール
kate_sept2004/gettyimages

ここで、新しい意味を見出すために、デザイン思考の手法として使われているツールを紹介しよう。

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要約公開日 2020.12.29
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