成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋

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成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋
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成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋
出版社
日本能率協会マネジメントセンター

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出版日
2023年04月30日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

とめどなく成長と成果を求められ、その期待に応えたいとは思うが、はたしてこの生き方を続けていいのだろうか? こんな意識が芽生えたときに迷わずおすすめしたいのが本書だ。

著者は、成人がどのように成長していくのかを研究する「成人発達理論」を専門とする知性発達学者だ。成人発達理論は、企業における人材育成・組織開発に取り入れられるようになってきた。一方で、その本質が充分に理解されたとは言い難い。そして「成長疲れ」に陥っている人も多い。本書は、こうした状況をどう改善していくべきかが明らかになり、成長の持つ意味の広がりと深さを味わえる。主軸となるのは、ドイツの思想家ビョンチョル・ハンとドイツの神学者ポール・ティリックの論考だ。両者の論をベースに、現代社会の礎である資本主義を、経済学的・歴史学的・哲学的な観点から分析している。

第1部「成長疲労社会への処方箋」では、新自由主義的社会がもたらす問題から解き放たれるための方法が提示される。第2部「透明化する社会への処方箋」では、あらゆるものが可視化される社会において、私たちが失っている「神秘的なもの」や「他者」に光を当てる。そして第3部「資本主義批判の中での成長への実践」では、資本主義への批判を振り返り、私たちがより良く生きるための処方箋が紹介されている。

人間の成長を取り巻く問題を生み出す社会の構造や文化的な背景とは何なのか。本書を読めば、人生を豊かにする知恵を得られるはずだ。

著者

加藤洋平(かとう ようへい)
知性発達学者・現代思想家。
東京・御茶ノ水生まれ。山口県立光高等学校卒業。一橋大学商学部経営学科卒業後、デロイト・トーマツにて国際税務コンサルティングの仕事に従事。退職後、米国ジョン・エフ・ケネディ大学にて発達心理学とインテグラル理論に関する修士号(MA. Psychology)、および発達測定の資格を取得。オランダのフローニンゲン大学にてタレントディベロップメントに関する修士号(MSc. Psychology)、および実証的教育学に関する修士号を取得(MSc. Evidence-Based Education)。現在、オランダ・フローニンゲンに在住しながら、人間発達と文明学の研究を続けている。
著書:『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』『なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』(以上、日本能率協会マネジメントセンター)
監訳:『インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル』(日本能率協会マネジメントセンター)
監修・解説:『リーダーシップに出会う瞬間 成人発達理論による自己成長のプロセス』(日本能率協会マネジメントセンター)
翻訳:『心の隠された領域の測定 成人以降の心の発達理論と測定手法』(IDM出版)

本書の要点

  • 要点
    1
    ビョンチョル・ハンは、新自由主義的資本主義が進行する社会を「疲労社会(燃え尽き症社会)」と表現する。人々は、過度な成長・達成(=ハッスル)を求められており、疲弊している。
  • 要点
    2
    私たちに求められるのは、社会に流布する価値観や仕組みを客体化し、自分なりの判断基準を持つポストコンベンショナルな思考だ。
  • 要点
    3
    疲弊せず、より良く生きるためには、超越的なものに触れる時間を持ち、自らが置かれた状況に自覚的になる必要がある。

要約

私たちを疲弊させる「新自由主義」

新自由主義とは何か

ドイツの思想家であるビョンチョル・ハンは、新自由主義的資本主義が進行する社会を「疲労社会(燃え尽き症社会)」と表現している。ハンが前提にする新自由主義は、アメリカの「シカゴ学派」と呼ばれる経済学者たちによって広く展開されているテーマである。具体的には、「国家による介入をできるだけ小さくし、福祉や公共サービスを民営化していくことを良しとし、大幅な規制緩和を掲げながら、多くの事柄を市場の競争原理に委ねること」と解釈されている。

新自由主義的な政策として知られるのは、イギリスのサッチャー政権による「サッチャリズム」やアメリカ・レーガン政権による「レーガノミクス」などだ。日本では、中曽根政権や小泉政権の一部政策が該当する。ハンによると、新自由主義的な要素を取り入れた国々で疲弊社会の問題が生じている。

ハッスルカルチャーの弊害

疲労社会とは、文字通り「社会で生活する人々の心身が疲弊していること」を指す。ハンは新自由主義的社会の生活における特徴として「ハッスルカルチャー」を挙げる。ハッスルは「乱暴に押し込む」「無理にさせる」という意味を持つ。自分の時間やエネルギーを無理に押し込める形で過労状態にある人が増えているというのだ。

だが、著者はこの状態が社会に浸透することが、成長を促すのではなく、逆に成長を阻害していると述べる。私たちが真に成長するためには、適切な課題と支援のもとで、じっくりと実践に取り組む必要があるからだ。

燃え尽きて疲弊しないために
guoya/gettyimages

問題は、私たちがハッスル状態であることに無自覚であることだ。

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要約公開日 2023.07.22
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