人間の脳は左右に分かれ、それぞれ情報の処理の仕方が異なる。左脳は言語で考え、直列的で直線的な考えをする。右脳は視覚的なイメージで、並列的に情報を処理する。脳にも右利きと左利きがあると言われている。
もしあなたが大会社のCEOなら、おそらく左利きだろう。事実や市場データなどの数字による裏付けを重視する。一方で、マーケティングの人間であれば、きっと右利きだ。根拠となる材料が乏しくとも、勘や直感で判断を行う。
左脳タイプは確信が強く、右脳タイプはそれほど強い確信を持てない。世界は途方もなく広大で、複雑かつ矛盾に満ち、人間には完璧に理解できないという考え方をする。両方の脳を同じように使えれば良いのだが、研究によるとそうはできないらしい。
起業家と経営者は脳のタイプでも分かれているようだ。起業家は例外なく右脳タイプ。大胆な将来像を描き、実現に向け全力を尽くそうとし、しばしば苦しい状況に置かれる。また、起業家は長期的な経営者としては優秀ではないケースが多い。軌道に乗った会社を運営するためには、左脳タイプが必要になってくるのだ。ただ例外は存在するものであり、市場調査に頼らず、視覚的な発想をするスティーブ・ジョブズは右脳タイプのCEOだと言えるだろう。
マーケティングとマネジメントの間には、ビロードの幕が下ろされており、両者を隔てている。『フォーチュン』誌が、創刊75周年を記念し、「ビジネスのすべてがわかる75冊」を選んだ際、何とマーケティングの本は1冊も入っていなかったのはその典型だ。
多くの左脳型CEOは、マーケティングについて誤解をしており、その認識は間違いだらけである。マーケティングは、常識的なものでもなければ、簡単に学べるものでもない。多くの会社の苦境の原因は、CEOにマーケティングの理解が不足しているからである。
2006年、クライスラーは売上が7パーセント減少し、15億ドルの損失に見舞われた。結果として、2007年にダイムラーがクライスラーをサーベラス・キャピタル・マネジメントに売却する。次にサーベラスは、ホームデポのCEOを務めていたロバート・ナルデリを雇った。ナルデリが得意とするのは「コスト削減と製造」だった。ナルデリは1万3000人の解雇を計画するクライスラーの経営陣に対し、「スピードを速められるかどうか、効率を改善できるかどうか。そこに成否がかかっています」と言った。
しかしマーケティングの視点からは、スピードや効率に問題はないし、ましては価格にも問題はない。問題はクライスラーの車を買う理由がひとつもあげられないことにあるのだ。
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