荘子 内篇

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荘子 内篇
出版社
出版日
2013年07月10日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

ギリシアの哲学者アリストテレスとほぼ同じ時代、中国の歴史において、最も偉大かつ「まとも」でない思想家が生まれた。荘子である。彼の思想は老子のそれと結びつけられ、いわゆる「老荘思想」と呼ばれることもある。しかし、政治に未練はなく、刻々と流れる変化そのものを道とし、「今」をいかに生きるか、自分の人生と真剣に戯れることに命をかける荘子の思想は、彼ならではのものである。現代人の疲れた心を癒やすサプリメントになること請け合いだ。

ユーモア満点で、ふざけた内容であったり、世俗的な価値観を一切認めなかったりする表現は、時に強烈な毒を持つ。だからこそ本編を読む前に本書の訳者解説をまずはぜひ読んでほしい。毒を薬に変える福永氏の荘子の世界への案内が、適切で心温まる読者へのアドバイスになっているからだ。要約者は本編を読んだ後、再び解説を読んだ。そうすると荘子の毒、いや薬をまた飲んでみたくなった。

この荘子の思想はどこから生まれたのだろうか。西暦前4世紀の中国は、闘争と殺戮の血なまぐさい戦国時代だった。荘子は「人間が生きるとは、憂(かな)しむことだ」と歎く。この不安と絶望の社会のなかで荘子の哲学が形成されたからこそ、現代にも通用する「否定」と「解脱」の書になっているのだろう。

単なる処世術の本ではない。厳しさと絶対自由の奔放さにあふれた思想書だと思う。刺激的な読書体験をしたい人にぜひお勧めしたい。

ライター画像
たばたま

著者

荘子(そうし)
中国の戦国時代の思想家で、道教の始祖の一人とされる人物。姓は荘、名は周、子は尊称。あらゆる人為的なものを否定し、自然との合一を理想として生きた。

本書の要点

  • 要点
    1
    生があると同時に死があり、可があると同時に不可がある。物を斉(ひと)しくする論理、すなわち万物は一体であるという考え方を「斉物の理」とよぶ。
  • 要点
    2
    天と知を創り出した道とは、確かに実在するが、形はなく、受けとることはできても、人に伝えることはできない。道自体の内に存在の根拠がある。
  • 要点
    3
    無欲恬淡の境地で、万物をあるがままの状態に任せ、私心をはさまぬようにすれば、おのずと天下を治めることができる。

要約

「神人」として生きるということ

巨大な魚と小さなウズラ

殷の湯王に使えた賢臣の棘(きょく)は、次のような話を王に伝えた。

極北の地の果てに広がる暗い海、「天の池」に、背幅が数千里もある巨大な魚がいて、名を鯤(こん)という。この魚が変身した姿である鳥、鵬(ほう)は高い山のような大きな背中を持ち、南の果ての暗い海に向かって飛んでいく。小さなウズラがその鳥を見て、「あいつはいったいどこへ行くつもりなんだろう、おれだってりっぱに飛んでいる」とあざわらった。

一つの官職を全うするほどの知恵や才能を持っている人の自己認識は、このウズラ程度のものだ。戦国時代のある思想家は彼らのことをこのように冷ややかにみて、決して調子に乗らない。世間的な幸福にも目をくれない。天地自然の真理にまたがり、無窮の世界に遊ぶ大人物ともなれば何にも依存しない。「至人には私心がなく、神人には手がらがなく、聖人には名誉がない」のだ。

「神人」の生活と「無用の用」
graphixchon/gettyimages

遠く遥かな山に神人が住んでいる。穀物を食べず、風を吸って露を飲み、雲や霧にまたがって、飛龍をあやつる。その徳はあらゆる物を包みこんで一つにまとめ上げるので、天下統治の事業など造作もない。どんな天変地異にもびくともせず、現実世界のことに思い煩うことはない。

こういう話もある。ヤマネコやイタチは身を伏せては獲物をとり、高いところもへっちゃらだが、罠にかかって死んでしまうことも多い。一方、大きな牛は、ネズミすら捕えられないものの、生き延びてきた。それと同じように、大きいばかりで役に立たない木は、広野にあれば憩いの場にもなり、若木のうちに切り倒されることもない。だから役に立たないことを気に病む必要はないのだ。〔この「散木」は荘子の「無用の用」のシンボルである。〕

いにしえの人の知恵

「生があると同時に死があり、死があると同時に生がある。可があると同時に不可があり、不可があると同時に可がある」。物の対立をなくし斉(ひと)しくする論理、すなわち万物は一体であるという考え方が「斉物(せいぶつ)の理」である。

一つに通じる道を求めていながらものごとが同一であることを理解していない。これを「朝三(暮四)」という。ある猿使いが猿たちにトチの実を「朝は三つ、晩には四つあげよう」というと、猿たちはみな怒った。「では、朝は四つ、晩には三つあげよう」というと今度は喜んだ。ことばも中身も何ら変わっていないはずだ。

聖人は、是と非を調和させ、「両行(対立したものを二つながら生かす道)」を実現する。

いにしえの人の知恵にいう最上の境地とは、「もともと物など存在しなかったとする立場」だ。たとえ物が存在しても、境界などなかったと考え、境界が存在しても、是非の区分はないとする。是非の区分は道を破壊し、愛憎好悪を生じさせる。すべてを自ら得るままにゆだねる。これが斉物の理に従う道だ。

胡蝶の夢

ある日、荘周(荘子)はチョウになる夢を見ていた。気持ちよく飛びながら、自分が何者であるかも忘れていた。やがて目が覚めてみると、自身はまぎれもなく荘周であることがわかる。

「はて、これは荘周が夢でチョウになっていたのか。それともチョウが夢で荘周になっていたのか」――現実的な我と物の境界が取り払われ、夢も現実も混ざりあいそれぞれに変化しあう世界。これこそ「物化(万物の変化)」だ。我を忘れる境地だと言える。

自己の生を全うするために

生命を養う方法
GMVozd/gettyimages

知は限りがないから、限りある人生を費やして知を求めるのは危険だ。善いことをしても名誉に近づくな。悪いことをしても刑罰を受けてはいけない。なにごともほどほどを心がければ天寿を全うできる。

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要約公開日 2023.05.11
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