人生論ノート

未 読
人生論ノート
ジャンル
著者
三木清
出版社
定価
473円(税込)
出版日
1954年10月04日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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三木清
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1954年10月04日
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レビュー

これは、現代には失われてしまった愛と幸福を取り戻すためのノートである。そこに思想家としての強い信念を見るのは、私だけではないはずだ。

ハイデッガーの薫陶を受け、マルクス主義を哲学として理解しようとした三木清は、大戦間の動乱期に人間学を探究した。論理的なものからこぼれ落ちる情念、非合理的な人間的なるものにいかにして形を与えるか。獄死に至るまで三木の頭を駆けめぐったのは、そうした思いだったのではないだろうか。

近代科学や近代的な倫理は、人びとを自意識の過剰に悩ませ、にもかかわらず人びとを無個性へと貶め、うつろな虚栄のなかに閉じ込めた。しかし、そもそも虚無から人、個性は生まれたと三木は説く。カオスから「人生」という形あるものをつくりあげることが、生命であり、人間の所作であった。虚無が悪なのではない。虚無を虚無のままにし、カオスのなかでただ漂泊するだけとなってしまったことが、現代人の人間としての問題なのである。これにいかに対処していくか。ただ過去の感傷に浸り、生活の楽しさに気づけないままでいれば、そこに残るのは「何者でもない誰か」である。

虚無に堕するのではなく、ただひたすらに心の秩序を求めて、希望と幸福ある人生へと向かう。混沌とした時代であるほど、三木の言葉は人間の深いところにあまりにも大きな音で響くだろう。そう、まさにいまこそ、読まれるべき一冊なのである。

石田翼

著者

三木清(みき きよし)
1897(明治30)年、兵庫県生れ。京都帝大で西田幾多郎に学んだ後、ドイツに留学、リッケルト、ハイデッガーの教えを受け、帰国後の処女作『パスカルに於ける人間の研究』で哲学界に衝撃を与えた。法政大学教授となってからは、唯物史観の人間学的基礎づけを試みるが、1930年、治安維持法違反で投獄、教職を失う。その後、活発な著作活動に入るが、再び検挙され、敗戦直後、獄死した。

本書の要点

  • 要点
    1
    今日の人間は幸福についてほとんど考えないらしい。過去すべての時代で、つねに幸福は倫理の中心問題であった。現代においては、新たに幸福論が設定されるまで倫理の混乱は救われないであろう。
  • 要点
    2
    どのような外的秩序も、心の秩序に合致しなければ真の秩序とはならない。人格とは秩序であり、自由も秩序である。
  • 要点
    3
    希望は運命のようなものだ。運命的な存在である人間にとって、生きていることは希望を持っていることである。
  • 要点
    4
    自己を知ることはやがて他人を知ることである。私はただ愛することによって他の個性を理解する。

要約

人間の現実を形作るもの

幸福について
itakayuki/gettyimages

今日の人間は幸福についてほとんど考えないらしい。過去すべての時代で、つねに幸福は倫理の中心問題であった。現代においては、新たに幸福論が設定されるまで倫理の混乱は救われないであろう。

幸福について考えることは、おそらく最大の不幸の兆しであるといわれるかもしれない。幸福である者は幸福について考えないとされているからだ。しかし私たちの時代は、人々に幸福について考える気力さえ失わせてしまったほど不幸なのではないか。今日の人間は自意識の過剰に苦しむといわれているのに。

幸福を単なる感性的なものととらえることは間違っている。幸福の問題は主知主義にとって最大の支柱である。いまの反主知主義の思想のほとんどは、幸福論を抹殺することから出発しているのだ。

幸福は徳に反するものではなく、幸福そのものが徳である。愛するもののために死んだから幸福なのではなく、幸福であったがゆえに愛するもののために死ぬ力を持てる。日常の小さな仕事から、喜んで自分を犠牲にすることに至るまで、幸福は力となる。

死は具体的であると同時に一般的だ。もしあなたがただ一人死にゆくとしても、それが一般的なものでないならば、その死に対して孤独を感じることはできないだろう。死はこの意味において観念と考えられる。一方で生はつねに特殊であり、その意味において想像である。幸福は生と同じく想像であり、この点で個性は幸福であることを意味している。

幸福は人格である。人の幸福は、その人の生命と同じように、その人自身と一つだ。幸福を武器として闘う者のみが死してなお幸福といえる。

虚栄について

虚栄は人間の存在そのものである。人間は虚栄によって生きている。したがって、人間の生活はフィクショナルなものだ。だから、どのような人でも一つだけは小説を書くことができる。その現実性は、私たちの生活そのものによってはじめて証明させる必要がある。

人間の日々の生活が虚栄的であることは、その生活には智慧が必要であることを示している。人生の智慧はすべて虚無に到らなければならない。

虚栄心は、自分があるもの以上のものであることを示そうとする人間的パッションだ。それは人間が社会的であることも示す。つまり、社会もフィクションの上に成立しているのだ。だから、社会においては信用がすべてとなる。

フィクションを自然的なものと思わせるのは習慣の力である。

人間の条件について
francescoch/gettyimages

自己は虚無のなかの一点である。虚無は人間の条件だ。

以前の人間は限定された世界のうちに生活していた。その住む地域は端から端まで見通せる。そこに住まう人の生活条件、環境は限定されたもの、形の見えるものであったから、人間自身も、その精神においても、その風貌においてもはっきりと形のあるものであった。つまり以前の人間には性格があった。

しかし現代人は無限定な世界に住んでいる。すべてがアノニム(無名)でありアモルフ(無定形)である。こうした生活条件に生きる現代人は、無名で無定形であり、無性格だ。今日の人間の最大の問題は、このように形のないものからいかにして形を作るかである。カオスからコスモスへの生成を説いた古代人の哲学には深い真理が含まれている。

善く生きるためには

成功について

今日の倫理学のほとんどにおいて忘れられているのは幸福と成功である。幸福は現代的でないゆえに、成功はあまりに現代的であるがゆえに。現代人のモラルの中心は成功であり、成功することが人々の主な問題になっている。成功は、進歩の観念と同じく直接的な向上としてとらえられている。成功と幸福、不成功と不幸が同一視されている。だから成功はその本性上、他人の嫉妬を伴いやすい。

近代的な冒険心と、合理主義と、オプティミズムと、進歩の観念との混合から生まれた最高のものは、企業家的精神である。近代の人間理想は企業家であり、それは古代の賢者、中世の聖者と同じである。

利己主義について

一般に私たちの生活を支配しているのはgive and takeの原則である。

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