砂漠と異人たち

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砂漠と異人たち
出版社
朝日新聞出版

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出版日
2022年10月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

現代を生きていながら、SNSを使ったことがない人はほとんどいないだろう。その一方で、SNSを「使いこなしている」と自信を持って言える人はどれくらいいるだろうか。自分が投稿したい内容を書くのではなく、投稿することで自分をよりよく見せようとしてはいないだろうか。知らず知らずのうちに「使う」のではなく「使わされている」――そこにある承認欲求のゲームに取り込まれてしまってはいないだろうか。

こうしたSNSをめぐる共感の獲得ゲームが政治に利用され、あるいは陰謀論の温床となっている。新型コロナウイルスを背景にしてさらに強まったこの傾向は、「インフォメーション」と「パンデミック」から「インフォデミック」と名付けられ、人々を脅かしている。

我々を否応なく巻き込んでしまっているこのゲームの外部に脱出するためには、どうすればいいのだろうか。著者の宇野常寛は外部=砂漠を目指した「アラビアのロレンス」に村上春樹を接続しながら、この問いに答えを出そうとする。そして両者の共通点を「走る」という意外な営みに見つけ、その上で「遅く走ること」が重要だと説く。それが果たしてどのような意味を持つかは、読んでたしかめてもらいたい。

本書は現代の情報環境を生きるすべての人間にとって、向き合わざるを得ない問題について語っている。現代における目指すべき「砂漠」がどこにあるのか、ぜひ考えてみてほしい。

ライター画像
池田明季哉

著者

宇野常寛(うの つねひろ)
評論家、批評誌〈PLANETS〉編集長。1978年生まれ。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『日本文化の論点』(筑摩書房)、『母性のディストピア』(集英社)、『若い読者のためのサブカルチャー論講義録』(朝日新聞出版)、『遅いインターネット』(幻冬舎)、『水曜日は働かない』(ホーム社)、共著に『こんな日本をつくりたい』(石破茂との対談、太田出版)、『静かなる革命へのブループリント――この国の未来をつくる7つの対話』(共編著、河出書房新社)ほか多数。自身が提唱する「遅いインターネット」運動を実践する雑誌『モノノメ』の編集・発行を不定期で続けている。

本書の要点

  • 要点
    1
    現代の情報環境下において、人は相互評価のゲームに取り込まれてしまい、その外部に出ることは容易ではない。
  • 要点
    2
    しかしこれは普遍的な問題である。「アラビアのロレンス」が砂漠に傾倒したのも外部への憧れからであったが、戦争と自ら作り上げたはずの虚像に精神をすり減らしていく。
  • 要点
    3
    村上春樹は小説においてこの問題に取り組んだ作家である。市民ランナーとしても知られる村上春樹は、内部に潜ることでこの問題を解決しようとしたが、性搾取的な構造から抜け出すことはできなかった。
  • 要点
    4
    アラビアのロレンスと村上春樹の共通点は「走る」ことへのこだわりにある。しかし彼らがすべきだったのは、もっと「遅く」走ることだったのではないか。

要約

パンデミックからインフォデミックへ

閉じたネットワークと相互評価のゲーム
invincible_bulldog/gettyimages

新型コロナウイルスの強い影響下にある現在において、感染によって生命が奪われる危険と同等かあるいはそれ以上に深刻な被害を与えているのが、インターネット上の情報の独り歩きによる政治的・経済的な混乱である。WHOは、この情報の混乱を「インフォデミック」と名付け、各国に警戒を促している。

人々はこの未知のウイルスについて検索し知識を得ることで不安を和らげようとしたが、そこで多くのデマが問題となった。フェイクニュースや陰謀論は、実際にワクチンの接種を妨げる結果になっている。

今日の情報化社会はSNSを舞台にして、共感の獲得を競う相互評価のゲームに覆われている。そこでは、真に議論されるべき問題そのものについては議論されなくなった。

こうした傾向は、コロナ・ショック以前から存在していた。政治からサブカルチャーまで、2010年代はSNSのプラットフォームが人々をサイバースペースの日常から実空間の非日常に「動員」していた時代だった。しかし、動員された先で、人々は事物そのものに触れることはできなかった。旅行に出かけたとしても、人々は目当てのスポットだけを巡り、目に入れたいものだけを目に入れる予定調和の活動になりがちだ。どこに動員されても、事物そのものよりも、事物を通じた人間とのコミュニケーションにばかり気を取られている。そしてコロナ・ショック下ではウイルスとの対峙から目をそらし、人間とばかりコミュニケーションを取っている。

では、閉じた相互評価のネットワークから、どうすれば脱出できるのだろうか。

アラビアのロレンス問題

ロレンスにとって「砂漠」とは何か

そのヒントを与えてくれるのが、「アラビアのロレンス」と呼ばれる人物だ。イギリスの裕福な家系の私生児という複雑な生まれを持つトーマス・エドワード・ロレンスは、オックスフォード大学を卒業した後、考古学者の卵として中東に滞在するうち、砂漠の魅力に魅入られていく。

オスマン帝国(トルコ)からのアラブ独立戦争の折、イギリスはアラブに協力した。アラビア語と現地の事情に明るいロレンスは、軍人としてこの戦争に関わっていくことになる。ロレンスはアラブの非正規兵によるゲリラ戦を扇動・支援し、アラブ反乱に大きな影響を与え、イギリス人でありながらアラブの民族衣装に身を包んだ「アラビアのロレンス」を自己演出し、英雄視されていくようになる。しかしロレンスは戦争のなかでその精神をすり減らしていき、やがてスピードに取り憑かれ、オートバイの事故で命を落とした。

では、果たしてロレンスは何と戦い、何に敗北したのだろうか。

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要約公開日 2023.04.13
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.Copyright © 2023 宇野常寛 All Rights Reserved. 本文およびデータ等の著作権を含む知的所有権は 宇野常寛、株式会社フライヤーに帰属し、事前に 宇野常寛、株式会社フライヤーへの書面による承諾を得ることなく本資料の活用、およびその複製物に修正・加工することは堅く禁じられています。また、本資料およびその複製物を送信、複製および配布・譲渡することは堅く禁じられています。
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