禍いの科学

正義が愚行に変わるとき
未読
禍いの科学
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正義が愚行に変わるとき
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禍いの科学
出版社
日経ナショナルジオグラフィック社

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出版日
2020年11月24日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

科学は人類に発展をもたらすものだ。しかし、発明はときに、人類に取り返しのつかないほどの害をなす。医学の研究者である本書の著者は、あるとき「世界を悪い方向に変えた発明のリスト」を作ることを思いつく。そして、様々な分野の友人たちに作ってもらった過去の最悪の発明リストをもとに、挙げられた候補の中から、「多くの人に死をもたらした」「環境に害を与えた」「その影響が現在にも残り続けている」という観点から「世界最悪の発明」を選び出した。それが本書で紹介される、「アヘン」「トランス脂肪酸」「窒素肥料」「優生学」「ロボトミー手術」「DDT禁止」「メガビタミン療法」の7つである。本書は、それぞれの発明について、どうすれば悲劇を回避できたのかを分析し、過去から学ぶ教訓を説こうとする。

本書の原題は“PANDORA’S LAB”。当初の意図に反して「パンドラの箱」を開けてしまい、世界に禍いをもたらすことになった研究である。わずかばかりの独善や功名心、そうしたものが正義感から生まれたはずの研究を少しずつねじまげていく。その一方で、そうした発明を熱狂的に受け入れた社会があった。

科学との付き合い方が、現代ほど問われている時代はない。知識ももちろん必要だが、より重要なのは科学に対する構え、つまりリテラシーである。本書は科学の歴史に学び、そうしたセンスを磨くために最適なテキストといえるだろう。コロナ禍によって社会が揺れ動いているいまこそ手にしたい一冊である。

ライター画像
しいたに

著者

ポール・A・オフィット
フィラデルフィア小児病院ワクチン教育センター長、モーリス・R・ハイルマン・ワクチン学教授、ペンシルヴァニア大学ぺレルマン医学部の小児科学教授。メリーランド大学医学部の小児科優秀医のためのJ・エドマンド・ブラッドレー賞、米国小児科学会の優れた貢献に対する会長認定、米国医科大学協会のデヴィッド・E・ロジャーズ賞、公共利益医学センターのオデッセイ賞、米国感染症財団のマクスウェル・フィンランド賞など受賞歴多数。「恐ろしい感染症からたくさんの命を救った現代ワクチンの父の物語」(南山堂)、「反ワクチン運動の真実:死に至る選択」(地人書館)、「代替医療の光と闇-魔法を信じるかい?」(地人書館)など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    科学はデータがすべてだ。そして、その正しさを支えるのが再現性である。ところが、そうした検証をすり抜けて、社会にはびこってしまう情報がある。
  • 要点
    2
    オピオイド系鎮痛剤による薬物中毒、マーガリンによるトランス脂肪酸の摂取、殺虫剤DDTの禁止によるマラリアの蔓延、ビタミンCの過剰摂取による健康への悪影響。本書で紹介する事例は、正義から始まった研究が、人に害をなした例だ。
  • 要点
    3
    こうした過去の教訓を生かすためには、時代の空気に流されず、データだけを見るべきだ。

要約

世界最悪の発明リスト

アヘンとオピオイド系鎮痛剤
DNY59/gettyimages

かつては「神の薬」として数々の病気の治療に用いられてきたアヘンであるが、今では個人には中毒を、社会には破滅をもたらすものであることを誰もが認識しているだろう。しかし、アヘンに匹敵する鎮痛効果を持つ薬物がないこともまた事実だ。そこで、多くの科学者は、アヘンの中毒性をなくし、鎮痛効果だけを残す方法を模索してきた。

モルヒネもヘロインも、そうした研究の成果として生まれたものだ。どちらも信頼がおける画期的な治療薬として製薬会社が販売し、広く治療に用いられ、後に大量の中毒者と死者を生み出すことになった。

近年では、同じくアヘンの成分から作られた医療用麻薬、オピオイド系鎮痛剤の蔓延が、米国において大きな社会問題になった。発端は、がん患者の終末医療に際し、痛みを和らげる目的で中毒性のある鎮痛剤を投与することが米国で認められるようになったことだった。その後、1986年に発表された論文で、疼痛(とうつう)管理の専門家がアヘン類縁物質の鎮痛剤の長期服用は比較的安全で、中毒性もなく、医師は鎮痛剤の使用をためらうべきではないと主張した。この論文に乗じた製薬会社が、1995年にオキシコチンという鎮痛剤を発売し、簡単に手に入る薬物として人気を博することになった。正常な使用では接種しきれないほどの大量の薬が全米で処方され、結果として多くの中毒者を生み出した。今世紀の最初の10年で、10万人以上が過剰摂取により命を落とし、交通事故を上回り、米国における事故死の最大の原因となっている。

マーガリン(トランス脂肪酸)

米国の国民病である心臓病。1950年代、大量の脂肪を摂取する国で心臓病の発症率が高いという調査結果から、脂肪が控えめの食事がブームになった。1977年には脂肪を総カロリーの30%に抑えるべきだとするレポートが上院委員会から発表された。じつのところ、脂肪の摂取量と心臓病の発症率の相関については裏づけはなかったにもかかわらず、脂肪摂取の制限は米国政府の正式な政策になった。

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要約公開日 2021.04.03
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