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新浪剛史、ローソン作り直しの10年


本書の要点

  • 新浪氏が社長に就任した時、社員は親会社の都合でローソンが振り回されてきた経緯から、経営に対する不信感が大きく、期待よりも諦めや反発の気持ちが強かった。

  • 就任後にまず手掛けたのは、コンビニの主力商品である「おにぎり」の商品開発。商品部を外し、先入観なしで挑んだこのプロジェクトの成功によって、組織は競合に対する「自信」と、経営に対する「信頼」を取り戻し始めた。

  • 新浪改革ではセブンイレブンの「中央集権」と異なる「地方分権」を推進した。乏しいリソースを組み替えて、やり繰りして、勝てるポートフォリオに変える、つまり弱みを強みに転じるという点が新浪経営の最大の面白さの一つである。

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新浪剛史、ローソン社長就任

経営に対する不信感

iStock/Thinkstock

2002年6月、社長として最初に臨んだ朝礼で、新浪は緊張の面持ちで自分を見つめる社員たちに向かって言った。「ぜひ、どのチェーンにも負けないような、うまいおにぎりを作りたい」白けた空気が場を包む。古参社員たちの中には、筆頭株主・三菱商事から送り込まれてきた新社長の発言に失笑する者もいた。小売りについて何も知らないハーバード大学MBAホルダーのエリートが気まぐれを言っているに違いないと。新浪もまた語りかけながら「手応え」のなさを感じていた。「あなたはエリート商社マン。欲しいのは、ローソンを変革したという『実績』でしょう。短期的に、ローソンが良くなったように見せればそれでミッションは完了。僕たちがその先どうなろうと知ったことではないはずだ」と。社内を覆っていたのは、社員たちの、経営に対する不信感だった。その背景にあるのは、これまでローソンが歩んできた経緯にほかならない。

迷走する経営と上場の「傷跡」

社長就任から遡ること二年強、三菱商事の社員だった新浪は、ダイエー創業者の中内功から驚くべき提案を切り出された。「ローソンの株の一部を、三菱商事に持ってもらいたい」苦境にあるダイエーにとって、コンビニ事業を担うローソンはまさに「虎の子」の優良子会社。二兆円を超えるまでに膨れ上がった有利子負債を削減するために、売却交渉を進めていたのだ。当時業界内でローソン株の売却先として有力視されていたのは、同じ総合商社でダイエーと関係の深い丸紅。三菱商事と丸紅のローソン争奪戦を三菱商事が制したのは、この争奪戦は、商社側から見た「商社の川下(小売り)展開」という文脈の「買収劇」というよりも、むしろ現実には、一刻も早く有利子負債を圧縮したいダイエー――裏を返せば、多額の債権を少しでも回収したい金融機関――主導で進められた「売却劇」の色彩が強かったからだ。三菱商事と組んだ方が、株価が高くつく。ダイエーがローソン株を三菱商事に売却すると発表したその日、ムーディーズがダイエーの長期債格付け見通しを「安定的」から「ポジティブ」に引き上げたことからも、その狙いはまずは当たった、と言えるだろう。しかし、その後のシナリオは市場の動静にかき回されて狂っていく。1999年当時、株式市場では「コンビニはEC(電子商取引)の商品受取拠点などとして活用できる」とコンビニECの可能性が高く評価されていたが、

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要約公開日 2013.10.31
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