NUDGE 実践 行動経済学 完全版

未読
NUDGE 実践 行動経済学 完全版
出版社
出版日
2022年11月17日
評点
総合
4.2
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

我々は「賢い」だろうか。急にこう言われると、謙虚なあなたは「そうではない」と言うかもしれない。顔をしかめるかもしれないが、それは正しい。我々は「賢くない」のである。

今目の前に健康食品のCMが流れているとする。次から次へと網膜になだれ込んでくる情報に、あなたは心のどこかで「この商品いいかも」と思うかもしれない。そんな時、人は画面の隅に記載された「十分な食事管理と運動を行った上での結果です」という注意書きに気付かないだろう。

情報番組が紹介する健康食品の効能に感動する人は、その情報のエビデンスに気を配れないかもしれないし、特効があればとっくに医薬品として開発されているという事実を忘れているかもしれない。我々の判断には常に誤りやバイアスが入り込む余地がある。

本書は行動経済学の入門書だ。人間はミスをするとの前提に立ち、どうすれば人は適切な選択をできるのか、心理学の見地を交えて提案してくれる。そうしたよりよい選択へのちょっとした働きかけが「ナッジ」だ。

2008年刊行の初版を、パンデミックで一変した世界のありようを踏まえて大幅に改訂した行動経済学の入門書にして「完全版」だ。著者のノーベル経済学賞受賞の事実が示す通り、ナッジは世界的に評価されている。

我々がよりよく生きるには、どう「ナッジ」すればいいのか。その説明が、豊富な研究結果とユーモアたっぷりの文章で綴られている。紹介されているコンセプトやアプローチは、「民間部門(企業部門)にそのまま応用できる」といった強気な言いぶりも、決して読者を裏切らないだろう。

著者

リチャード・セイラー(Richard H. Thaler)
米シカゴ大学経営大学院教授。1945年米ニュージャージー州生まれ。74年米ロチェスター大学で経済学の博士号取得(Ph.D.)。米コーネル大学、米マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院などを経て95年から現職。行動経済学の研究で、2017年にノーベル経済学賞を受賞した。著書に『行動経済学の逆襲』(遠藤真美訳、早川書房)、『セイラー教授の行動経済学入門』(篠原勝訳、ダイヤモンド社)などがある。

キャス・サンスティーン(Cass R. Sunstein)
米ハーバード大学ロースクール教授。専門は憲法、法哲学、行動経済学など多岐におよぶ。1954年生まれ。米ハーバード大学ロースクールを修了した後、アメリカ最高裁判所やアメリカ司法省に勤務。81年より米シカゴ大学ロースクール教授を務め、2008年より現職。オバマ政権では行政管理予算局の情報政策及び規制政策担当官を務めた。18年にノルウェーの文化賞、ホルベア賞を受賞。著書に『ナッジで、人を動かす──行動経済学の時代に政策はどうあるべきか』(田総恵子訳、NTT出版)ほか多数、共著に『NOISE──組織はなぜ判断を誤るのか?』(ダニエル・カーネマン、オリヴィエ・シボニー共著、村井章子訳、早川書房)ほか多数がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ナッジは、強制や禁止をせずに本人の「よりよい選択」を後押しする。「ナッジする人」とは「他人に注意喚起をしたり、控えめに警告したりする人」だ。
  • 要点
    2
    人の脳は極めて優れているが、完全ではなく多くのエラーを起こす。問題はエラーを起こす人ではなく、複雑すぎる世界にある。そのため、よりよい選択のための「ナッジ」が必要だ。
  • 要点
    3
    我々の判断はバイアスに満ち溢れている。「アンカリング」「代表性」「利用可能性」といったさまざまなバイアスが判断に介在している。

要約

【必読ポイント!】 ナッジと、中核を成すリバタリアン・パターナリズム

リバタリアン・パターナリズム
Zerbor/gettyimages

「nudge(ナッジ)」とは、親ゾウが子ゾウの背中を鼻でちょっと押すように、強制や禁止をせずに本人の「よりよい選択」を後押しする「使える」経済学だ。「ナッジする人」とはつまり、「ほかの人に注意喚起をしたり、気づかせたり、控えめに警告したりする人」である。

ナッジの中核を成すのは、「リバタリアン・パターナリズム」という概念だ。

とにかく個人の自由に任せ、他者は介入・干渉しないようにしよう――。これが「リバタリアン」の考え方だ。一方の「パターナリズム」は、弱者の利益につながるとして強者が介入・干渉する。この相反するようにも映る二つの概念を組み合わせたものが「リバタリアン・パターナリズム」である。

「リバタリアン・パターナリズム」の戦略におけるリバタリアン的な側面としては、他者に害を与えない限り、人は自由に行動すべきであり、自分が望まない場合にはオプトアウト(拒否の選択)をする自由が与えられるべきだと説く。一方、パターナリズム的な側面としては、人びとが健康でよりよい人生を送るため、「選択アーキテクト」が人の行動に影響を与えようとすることを当然視する。

選択アーキテクトは「選択の設計者」であり、人びとが意思決定する文脈を整理して示す責任を負う。民間の組織と政府は、暮らし向きがよくなるような選択を人びとにうながせるよう、自覚的に取り組まねばならない。

何十年にも及ぶ行動科学の研究によれば、人は「まずい選択」をする傾向がみられる。著者らが提唱するリバタリアン・パターナリストは「完全な情報を得て完璧にセルフコントロールできている状態であればするであろう選択を、きちんと選択できるように手助けする」ことを目指している。

押し付けがましくなく、選択が制限されたり、大きな負担になったりするわけではない。しかしながら、官民の選択アーキテクトは、人びとをよりよい方向へ進ませるようにする、つまり「ナッジする」必要がある。

よりよい選択へちょっと一押し

本書が表す「ナッジ」は、選択を制限したり大きな経済的インセンティブを与えたりすることなく、人びとの行動を予測可能なかたちで変える、「選択アーキテクチャー」のあらゆる要素のことだ。

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要約公開日 2023.02.11
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