推しエコノミー
「仮想一等地」が変えるエンタメの未来

未 読
推しエコノミー
ジャンル
著者
中山淳雄
出版社
定価
1,980円(税込)
出版日
2021年10月18日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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推しエコノミー
「仮想一等地」が変えるエンタメの未来
著者
中山淳雄
未 読
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定価
1,980円(税込)
出版日
2021年10月18日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
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おすすめポイント

日本のエンタメ業界の現状と生存戦略について書かれた本書は、意外にも占星術の話題から始まる。占星術の領域では2020年12月、200年に一度の節目を迎え、金銭・物質・権威が重視される「土の時代」から知性・コミュニケーション・個人が重視される「風の時代」になったのだという。

エンタメ界にも200年に一度の変化が起きている――著者はそう主張する。良質なコンテンツをつくるのは、もはやテレビ局やゲーム会社だけの仕事ではない。いまや個人もコンテンツを供給する側になり、米国や中国など、巨大資本を持つ国の参入も著しい。著者によると、そんな変化の渦中にある日本のエンタメ業界が目指すべき終着点は「推しエコノミー」だ。

『鬼滅の刃』のテレビアニメが、全国21チャンネルで同時配信されるだけでなく、配信サイトでも公開されたのはなぜか。『半沢直樹』の続編において、ツイッターで毎回「祭り」が起きていた理由とは。「萌え」はなぜ「推し」に変わったのか――本書では、こうしたトピックの分析を通して、日本のエンタメ業界の生存戦略を考えていく。

コンテンツ供給側に立っているビジネスパーソンにとっては、時代性や世界情勢、国内企業の強みが明らかになる、お得な一冊である。『鬼滅の刃』や『半沢直樹』といった身近な話題が多く、またマーケティングなどに生きる示唆も多いため、業界に身を置いていない方も興味深く読めるだろう。コンテンツを愛するすべての方に一読をおすすめしたい。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

中山淳雄(なかやま あつお)
エンタメ社会学者
Re entertainment代表取締役
慶応義塾大学経済学部訪問研究員
立命館大学ゲーム研究センター客員研究員
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在し、日本コンテンツ(カードゲーム、アニメ、ゲーム、プロレス、音楽、イベント)の海外展開を担当する。早稲田大学ビジネススクール非常勤講師、シンガポール南洋工科大学非常勤講師も歴任。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『オタク経済圏創世記』(日経BP)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない?』(PHPビジネス新書)、『ボランティア社会の誕生』(三重大学出版会、日本修士論文賞受賞作)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    テレビドラマ『半沢直樹』の続編は、多くの回でツイート数が20万回を超えた。日曜日の夜にこの番組をネタに「祭り」を楽しむことが認知され、習慣化したのだ。
  • 要点
    2
    2005年以降、ユーザーは「萌え」のように対象に対して内的な感情を抱くことではなく、「推し」、つまりキャラやタレントに何かを与える活動を重視するようになった。
  • 要点
    3
    コロナ禍を経て、東京都心の一等地を押さえるようなマーケティングは時代遅れになった。人が集まる場所はデジタルにシフトし、ネット上に「仮想一等地」が生まれている。

要約

メガヒットの裏側で進む地殻変動

「推しエコノミー」とは何か

占星術の領域では、2020年12月、200年ぶりの時代の節目を迎えた。これまで「土の時代」として金銭・物質・権威が重視されてきたが、これからは「風の時代」、すなわち知性・コミュニケーション・個人が重視されるようになるのだという。

スピリチュアルな話だと感じる人も多いかもしれない。著者もその一人だった。だがコロナによって働き方や生活がめまぐるしく変化したことで、著者自身も「200年前の産業革命以来の人類史の方向性が、このタイミングでシフトチェンジするのではないか」と信じるようになった。

