新解釈 コーポレートファイナンス理論

「企業価値を拡大すべき」って本当ですか?
未読
新解釈 コーポレートファイナンス理論
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「企業価値を拡大すべき」って本当ですか?
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新解釈 コーポレートファイナンス理論
ジャンル
出版社
ダイヤモンド社

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出版日
2022年10月04日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

400ページ超にわたる「コーポレートファイナンス理論」の本。聞き馴染みのない学問であることに加え、このボリュームときたら、気軽に手に取れる人は多くないかもしれない。

しかし本書は、そうした取っつきにくさを良い意味で裏切る。

もし本書を書店などで目にする機会があったら、試しに第8話「コスト削減の努力は報われるか?」のページを開いてみてほしい。そこには大阪出張で宿泊先を選ぶ著者のエピソードが載っている。日本企業は社内規程などで宿泊費の上限が決められていることが多い一方、米国企業には「お金が多くかかっても、その分だけ稼げばいい」という文化があると紹介されている。ビジネスにかかるお金を費用と考えるか、投資と考えるかという違いだ。あるいは第12話「会社は本当に株主のためだけに存在するのか?」から読み進めるのもいいかもしれない。

著者の「新解釈」は、ゴマンとある企業それぞれに異なる、さまざまなルールや知識をつなぎ合わせて体系化したものだ。思わず人に伝えたくなるようなストーリー仕立てとなっている。教授として教鞭を執る著者らしく、各話の終わりはコーポレートファイナンス理論の枠を超え、洞察に富んだ教訓まで書かれているのも魅力だ。

ともかく「企業価値を拡大すべき」という、一見当たり前のように受け入れられている通念を問い直すことの面白さに触れられる一冊だ。

ライター画像
Keisuke Yasuda

著者

宮川壽夫(みやがわ ひさお)
大阪公立大学大学院経営学研究科・商学部 教授
博士(経営学)。筑波大学大学院博士後期課程修了。
1985年4月野村證券株式会社入社。営業部門、英国留学、投資銀行部門を経て2000年8月米国トムソンファイナンシャル・コンサルティンググループに移籍(アジア統括シニアディレクター)。2007年10月に再び野村證券株式会社に移籍(IBコンサルティング部上級専任職エグゼクティブディレクター)。2010年4月大阪市立大学(現大阪公立大学)大学院に専任講師として赴任。同年10月准教授、2014年4月教授。2015年4月よりワシントン大学(University of Washington)客員研究員を兼任。2020年4月一橋大学大学院客員研究員を兼任(〜2021年3月)。上場企業の社外取締役・監査等委員を兼任。
主な著書に『企業価値の神秘 コーポレートファイナンス理論の思考回路』(2016年、中央経済社)、『配当政策とコーポレート・ガバナンス 株主所有権の限界』(2013年、中央経済社)。他論文、メディア向け論稿多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    コーポレートファイナンス理論は企業価値を拡大する方法ではなく、企業行動のミステリーを解明するための学問だ。
  • 要点
    2
    時価総額に有利子負債を足し、現金と預金を差し引いた金額と非事業用資産を加えたものが「企業価値」である。資本コスト以上のキャッシュを獲得すると企業価値は拡大する。
  • 要点
    3
    完全市場に近い現実の世界で、不可能に近い企業価値の拡大を実現するには、企業にとって従来の連続性を打ち破ることが必要だ。
  • 要点
    4
    費用を削減しても企業価値が拡大するとは限らない。手元に置いてある現金に価値はなく、将来どれだけのキャッシュフローを生む力があるかにこそ、価値がある。

要約

【必読ポイント!】 企業価値の拡大とは

企業のミステリーを解明する学問

「企業は企業価値拡大という目的を果たさねばならない。そのためにはコーポレートファイナンス理論を勉強し、企業価値拡大の方法を学ぶ必要がある」

よく見聞するこうした言説に、多くの人はさして疑問を持たないのではないだろうか。しかし、「この初期設定がそもそも間違っている」というのが本書の中心的な問題意識だ。

本来コーポレートファイナンス理論が教えることは「仮に企業の目的がその価値の拡大にあるとしたら、企業はどのような行動を取るだろうか」という論理の道筋だ。企業価値拡大の実践的ハウツウを提供する学問ではない。

将来なにが起きるかをだれも予知できず、だれもがその不確実性に不安を抱きながら決断を下す。その決断と行動をどのように評価すべきか――。そのような果てしなく膨大な思考過程を説明するため、時としてさまざまな二律背反を相克しながら、コーポレートファイナンス理論は体系づけられている。

企業の行動に関するミステリーを、主にミクロ経済学を応用して解明しようとする学問。それがコーポレートファイナンス理論だ。

「価値とはなにか」「そもそも企業とはなんであるのか」といった根本的なところから、本書は丁寧に解きほぐしていく。

資本コストと素直な信仰
Rawpixel/gettyimages

「株式会社」という組織の現場は、緊張感と喜怒哀楽に包まれている。なにかに追われているかのように毎年利益を求め続け、組織の一員は仕事がうまくいけば、時に傲慢になり、うまくいかなければ自信を喪失する。株式会社をそうしたテンションの高い組織に駆り立てるものは「資本」という存在だ。

商売の元手となったおカネである資本が最終的に増えたかどうか、それが株式会社の成果だ。もし会社が期待されていた以上に資本を増やしたら、その分が会社によって生まれた価値として称賛される。そして、多くの資本がその会社に押し寄せ、商売を大きくできる。それが株式会社という説話原型だ。

企業が行う事業の不確実性(リスク)を、年率〇〇%と具体的な数値で表したものが資本コストである。

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要約公開日 2023.04.22
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