ワイズカンパニー

知識創造から知識実践への新しいモデル
未読
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おすすめポイント

成功している企業とそうでない企業の差は、一体何なのだろうか。めまぐるしく変化を続ける時代を生き残る企業に必要なことは何だろうか。現代に生きるビジネスパーソンならば誰もが持つこのような疑問に、本書は極めて理論的に答えてくれる。

本書の特徴は、精神論的な心得ではなく、しっかりとした基盤を持つ理論に裏打ちされている点にある。それはアリストテレスにまで遡る。哲学、心理学、神経科学、社会科学などの各分野の知見を活用しながら、「ワイズカンパニー」や「ワイズリーダー」とはどのような存在かを具体的に考えている。

理論だけでは机上の空論になってしまいがちだが、本書はホンダやファーストリテイリング、エーザイ、JALなど、誰もが知っている様々な企業の実例も交えながら論を進めるため、わかりやすく、説得力がある。本書で掲げられる「『知識創造』と『知識実践』の隔たりを埋める」という目的に即した構成になっている。

この本は同じ著者陣による世界的名著、『知識創造企業』の発展的な続編という形になっているが、本書から読み始めても十分に理解できる内容だ。

2020年、新型コロナウイルスの流行により世界は激変した。我々はこれからも激動の時代を生き、変化に対応していかなければならない。だからこそ、「持続的なイノベーション」をし続けられる企業、人間になる必要があるだろう。本書はそのための極めてクリアなヒントを提示している。一度腰を据えてじっくりと読んでいただきたい一冊だ。

ライター画像
池田明季哉

著者

野中郁次郎(のなか いくじろう)
1935年東京都生まれ。58年早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院にてPh.D取得。南山大学経営学部、防衛大学校、一橋大学産業経営研究施設、北陸先端科学技術大学院大学、一橋大学大学院国際企業戦略研究科各教授、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院ゼロックス知識学特別名誉教授を経て、現在、一橋大学名誉教授、日本学士院会員。知識創造理論を世界に広めたナレッジマネジメントの権威で、海外での講演多数。主な著作に、『組織と市場』(千倉書房)、『失敗の本質』(共著、ダイヤモンド社)、『日米企業の経営比較』(共著、日本経済新聞社)、『直観の経営』(共著、KADOKAWA)、The Knowledge-Creating Company(共著、Oxford University Press[邦題『知識創造企業』])、Managing Flow(共著、Palgrave Macmillan)などがある。

竹内弘高(たけうち ひろたか)
1946年東京都生まれ。69年国際基督教大学卒業。71年カリフォルニア大学バークレー校にてMBA、77年同校にてPh.D.取得。ハーバード大学経営大学院(ハーバード・ビジネス・スクール)助教授、一橋大学商学部教授、同大学大学院国際企業戦略研究科初代研究科長などを経て、現在、ハーバード大学経営大学院教授、一橋大学名誉教授。2019年より国際基督教大学理事長を兼務。グローバル企業との実務経験もあり、ダボス会議をはじめとする国際会議にスピーカーとして数多く出席している。主な著作に、『ベスト・プラクティス革命』(ダイヤモンド社)、『企業の自己革新』(共著、中央公論社)、The Knowledge-Creating Company(共著、Oxford University Press[邦題『知識創造企業』])、Can Japan Compete?(共著、Basic Books[邦題『日本の競争戦略』])、Extreme Toyota(共著、John Wiley & Sons[邦題『トヨタの知識創造経営』日本経済新聞出版社])などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ワイズカンパニーは、知識を創造・実践するワイズリーダーに率いられる。知識は「場」を通じた人と人との相互作用の中で生まれる。社員の知恵を育むことで、持続的なイノベーションが可能となる。
  • 要点
    2
    知識の創造は「共同化」、「表出化」、「連結化」、「内面化」の4つのプロセスを繰り返すSECIスパイラルによって行われる。スパイラルが上昇していくにつれ、知識のコミュニティが個人レベルから組織レベル、社会レベルへと広がり、それに伴って知識実践の規模と質が高まっていく。

要約

ワイズカンパニーの理論基盤

世界が抱える3つの問題
da-kuk/gettyimages

現在の世界には大きく3つの問題がある。

第一に、正しい種類の知識が利用されていない。知識には暗黙知と形式知の2種類がある。多くの企業幹部が頼ろうとしているのは、計量でき、一般化できる形式知のほうである。しかし、形式知を頼る企業は変化に対応できない。社会現象は人々の主観や価値観などを考慮する必要がある、文脈依存的な現象であるからだ。経営者たちはこのことを考えに入れていない。

