なぜヒトだけが老いるのか

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なぜヒトだけが老いるのか
出版社
出版日
2023年06月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

人間は長く生きると老いていき、そしていつかは死を迎える。誰もが知る事実だが、その事実に向き合っている人は果たしてどれくらいいるだろうか。

内閣府による令和4年度版の高齢社会白書によると、2065年には日本の総人口における65歳年齢の比率は38.4%まで上昇するという。また、厚生労働省は令和2年度版の厚生労働白書において、2040年の日本人の平均寿命は男性83.27歳、女性に至っては89.63歳に届くと推計している。政府は少子化対策に力を入れようとしているが、他の先進国の事例を見ても、少子高齢化の流れを抜本的に変えるには長い道のりが必要といえる。こうした時代において「老い」をどう捉えるのかは切実な問題だ。個人的な実存の問題としても、社会制度設計の問題としても、老後を迎えた人たちの価値を捉え直すことは急務といってもよい。

著者の小林武彦氏は、細胞老化の分子機構に関する研究者として、そのヒントを「進化」というシステムに求めている。偶然生まれた性質が環境に適応していくことで起こる進化によってヒトという種が現在のかたちになったのだとしよう。すると、ヒトだけが経験する老いもまた、ある環境に対して有利だったためにそうなっていったとポジティブに考えられる。

ヒトだけがなぜ老いるのか。老いとどう向き合っていくといいのか。本書を通じて、こうした大事な問いについて、いま一度考えてみてはいかがだろうか。

ライター画像
池田明季哉

著者

小林武彦(こばやし たけひこ)
1963年生まれ。神奈川県出身。九州大学大学院修了(理学博士)、基礎生物学研究所、米国ロシュ分子生物学研究所、米国国立衛生研究所、国立遺伝学研究所を経て、東京大学定量生命科学研究所教授(生命動態研究センター ゲノム再生研究分野)。日本遺伝学会会長、生物科学学会連合の代表を歴任。日本学術会議会員。生命の連続性を支えるゲノムの再生(若返り)機構を解き明かすべく日夜研究に励む。地元の伊豆、箱根、富士山をこよなく愛する。著書に『寿命はなぜ決まっているのか』(岩波ジュニア新書)、『DNAの98%は謎』(講談社ブルーバックス)、『生物はなぜ死ぬのか』(講談社現代新書)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    生物は進化の結果生まれてきた。進化を支えてきたのは、死というシステムである。逆にいえば、死ぬ生物だけが進化し、存続してきた。
  • 要点
    2
    動物の中ではほぼヒトだけが長い老後を持つ。これは、経験とスキル、集団をまとめる力に長けた年長者である「シニア」のいる集団のほうが進化の観点でも有利だったからだといえる。
  • 要点
    3
    利己から利他へ、私欲から公共の利益へと価値観をシフトさせていくことで、よいシニアになれる。社会の側もシニア人材という「埋もれた財産」に目を向けるべきだ。

要約

そもそも生物はなぜ死ぬのか

「進化」と「死」

「老い」を理解するためには、まず「死」を理解しなくてはならない。ヒトは偶然生まれ、楽しく過ごし、いつかは必ず死ぬ。ヒトに限らず、多くの生物は同じようなサイクルで世代交代を繰り返す。しかし、決定的にヒトが他の生物と異なるのは、自分がなぜ存在するのか、なぜ死ぬのかと問う点にある。

生物は進化の結果生まれてきたものであり、死がなければ進化もありえなかった。進化のプログラムとは「変化と選択」の繰り返しだ。「変化」とはさまざまな分子が生まれてくる多様性の獲得を意味する。そして「選択」とは、たまたまそこにある環境内で複製しやすい、増えやすいものが残ることだ。基本的にはこのプログラムによって、より環境に合わせて増殖しやすいシステムを洗練させていったのが生命だ。

「分解=死」がなければ新しいものを作ることができないため、変化も選択も起きないことになる。逆にいえば、死ぬものだけが進化できたといえる。その意味で、死には絶対的な必然性があるということになり、これが全ての生き物に必ず死が訪れる理由でもある。

老化して死ぬことはどうしようもないとしても、なんとか「いい死に方」はできないものだろうか。生きているものが死ぬことは、これ以上ない劇的な変化であり、それをあらかじめ受け入れることは大変難しい。幸福に老年期を過ごす方法について、生物学的な視点から考えてみたい。

ヒト以外の生物は老いずに死ぬ

「老化」はヒト以外ではほぼ見られない現象
invincible_bulldog/gettyimages

では、ヒトの死の原因である老化にも、なんらかの意味はあるのだろうか。 実は「ヒト」と「ヒト以外」の生物では、老化そのものがかなり異なっている。

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要約公開日 2023.07.14
Copyright © 2024 Flier Inc. All rights reserved.Copyright © 2023 小林武彦 All Rights Reserved. 本文およびデータ等の著作権を含む知的所有権は小林武彦、株式会社フライヤーに帰属し、事前に小林武彦、株式会社フライヤーへの書面による承諾を得ることなく本資料の活用、およびその複製物に修正・加工することは堅く禁じられています。また、本資料およびその複製物を送信、複製および配布・譲渡することは堅く禁じられています。
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