生きるための哲学の表紙

生きるための哲学


本書の要点

  • 正解のない問題に自分なりの答えを出そうするところに、哲学という営みが表れる。そこで求められるのは、ぎりぎり生存を支えるための、生きるための哲学だ。

  • 『車輪の下』で有名なヘルマン・ヘッセは、両親の期待通りの人生を歩むことができず、罪悪感と自己否定を抱えていた。お互いが安全基地になることのできる妻との出会いが、ヘッセの人生の後半を充実したものにした。

  • サマセット・モームの自伝的な長編小説『人間の絆』の主人公フィリップには、モームの境遇が反映されている。フィリップにとっては「人生に意味などない」という悟りが救いとなった。

1 / 4

【必読ポイント!】 生きるための哲学

生きづらさを抱えた人に

Jorm Sangsorn/gettyimages

困難な時代の中、生きづらさを抱える人が増えている。普段は元気な人でも、理不尽な仕打ちを受ければ苦しみにとらわれる。もっと根深い問題を抱え、生きることの虚しさや無意味さにさいなまれている人もいるはずだ。答えが出せない問題に向き合っていたとしても、決断をせずにすませることができないのが人生というものだ。苦しさをどう受け止めるかを考え、生き抜こうとするとき、人は正解のない問題に自分なりの答えを出そうとしている。これこそが、哲学という営みだ。そこで求められるのは、学問としての哲学ではなく、もっと切実に、ぎりぎり生存を支えるための、生きるための哲学だ。誰であれ、生きるために哲学を必要とする。哲学とは無縁に生きている人も、生きるための哲学をもっている。たとえば、どうせ死ぬのに生きる意味は何かという問いには、合理的な正解や科学的な答えはない。ウィトゲンシュタインは「語ることが不可能なことに、人は沈黙しなければならない」という言葉を遺したが、哲学という学問は今や人生の問題に沈黙せざるを得ないのである。死にたいという人間を合理的な理由で説得することはできない。だからと言って、何を言っても仕方ないと沈黙するわけにもいかない。答えの出ない問題に自分なりの答えを信じてぶつかっていく、その切なる信念と行動にこそ、本来の哲学がある。本書においては、生きづらさを抱え、苦難や理不尽に直面しながらも生き抜こうとした人たちの試行錯誤と、それがたどり着いた叡智を描き出したい。これから提示するのは、誰かの実人生に生じた苦悩から見出された、少なくとも一人の人間を救った哲学だ。これらとの出会いが、生きづらさを超えて自分らしく生き抜くための勇気と指針を見つける手がかりになることを祈っている。

2 / 4

自己否定や罪悪感に悩む人に

家を追われた少年ヘッセ

『車輪の下』や『ガラス玉演戯』などで知られる作家のヘルマン・ヘッセの青年時代は危ういバランスで成り立っていた。何度も自殺の誘惑に駆られては親を慌てさせ、中年期にも何度か強い自殺願望にとらわれた。死への誘惑を克服したのは、50歳を迎えて以降だった。彼はなぜ生きづらさと苦悩を抱え、いかにして生き延びることができたのか。彼の生きるための哲学を見ていこう。

もっと見る
この続きを見るには...
残り3396/4360文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2023.07.13
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

なぜヒトだけが老いるのか
なぜヒトだけが老いるのか
小林武彦
ヒトの言葉 機械の言葉
ヒトの言葉 機械の言葉
川添愛
スマートな悪
スマートな悪
戸谷洋志
宇宙思考
宇宙思考
天文物理学者BossB
ビジネスと空想
ビジネスと空想
田丸雅智
私が語り伝えたかったこと
私が語り伝えたかったこと
河合隼雄
ほんとうの心の力
ほんとうの心の力
中村天風
客観性の落とし穴
客観性の落とし穴
村上靖彦

同じカテゴリーの要約

大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる
大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる
井堀利宏
忘我思考
忘我思考
伊藤東凌
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
なぜあの人は同じミスを何度もするのか
榎本博明
すばらしいクラシック音楽
すばらしいクラシック音楽
車田和寿
すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる
すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる
荒俣宏
教養主義の没落
教養主義の没落
竹内洋
現代語訳 福翁自伝
現代語訳 福翁自伝
福澤諭吉齋藤孝(編訳)
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
町の本屋はいかにしてつぶれてきたか
飯田一史
君たちはどう生きるか
君たちはどう生きるか
吉野源三郎
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅香帆