第二に、未来を「創る」ことが行われていない。科学的な成果や技術の進歩により、多くのことが可能になった。思っていたよりも早く、さまざまな未来が実現しつつある。だからこそ、企業のトップに立つ者は「どんな未来を創造したいのか」を考えなければならない。その未来像の違いが企業の根本的な差を生む。そして、それは自社の利益だけを考えるのではなく、公益の追求でなければならない。企業の経営者は社会にとって善である判断を下すことが求められるのだ。

第三に、時代にふさわしいリーダーが育成されていない。過去に例のないほど世界が不安定な今、賢明な変革者の役割を果たせるワイズリーダー(賢慮のリーダー)が求められる。それは、何事にも文脈があること、変化があることを踏まえて判断し、社会にとって何がよいかを見極めることができる人材である。細かいところまで目を配るマイクロマネジメントと、将来の大局的な構想の両方が必要だ。さらにワイズリーダーには、短期主義の誘惑に負けず、持続可能な企業の運営方針を見出せる力が求められる。

本書は以上の問題を克服するための知的な土台と、よりよい未来を築いていくための方策を解説する。

ワイズリーダーの持つ実践知

リーダーは暗黙知と形式知の他にもうひとつ、「実践知」を用いなければならない。実践知とは、実践、つまり経験によって培われる暗黙知である。賢明な判断を下したり、実情に即した行動を取ったりするのに必要な知識だ。ワイズリーダーは実践知を備えたリーダーである。肩書は関係なく、組織のどこにいる者でもワイズリーダーになれる。

企業は新しい未来を築かなければ生き残れない。リーダーは自らの理想と夢を追って思い切った挑戦をしなければならない。しかし、当然理想を追い求めるだけでは不十分だ。プラグマティックになることで初めて、共通善のために「いま・ここ」で何をするべきかがわかる。リーダーは理想主義的な現実主義者でなければならないのだ。だからこそ、知識と実践知を追究することが大切になる。

ワイズカンパニー(賢慮の企業)とは、ワイズリーダーに率いられる企業を指す。ワイズカンパニーは、知識を創造・実践し、イノベーションを起こすのは人間であるということを知っている。社員の知恵を育むことで持続的なイノベーションを成し遂げているのである。

ワイズカンパニーを育むSECIスパイラル
akindo/gettyimages

知識とは、ある特定の状況や文脈において他者や環境との相互作用を通じて創造され、実践される正当化された信念である。したがって、知識の創造と実践は社会的な営みだと言える。

前著『知識創造企業』で提示したSECIモデルのプロセスは、次の4つにまとめることができる。第一に、個人同士が直接的な相互作用により暗黙知を共有する「共同化」。第二に、個人がチームレベルで共同化によって積み重ねられた暗黙知を統合し、形式知に変換する「表出化」。第三に、形式知が組織の内外から集められ、組み合わされ、整理されることで体系的な形式知が組織レベルで築かれる「連結化」。そして第四に、連結化によって増幅した形式知が実行に移され個人の血肉となる「内面化」である。

知識は個人や組織間で相互作用しながらSECIプロセスをたどることにより、増幅していく。これがSECIスパイラルである。SECIプロセスが繰り返され、スパイラルとなることにより、知識は個人レベルから組織レベルへ、組織レベルから組織間レベルへ、そして社会レベルへと、徐々に高次の方向に上昇していく。この次元が上昇するに伴い、かかわるコミュニティが大きくなり、より多くの人がかかわるようになる。それにより知識実践の規模と質が高まり、より多くのイノベーションの促進につながる行動が引き出される。この運動により、知識創造・実践のコミュニティは大きくなっていく。

このスパイラルの上昇の原動力となるのは、組織の「高次の目的」である。これには、後述するように、組織の利益だけを追い求めない「共通善」の追求が必要だ。SECIスパイラルは、組織が単に環境の変化に対応するというだけでなく、自分たちが思い描く未来を実現するという目的のもと、自己刷新をくり返すプロセスである。

6つのリーダーシップの実践

善を判断し、本質をつかむ
Sezeryadigar/gettyimages

ワイズリーダーには6つの実践が重要となる。

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要約公開日 2021.01.13
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