14歳からの個人主義

自分を失わずに生きるための思想と哲学
未読
14歳からの個人主義
14歳からの個人主義
自分を失わずに生きるための思想と哲学
未読
14歳からの個人主義
出版社
大和書房
出版日
2021年11月01日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

あなたは自分を見失ってはいないだろうか。こう聞かれて「はい」と答える人はまずいないだろうが、よく考えると思い当たることがあるはずだ。「よく寝た」と思って起きたのに、スマートウォッチに「浅い眠り」と表示されたのを見て「やっぱりよく寝れなかったかも」と思ったことはないだろうか。SNSで反応が欲しくて、ちょっとだけ「話を盛って」しまったことは? 同僚が他の人の悪口を言っていて、否定できずに話を合わせたことは?

生きていて、自分を少しも「ごまかした」経験がない人はいないだろう。著者はその積み重ねによって、人は「自分を見失う」のだと述べている。現代社会は変化が激しく、人間関係を含め、さまざまな問題が複雑化している。そんな中で「自分を見失わない」ための「個人主義」を説くのが本書だ。

本書はタイトルにもあるように、14歳くらいの、思春期を迎え、人間関係が複雑化してきた世代がターゲットだ。そのため、平易な言葉で書かれており、例も豊富でわかりやすい。しかし、もちろん大人が読んでも多くの気づきが得られる内容となっている。日々ものすごいスピードで移り変わる現代社会は、誰もが「初めて」の状況に身を置かざるを得ない。もしかしたら現代は誰もが「14歳」の悩みを抱えているのかもしれない。

本書は「自分」ときちんと向き合うためのヒントを、夏目漱石やフロム、荘子、モンテーニュなどの言葉から読み解いていく。変化の激しい毎日だからこそ、変わらぬ「自分」を持つことの大切さを考えさせられる一冊だ。

ライター画像
千葉佳奈美

著者

丸山俊一(まるやま しゅんいち)
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー/東京藝術大学客員教授/早稲田大学非常勤講師
1962年長野県松本市生まれ。旭町中学校、松本深志高等学校を経て、慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「英語でしゃべらナイト」「爆笑問題のニッポンの教養」「仕事ハッケン伝」「ニッポン戦後サブカルチャー史」「ニッポンのジレンマ」「地球タクシー」「人間ってナンだ?超AI入門」ほか数多くの異色教養エンターテインメント、ドキュメントを企画開発、制作統括。大学では、社会哲学、社会思想を講じる。現在も「欲望の資本主義」「欲望の時代の哲学」をはじめとする「欲望」シリーズの他、「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「世界サブカルチャー史」などをプロデュースし続ける。妻と黒猫と暮らす、遊歩人。
@shunzzzz1
著書『14歳からの資本主義』『すべての仕事は「肯定」から始まる』(大和書房)、『結論は出さなくていい』(光文社新書)、制作班との共著に『欲望の資本主義1~5』(東洋経済新報社)、『欲望の民主主義』(幻冬舎新書)、『マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学する/自由と闘争のパラドックスを越えて/危機の時代を語る/新時代に生きる「道徳哲学」』『AI以後~変貌するテクノロジーの危機と希望』(NHK出版新書)ほか。

本書の要点

  • 要点
    1
    物質的な欲望が充足した現代は、「感動できる体験」が商品となる。「かけがえのない」はずの人の感情は、ネットで拡散され交換可能な商品となる。
  • 要点
    2
    人間は体全体の感覚を使って思考するものだが、脳だけを重要視する傾向が強まっている。自分の感覚が信じられず、人は脳を模したAIに支配されていく。
  • 要点
    3
    SNSは、プライバシーを必要以上に露出させ、感情を揺さぶるメディアである。「自己発信」はいつの間にか「自己欺瞞」に変わる。
  • 要点
    4
    社会が変わっても、人の心は大きく変わらない。複雑化した現代社会を乗り越えるヒントは、歴史の中にある。

要約

【必読ポイント!】 なぜ今、「個人主義」なのか?

人々の精神を奪い合う競争となった現代ビジネス

明治の開国以降、日本には「みんな」が一緒にがんばる「集団主義」をよしとする空気が続いている。結果を急ぐがゆえの集団主義は、同調圧力となり、社会に深く浸透したままだ。「個性」の尊重が叫ばれてはいるものの、本当の意味で「多様な個」が尊重される土壌はいまだできていない。そもそもみんなが口をそろえて「多様性が大事だ!」と叫んでいる状況自体、多様性があるとは思えない。

急激な近代化によって国を繁栄させようと集団で奔走した時代から、すでに100年以上が経過した。インターネット社会はアイディアや発想の勝負だといわれ、常に変化を求められる状況になった。

グローバル化は世界の市場をつなげ、多くの国が工業化を達成した。経済競争では、サービスや情報、ブランドイメージなどの重要度が増している。こうした競争は豊かさをもたらす半面、個のあり方や心を蝕んでいる。これからのビジネスは、人々の精神を奪い合う競争とさえいわれているのである。

「心」が「消費財」になる時代へ
Giuseppe Lombardo/gettyimages

人の精神や心までが「商品」となっている現在、人の感情までもが使い捨ての「消費財」となる怖さがある。

物質的に豊かではなかった時代、人々はお金でテレビや洗濯機などのモノを買うことで満足していた。モノが満ち足りた今、人々は「心を動かされる感動体験」にお金を払うようになった。ゲームやアプリ、マンガやアニメ、キャラクターなどの「楽しい、すっきりする、感動できる」商品に多くのお金を使っている。

「心」や「感動」という商品の価値は、人の主観に大きく依存する。一時的な高揚感や熱狂が商品となってその商品価値を高めると、市場での価格が吊り上がり、価格の上昇そのものが価値を示すという現象に至る。現代のネット社会で広がる「感情」という商品は、不確かな「心」が生む「言い値」となりやすい。いつも冷静に、自分にとってのその商品の価値を見極めるのは困難だ。ここに、自分を見失いやすいという落とし穴がある。

「体験」や「共感」という商品を手にした買い手は、感情を消費するだけでなくその思いをネットで拡散させ、市場へ影響を与えていく。体験や喜びなど、人生における「かけがえのないもの」にもなり得る感情はいつの間にか市場に飲み込まれ、「交換可能」なものに置き換わり、すべて「商品」や「消費財」となる。心を商品にするこうした社会の中では、自らの価値観を持つことが重要なのだ。

「自分」を見失いがちな現代社会

「自分」を信じることが「個人主義」

「人真似」だけでは幸せになれないが、かといって「人真似」をしないことは難しい。「人真似」には、周囲の空気や流れに迎合してしまうことも含まれる。その場の空気に逆らわない人真似は、一見楽だからこそ、繰り返すうちに「自分」を失ってしまう。自分への小さなごまかしが積み重なれば、無自覚のうちに自分を信じられなくなり、自分を嫌いになってしまう。これは、もっとも恐ろしいことだ。

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要約公開日 2022.01.09
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