プーチンの世界

「皇帝」になった工作員
未読
プーチンの世界
出版社
出版日
2016年12月12日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「プーチンとは何者か」

500ページ超、全14章から成る本書の冒頭、第1章のタイトルであり、主題だ。庶民の家庭で生まれ育ち、一介のKGB職員だった男が大統領にのぼり詰めた経緯や背景が非常に丁寧に描写されている。

「謎多き皇帝」の素顔はいかなるものか。その答えに迫るため、本書はプーチン大統領を「国家主義者」「歴史家」「サバイバリスト」「アウトサイダー」「自由経済主義者」「ケース・オフィサー(工作員)」という六つの側面「ペルソナ」から多面的に捉える形式を取った。その結果、「プーチンの謎をかなり解明することに成功している」とロシア事情に詳しい元外交官の佐藤優氏は太鼓判を押し、「プーチンのロシアについて最良の教科書」と評価している。

本書は、2013年に原書が出版され、2014年のクリミア併合を踏まえた増補を経て、2016年に日本語版が刊行された。巻末にある「ウラジーミル・プーチン関連年表」7ページのほか、注釈や索引だけで約30ページに及ぶことだけを見ても、いかに膨大な資料に当たって執筆されたか、お分かりいただけるのではないだろうか。

冒頭の「日本語版に寄せて」において、「私たちは、ロシアにたびたび驚かされ、さらには衝撃を受けてきた。再三再四、アナリストや政策立案者たちは〝予測不可能な〟指導者に惑わされてきた」と著者は綴っている。そして今もその「指導者」に惑わされ続けている。

ロシアがどこへ向かうのか、錯綜する情報が多い中、精緻な分析と検証を重ねた本書は、確かな情報源として信頼できるだろう。

著者

フィオナ・ヒル(Fiona Hill)
1965年生まれ。米ブルッキングス研究所/米国・欧州センター ディレクター

クリフォード・G・ガディ(Clifford G. Gaddy)
1946年生まれ。米ブルッキングス研究所/シニア・フェロー

本書の要点

  • 要点
    1
    プーチンに関する出自などの基礎事実でさえ、情報源があやふやだ。公式情報が少なく、かつて存在した情報は隠蔽され、消失した。
  • 要点
    2
    プーチンの思考回路や世界観の全体像に迫るため、「国家主義者」「歴史家」「サバイバリスト」「アウトサイダー」「自由経済主義者」「ケース・オフィサー」という六つの側面から多角的に分析する必要がある。
  • 要点
    3
    愛国主義者の多いKGBで勤務していたプーチンが国家主義者を自称することに不思議はない。また、第二次世界大戦で翻弄された家族や地域の中で育ったことも思想に大きな影響を与えている。

要約

プーチンとは何者か

プーチンの望み

1991年のソ連崩壊に伴い、ロシア語が母語のクリミア半島は、プーチンいわく「一袋のジャガイモのように」ウクライナに引き渡された。国家が分断されたと捉えるプーチンにとって、2014年のクリミア併合は「失われた領土」の再併合という宿願だった。

欧州の安全保障上、併合は大きな打撃となった。ロシアは歴史修正主義的な大国に生まれ変わったとの見方が大勢だった。

なぜプーチンはあんなことをしたのか。彼の望みは何か。 いったい何者なのか。ずる賢く、強欲で、権力に飢えた、独裁的な指導者というのは一面に過ぎない。

ウクライナへの行動は、2000年代のロシアにおけるプーチンの試みの延長線上にある自然な成り行きだった。また、彼の民族主義的な発言や併合の決断を、新たな「帝国主義」思想と見る向きもあった。つまり、ソ連や旧ロシア帝国を復活させようとしているとの見方だ。

プーチンの経歴
Terriana/gettyimages

プーチンは1952年、旧ソ連・レニングラードで生まれ、兄弟のなかで唯一生き残った子どもだった。高校卒業後、レニングラード大学で法律を専攻、卒業後にソ連の情報機関KGBに入った。85年に東ドイツ・ドレスデンに派遣され、ソ連崩壊間際の90年、ソ連へ呼び戻された。

KGB時代、プーチンはケース・オフィサー(工作員)となった後、レニングラード大学に戻って学長補佐官を務めた。法学部時代の教授がサンクトペテルブルク市長になった際、貢献したプーチンは副市長となった。

大統領の資産管理の職務のため96年にモスクワ・クレムリンへと異動、数々の要職を歴任した。98年にKGBの後身、ロシア連邦保安庁(FSB)長官に就任した。翌99年にボリス・エリツィン大統領に第一副首相、続いて首相に任命された。12月31日にエリツィンが辞職すると、プーチンが大統領代行に就き、2000年に大統領となった。

これら基礎事実でさえ、情報源があいまいだ。著名人にしては公式情報が驚くほど少ない。かつて存在した情報は隠蔽され、歪められ、消えた。

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要約公開日 2022.03.31
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