ベンチャーキャピタル全史

未 読
ベンチャーキャピタル全史
ジャンル
著者
トム・ニコラス 鈴木立哉(訳)
出版社
定価
3,960円(税込)
出版日
2022年09月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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ベンチャーキャピタル全史
著者
トム・ニコラス 鈴木立哉(訳)
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定価
3,960円(税込)
出版日
2022年09月20日
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4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
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おすすめポイント

20世紀以降、自動車や電子機器、コンピューターなどの工業製品や、インターネットを活用したICT産業において主要なイノベーションを生み出し、中心的な企業を輩出したのはアメリカである。アメリカがその地位を占めることになったのは、人口規模や経済力、軍事力の優位によるものだけではないことが、本書を読むと理解できるだろう。

植民地時代から、アメリカには起業家精神とリスクを受け入れても莫大なリターンを得ようとする冒険的マインドと、金銭的利益を貪欲に追求する文化が根付いており、それが投資と起業の仕組みとして形になったのが、ベンチャーキャピタルであるという。多数の失敗がむしろ少数の大きな成功につながるという実例が、本書では、捕鯨産業から工業、ハイテク産業、ICT産業への投資という歴史を通して、繰り返し提示されている。形は変わってもその本質が引き継がれていることを歴史の視点によって理解できれば、これからのビジネス予測にも役立つだろう。

本書は、ベンチャーキャピタルという狭い分野を対象とした歴史の本でありながら、より広く、現代における経済や金融の発展の筋道や、アメリカ社会の成り立ちを理解するためにも役立つ。今後、日本において新たなイノベーションを生み出すようなスタートアップへの投資がどのようにあるべきかを考えるにあたっても、有力な示唆を得られるに違いない。

ライター画像
大賀祐樹

著者

トム・ニコラス(Tom Nicholas)
ハーバード・ビジネス・スクールのウィリアム・J・アバナシー記念経営管理論講座教授。英国生まれ。オックスフォード大学で博士号を取得、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで教鞭をとったのち現職。起業家精神、イノベーション、金融が専門。これまでチャールズ・M・ウィリアムズ賞をはじめとして、優れた講義を行う教育者向けの賞を複数回受賞。本書がはじめての一般向け単著。日本近代の資本市場にも造詣が深く、「日本の技術的近代化の起源」「明治日本のハイブリッド・イノベーション」「日本における企業の組織」「明治・大正期日本におけるイノベーションの仲介機能と市場について」(清水洋早稲田大学商学学術院教授との共著)などの論文がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ベンチャーキャピタルは、ごく一握りの高リターンな投資と、多数の低パフォーマンスあるいは赤字の投資による、ロングテール型の投資スタイルであり、成功のための失敗を許容する文化を持つアメリカで生まれ、育った。
  • 要点
    2
    ベンチャーキャピタルの投資スタイルの原型は極端にハイリスク・ハイリターンであった捕鯨産業や、当時のハイテク産業のスタートアップであった綿織物業への投資に見られる。
  • 要点
    3
    技術者にもリターンを配分することでインセンティブを与えつつ、出資者は事業運営のガバナンスを担い、有期での資金回収を試みる、リミテッド・パートナーシップの形態が一般的となり、ブレークスルーとなった。

要約

【必読ポイント!】 ベンチャーキャピタルの原点

ベンチャーキャピタルと捕鯨産業
kemalbas/gettyimages

ベンチャーキャピタルとは、数多くのスタートアップ企業へ投資し、ほんの一握りの投資先の成功によって莫大な利益を獲得することを目指す投資スタイルである。一握りの成功を掴めれば、他の多くの企業の低リターンや失敗はやむを得ないと考える。

この投資スタイルについて、縦軸に企業数、横軸に投資先の利益分布のグラフで描くと、縦軸に近いところに山ができ、右側(リターンがプラスの方向)に長い裾野を形成する、「ロングテール」の形となる。このような投資スタイルは、アメリカで生まれ、発展し、イノベーションの強力な牽引役となってきた。

植民地時代のアメリカの捕鯨業と現代のベンチャーキャピタルを比較すると、驚くほど似ていることがわかる。ある研究では、捕鯨航海の約3分の1が赤字であり、利益率が100%を超えて大成功を収めたものは2%弱であった。30%程度のベンチャーキャピタル・ファンドは0以下のIRR(投資の収益率を測る指標)であり、ごく一握りの成功が他をはるかにしのぐという、現代のベンチャーキャピタルの極端にゆがんだ損益分布と同じ特徴が見てとれる。

捕鯨スタートアップのファイナンスは、現代のベンチャーキャピタルと同様に、リスク資本の仲介を核として行われた。投資家が、有限責任組合員(リミテッド・パートナー)として、有期で資金をファンドに拠出し、それを元手として、ベンチャーキャピタルがポートフォリオ企業に投資するというモデルだ。

現代の出資者は、投資先企業の詳細な実態調査(デューデリジェンス)を行えるインフラがなく、新技術に関する専門知識を持ち合わせていないがためにさまざまな障害に遭う。それと同様に、捕鯨業に出資する裕福な個人投資家も、捕鯨に関する専門知識を持たず、船長や乗組員を手配する手段もなかったため、捕鯨業に直接投資するインセンティブがほとんどなかった。したがって、資金をエージェントに預ける形を通して、捕鯨航海の船主持ち分が少人数の出資者に所有される、共同事業組合(パートナーシップ)の形態が採られたのだ。

このように、持ち分が限定された組織モデルは、船主、エージェント、船長、乗組員のインセンティブが一致しやすく、モラルハザードや利益相反を防ぐという利点があった。

以上の要因がそれぞれ補完し合うことで、アメリカの捕鯨業はグローバル市場を席巻することとなる。これは、現代のアメリカのベンチャーキャピタルが起業家集団を支えているのと同じである。

スタートアップへの投資の原点
sorendls/gettyimages

乱獲のせいでクジラが激減し、外国との競争も激化して、19世紀末になると捕鯨業が衰退したため、出資者は他の産業に資金を分散させるようになった。こうして綿織物業が、ハイテク分野のイノベーションに資金提供が行われた最初の舞台となった。

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