新幹線お掃除の天使たち

「世界一の現場力」はどう生まれたか?
未読
新幹線お掃除の天使たち
新幹線お掃除の天使たち
「世界一の現場力」はどう生まれたか?
著者
未読
新幹線お掃除の天使たち
著者
出版社
出版日
2014年01月17日
評点
総合
3.3
明瞭性
3.5
革新性
3.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

ターミナル駅で新幹線に乗ったことがある人のなかには、前の乗客が降りたあとにテキパキと清掃を行うチームのすばらしい統率力に魅了されたことがある人もいるのではないだろうか。

この高速鉄道が長く日本人の誇りとなっている理由は、おそらく速さだけでなくその安全性も挙げられるだろう。旅行や出張に行く際に、車や飛行機を利用する場合、家族からは安全を願う言葉をかけられることもあるだろうが、新幹線に乗っていくから、と言った場合、そのような声はほとんどかけられないはずだ。だが、新幹線の運行を支えているのは、そうした技術的な側面だけではない。本書で紹介される「テッセイ」こと「鉄道整備株式会社」は、クリーニングの手際の良さ、礼儀正しさ、意識の高さなど、おそらく世界でも例のないほどの高い水準にある。また、到着する新幹線に対して一列に整列し、礼をする様子は、航空機が出発する際に整備士が手を振っているのと同じく、我々の乗車体験をとても温かみのあるものにしてくれる。

本書ではテッセイの従業員がどのような意識を持って、どのようなサービスを実際に行っているのかが、エンジェル・リポートという社内の報告書をもとに紹介されている。また、テッセイがどのように今の姿に進化したのかが具体的な事例を用いてまとめられている。接客業だけでなく、サービス業に携わっている全ての方、新幹線の愛好者など多くの方にとって清々しい読了感を与えてくれるものであり、是非ご一読いただきたい一冊である。

ライター画像
大賀康史

著者

遠藤 功
早稲田大学ビジネススクール教授。
株式会社ローランド・ベルガー会長。
早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。早稲田大学ビジネススクールでは、経営戦略論、オペレーション戦略論を担当し、現場力の実践的研究を行っている。また、欧州系最大の戦略コンサルティング・ファームであるローランド・ベルガーの日本法人会長として、経営コンサルティングにも従事。戦略策定のみならず実行支援を伴った『結果の出る』コンサルティングとして高い評価を得ている。カラーズ・ビジネス・カレッジ学長。中国・長江商学院客員教授。株式会社良品計画社外取締役。
主な著書に『現場力を鍛える』『見える化』『ねばちっこい経営』(いずれも東洋経済新報社)、『MBAオペレーション戦略』(ダイヤモンド社)、『企業経営入門』『「日本品質」で世界を制す!』『伸び続ける会社の「ノリ」の法則』(いずれも日本経済新聞出版社)、『競争力の原点』『日本企業にいま大切なこと』(いずれもPHP研究所)、『未来のスケッチ』(あさ出版)、『課長力』(朝日新聞出版)、『経営戦略の教科書』(光文社)などがある。『現場力を鍛える』はビジネス書評誌『TOPPOINT』の「二〇〇四年読者が選ぶベストブック」の第一位に選ばれた。『見える化』は二〇〇六年(第六回)日経BP・BizTech図書賞を受賞。

本書の要点

  • 要点
    1
    JR東日本のグループ会社で「テッセイ」の愛称を持つ、鉄道整備株式会社は、新幹線の車内の清掃に留まらないトータルサービスを行い、その利用者を魅了してやまない。
  • 要点
    2
    テッセイの従業員は、清掃の手際の良さ以上にその礼儀正しさが際立っており、従業員の自身のサービスに対する愛情やプライドで支えられている。
  • 要点
    3
    こうした文化はもともと備わっていたものではなく、2005年に当社の取締役経営企画部長に矢部氏が着任したことをきっかけに、その後の7年間にもわたる改革の中で培われたものである。

要約

「お掃除の天使たち」が働く会社

iStock/Thinkstock
なぜ新幹線の車両清掃会社がこれほど私たちの胸を打つのか

新幹線の車両清掃を行っている、鉄道整備株式会社。通称「テッセイ」の名前で親しまれている同社は、数多くのツイッターでその仕事ぶりがさかんにつぶやかれ、そのフォロワーは合計すると数万人にも上る。

「清掃員の早技スゴすぎ。」「新幹線の清掃隊かっけー!整列からの一礼がビシッと決まってる!」「新幹線に乗るたびに思うけど、丁寧に車両内を清掃してテキパキと働く人たち。他の国ではここまでやらないよね。日本という国のいいイメージをつくっている人たちだな」

この会社は、日本という国のよさだとまで認識している人もいるのである。

テッセイは旧国鉄時代の昭和二七年に設立されたJR東日本のグループ会社。JR東日本が運航する東北・上越などの新幹線の車両清掃、東京駅・上野駅の新幹線構内の清掃などを主な業務とする会社である。そうした「縁の下の力持ち」的な会社が、ツイッターだけでなく、多くのメディアで取り上げられている。『日経ビジネス』では「最強のチーム」として紹介され、テレビ朝日の「スーパーJチャンネル」やテレビ東京の「ワールドビジネスサテライト」でも放送された。

掃除という行為、あるいは所作は、よく「無言の説法」と言われる。汚れたところを一心にきれいにしようとする姿は、周囲の人たちが思わず手をあわせたくなるほど尊く、気高いものだという意味である。私たちはそれをテッセイの皆さんの仕事ぶりに感じているのであり、そう感じるところが日本人のとても良いところであろう。

テッセイには「エンジェル・リポート」と呼ばれる仕組みがある。これは現場でコツコツと頑張っている人たちを、現場の上司や仲間が褒める仕組みである。以降ではその「エンジェル・リポート」の内容を紹介していく。

「新幹線劇場」で本当にあった心温まるストーリー

iStock/Thinkstock
わたしの仕事はおかあさん

足掛け一七年、この仕事を行い、今、主任をしている。主任になると、後から入ってくる人たちの面倒をみる。そこには色々な人が入って来る。主婦しかしたことがなかったおばさんもいれば、まだ二〇代、三〇代の若い人も入ってくる。

二年前のことである。二二、二三歳の色白で細面、ヒゲも薄いような、今どきの男子が入ってきた。普通に動くのは動くが、とにかく挨拶ができなかった。専務は常に自分からでも挨拶されるような方だから、「おはよう」と声かけられても、本人は黙って、うなずいたのか、会釈したのかわからないような状態。専務が、「あの子、大丈夫かね・・・」と言われた。でも、彼が人が言ったことは一生懸命やる性格だということは見ていたので、「専務、すみません。あの子にはいいところがいっぱいあるんです。もうちょっと見てあげてもらえませんか?」

そんな彼に難問が持ち上がった。順番に『スマイル・テッセイ』という心構えが書かれたテキストを読み上げ、それをみんなで聴いて、働く気持ちや安全への心構えを確認し合っているが、その日は、初めて彼が読むことになっていた。

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要約公開日 2013.10.31
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