レビュー
世界史をひも解くと、実に多種多様な国々が生まれ、消えていったことが分かる。国境を接する他国と戦火を交えたり、併呑されたり、自ら消滅の道を歩んだりとさまざまな事由があり、それぞれに人間のドラマがある。世界に限らず、日本史を振り返るだけでも、その時代時代を生きた武将やリーダー、人々の生きざまや生活に思いを馳せることができる。
しかし、さらに目を凝らしてみると、教科書には決して載らないような国々の存亡の歴史があるのだと本書は教えてくれる。オックスフォード大学で考古学と人類学を学んだ著者が厳選した、「地図から消えた国々の記事集」だ。
植民地支配と被支配の関係性、あるいは二度の世界大戦の中で翻弄された人々の苦境を背景とした、国家の樹立と滅亡の歴史が端的に48紹介されている。
その「滅亡」のパターンごとに「嘘と失われた王国:国家は意外と「虚言」で始まり、終わる」(第3部)など全4部で構成される。要約では各部から数カ国ずつピックアップした。
遠い昔の歴史の話ばかりでなく、クリミアなど極めて今日的な地域も扱っている。時代背景や地理的条件が異なるため、単純に類型化や比較はできないが、複雑できな臭い現代の国際情勢を読み解くうえできっと参考になるだろう。
【必読ポイント!】 傀儡と駆け引きの道具
クリミア共和国
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国家として成立していた期間は2014年3月17~18日、約200万人が住み、ロシア語、ウクライナ語、クリミア・タタール語が話されていた。
何世紀もの間、征服と再征服がクリミアを舞台に繰り返されてきた。最初の入植者はキムメリオス人であり、スキタイ人に侵略された際に集団自殺を選んだとされる。スキタイ人の後は、ギリシャ人、タリア人、ゴート人、さらに歴史が下ってルーシ人、ハザール人、アルメニア人、モンゴル人、ジェノヴァ人がこの地を支配してきたという。
その後、「大ゲルマン帝国」を掲げるナチスに支配され、残忍な傀儡政権のもと、多くの犠牲者が出た。さらにはスターリンに引き継がれ、人口の大半を占めるクリミア・タタール人を強制収容所に移送しようと企てた。
その後、半島はソ連からウクライナへ譲られた。ソ連が崩壊するとウクライナはクリミアとともに西側に近づく動きを見せる。
クリミアにある不凍港セヴァストポリはロシアにとって利用価値があった。プーチンは大事な港が自分の監視下を離れる事態を看過できなかった。
2014年3月16日、クリミアは住民投票でウクライナからの独立を宣言した。ロシアに編入される直前で、何らの説得力も持たない独立だった。諸外国は投票結果を疑問視した。