ここから発想されたのが、人々が殺到するキャラクターやタレントを「推す」というファンの行動変容が基軸となる「推しエコノミー」である。

テレビアニメのライブ化:『鬼滅の刃』
FG Trade/gettyimages

この50年、エンタメ産業を牽引してきたのはキャラクターであり、それを生み出す源泉は「テレビアニメ」であった。そんなテレビアニメはいま、地殻変動の最中にある。2019年4~9月に放送・配信された『鬼滅の刃』がその好例である。

テレビアニメはここ20年、テレビ局の電波料やCМ枠代が膨れ上がることを嫌って、日本全国にネットワークのない「弱い」放送局であるテレビ東京やTOKYO MXで流れることが多かった。これに対して『鬼滅の刃』は、全国21チャンネルでの同時配信に踏み切っただけでなく、アベマTVやアマゾンプライムなどといった14のインターネット配信サイトでも流された。アニメプロデュースを手がけるアニプレックスは、「放送・配信はお金を稼ぐところではなく、なるべく面を広くとってユーザーに認知してもらうためのもの」と割り切ったのだ。

『鬼滅の刃』が好評を博した後、2020年10月にフジテレビが劇場版公開に合わせてテレビ放送を行った。配信サイトでいつでも見られる1年以上前のコンテンツにお金を出して「フジテレビのみで放送する権利」を獲得したのだ。

これは再放送でありながらも、同じタイミングで皆が同時に視聴できる「ライブ」としての機能を果たし、再放送第1夜の世帯視聴率は20%を超えた。これは『ゆく年くる年』とほとんど変わらない数字だ。

結果として『鬼滅の刃』コミックスの部数は、アニメ化前の2018年11月末の累計300万部から、アニメの放送・配信が終わった19年11月末には2500万部へと大きく増加した。さらにコロナ禍でブームが起き、20年11月末には1.25億部と前年のほぼ5倍になっているほか、ノベルや主題歌も成功を収めている。

『鬼滅の刃』に代表されるアニメの新しいメディア流通戦略は、「脱テレビ」である。もはや多くのテレビアニメにおいて、ストーリーを展開させたりファンを獲得したりしているのは、放送の力ではない。配信や電子書籍、アプリゲームといった他のチャネルが大きな役割を果たしている。

テレビ番組のライブ化:『半沢直樹』

テレビ番組もまた「脱テレビ」を迫られている。2020年に続編が放送された『半沢直樹』は、歌舞伎役者たちの顔芸や捨て台詞が話題となり、ネタ的な画像や台詞をユーザーが模倣したり拡散したりする「祭り」がツイッター上で拡大した。多くの回でツイート数が20万回を超えて世界トレンド1位を獲得し、最終回のツイート数は57.3万回に到達している。「この1時間の放送中に誰よりも面白いことを叫んでやりたい」「今回の顔芸に、いったいみんなどう反応したのだろう」という「劇場を見渡すような」行動が人々を駆り立てたのだろう。

『半沢直樹』ではテレビの「人々を習慣的に動員する力」という特性が如実に現れた。翌日の仕事に向けて気持ちが沈む日曜の夜はリビング着座率が高くなる。このタイミングにこの番組をネタに祭りを楽しむことが認知され、習慣化したと考えられる。

テレビの未来は、お茶の間を使ったライブコンサートだ。リビングにテレビ、その前にソファがあるという「観客席」がある空間は、テレビが持つ絶対的優位性であると言える。テレビを通じた放送・配信は、この「お茶の間劇場」をどう利用するかが試されるのである。

【必読ポイント!】 「萌え」から「推し」へ

ユーザーの価値観の変化
Tirachard/gettyimages

メディアの変化のかげには、ユーザーの変化がある。ユーザーが変わったからメディアが変わり、コンテンツが変わったのだ。ここでは、ユーザーの変化をみていく。

「推し」は、以前は主に女性に使われていた用語で、宝塚やジャニーズなど特定のタレントが、団体のなかで成長・出世していく様子をともに喜び、感動することを指していた。

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