妄想する頭 思考する手

想像を超えるアイデアのつくり方
未読
妄想する頭 思考する手
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妄想する頭 思考する手
出版社
出版日
2021年02月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

斬新なアイデアでイノベーションを生み出す人は、どのように思考を巡らせているのだろうか。著者の暦本純一氏は、「スマートスキン」をはじめとする数々の発明を生んだユーザーインターフェースの第一人者である。スマホがない時代に、画像を複数の指の操作で拡大縮小する「スマートスキン」を開発していたというのだから、天才の成せる技だとしか思えない。しかし、著者は、そのアイデアの源泉は、誰もが持っているはずの「妄想」なのだと語る。

本書で、著者は「妄想」をイノベーションへと昇華させる手法を詳細に公開している。個人が自らの欲望の赴くままに思い浮かべる「妄想」は、そのままでは実現可能性が低く、だれかに求められるような価値もないように思われるかもしれない。しかし、だからこそ「新しさ」を秘めている可能性がある。生まれたてのモヤモヤした妄想を洗練させるために著者が実行しているのは、いたってシンプルな思考法だ。すなわち、自分の妄想を直視することからすべては始まるというのである。

「新しいものを生み出す」ことに苦労している人は多い。そうしたとき、誰かのためではなく、自分のやりたいことを追求した先に、イノベーションが起こりうるとしたら、どんなにわくわくしながら取り組めることだろう。新しい発想を求められるビジネスパーソンだけではなく、やりたいことが見つからない学生や、希望に満ちた未来を渇望する読者におすすめしたい一冊だ。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

暦本純一(れきもと じゅんいち)
東京大学大学院情報学環教授、ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・副所長、ソニーCSL京都ディレクター。博士(理学)。ヒューマンコンピュータインタラクション、特に実世界指向インタフェース、拡張現実感、テクノロジーによる人間の拡張に興味を持つ。世界初のモバイルARシステムNaviCamや世界初のマーカー型ARシステムCyberCode、マルチタッチシステムSmartSkinの発明者。人間の能力がネットワークを介し結合し拡張していく未来ビジョン、IoA(Internet of Abilities)を提唱。
1986年東京工業大学理学部情報科学科修士課程修了。日本電気、アルバータ大学を経て、1994年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。2007年より東京大学大学院情報学環教授 (兼 ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)。放送大学・多摩美術大学客員教授。電通ISIDスポーツ&ライフテクノロジーラボシニアリサーチフェロー。クウジット株式会社の共同創設者でもある。1990年情報処理学会30周年記念論文賞、1998年MMCAマルチメディアグランプリ技術賞、1999年情報処理学会山下記念研究賞、2000年iF Interaction Design Award、2003年日本文化デザイン賞、2005年iF Communication Design Award、2007年ACM SIGCHI Academy、2008年日経BP技術賞、2012年グッドデザイン賞ベスト100、2013年日本ソフトウェア科学会基礎研究賞、ACM UIST Lasting Impact Awardを受賞。2018年平成30年度全国発明表彰「朝日新聞社賞」を受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    課題解決を目的とした真面目なイノベーションだけでなく、やりたいことから発想した「非真面目」なイノベーションの両方が必要だ。予測不可能な未来でイノベーションを起こすために必要なのは、個人の「妄想」である。
  • 要点
    2
    妄想をイノベーションにつなげるには、玄人としての専門性と、素人感覚のような純粋さが求められる。
  • 要点
    3
    頭だけで考えるのではなく、手を動かしながら「神と対話」することで、アイデアを形にするひらめきが訪れるときがやってくる。

要約

【必読ポイント!】 すべては「妄想」から始まる

「非真面目」な妄想を大事に育てよう
ismagilov/gettyimages

「新しいものを生み出す」ことと無縁でいられる仕事は少ない。「新しいものを考えねば」という義務感のようなものに急きたてられている人も少なくない。そんな状況に、著者は強い違和感を抱いているのだという。

著者は研究者としてこれまで世界に存在しなかった新しいものを生み出すことを仕事にしてきた。しかし、それは必ずしも世の中の課題を解決しようという使命感から始まったわけではない。著者の発明の源泉は、自分の中から勝手に、「妄想」として生まれたのである。

著者が発明したマルチタッチインターフェース「スマートスキン」は、画面の上で複数の指を広げたり閉じたりすることで、写真の拡大・縮小ができる技術だ。スマートフォンに採用され、全世界で億単位の人が、毎日のように使っている。

著者がこの技術に関する論文を書いたのは、携帯電話にカメラが搭載されて間もない頃だった。まるでスマートフォンの登場を予測していたかのようだが、著者は「イノベーションのスタート地点には、必ずしも解決すべき課題があるとは限らない」と語る。

多くの企業が取り組んでいるのは、SDGsのように、誰もが課題だと感じることの解決を目指す「真面目」な技術開発である。一方、誰も課題を感じていないのに、ヒットする製品もある。ソニーのウォークマンが良い例だ。ウォークマンが発表された頃、ロボット工学研修者の森政弘氏が示した「非真面目」という言葉が流行った。これは「不真面目」のように真面目度を計る価値軸によるものではなく、自分がやりたいことに集中している態度のことを指す。「やるべきことをやる」真面目なイノベーションが存在する一方、「やりたいことをやる」非真面目なイノベーションも社会には必要であると著者はいう。なぜなら、今ある問題を解決しようとするやりかただけでは、予測不能な未来に対応するイノベーションはできないからだ。

想像を超える未来をつくるために必要なのは、個人が抱く「妄想」だ。仕事で新しいアイデアが求められたら、自分のやりたいことが何かを非真面目に考えてみるとよいだろう。新しい技術は、すぐには他人から理解されなくても、本人が面白さを感じて真剣に考えたことから生まれるものである。まずは「妄想」を大事にすることから始めよう。

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要約公開日 2021.05.17
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