失われたものたちの本

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ジャンル
出版社
東京創元社

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出版日
2021年03月12日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

「ぼくをしあわせにしてくれた本です」。宮崎駿監督からそんな熱烈な推薦文を寄せられている本書は、物語そのものをテーマとした物語だ。

主人公のデイヴィッドという少年が、母を失うことから物語は始まる。母を失う痛みはデイヴィッドの邪な感情を増幅させていく。そこから、デイヴィッドは摩訶不思議な体験をすることになり、ついには自分も異世界へと迷い込んでしまう。

徐々に日常が夢に切り崩されていく描写には、目を見張るものがある。デイヴィッドの繊細な感情の変化も活き活きと描かれているため、読者もまたこの奇妙な世界にどっぷりと没入することができるだろう。

異世界に迷い込んでからは、さらに奇妙なことの連続だ。それは私たち読者がどこかで見聞きした物語のようであり、またどこかが決定的に違っている。夢のような世界でありながら、その実冷酷で、命に対して容赦のない世界だ。友情やユーモアがありながらも、酷薄で先の読めない展開を読者に突きつける。これほどまでに混沌としているのに、物語の導線はしっかりとしており、読者がストーリーを見失うことはない。作者の類まれなる筆力は、デイヴィッド少年の体験を通して、おどろおどろしい者達を極めて繊細に表現している。油断していると、背筋をゾッとさせられることがある。

平易な文章。明快なストーリー。それでいて奇怪極まりない世界観。こうした類を見ないセンスから紡ぎ出される読書体験は、読者にとって間違いなく特別なものになるだろう。

著者

ジョン・コナリー(John Connolly)
1968年アイルランド生まれ。犯罪小説、ホラー、ファンタジーなどを執筆。ダブリン大学およびダブリンシティ大学で学んだ後、フリーのジャーナリストとして活動。1999年のデビュー作『死せるものすべてに』はシェイマス賞を受賞したほか、ブラム・ストーカー賞とバリー賞にノミネートされた。2007年に本書で全米図書館協会アレックス賞を、2014年に「キャクストン私設図書館」でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞とアンソニー賞の最優秀短編賞を受賞した。

本書の要点

  • 要点
    1
    母を失ったデイヴィッド。父親の恋人ローズとの軋轢により、心に強い葛藤を持つようになる。そんな中、デイヴィッドは奇妙な体験に悩まされることになる。
  • 要点
    2
    デイヴィッドは奇妙な世界に迷い込む。そこは恐ろしい者達が住まう王国だった。デイヴィッドは王国の中で母親の声を聞く。デイヴィッドは王に会うため、冒険に出た。
  • 要点
    3
    ねじくれ男。それは一体何者なのか。ねじくれ男。またの名をトリックスターという。彼はデイヴィッドを助けもすれば、翻弄しもする。

要約

すべての見つかりしものと、すべての失われしもののこと

デイヴィッドと毎日の決まりごとのこと

むかしむかし、あるところに病気の母をもつ少年がいた。病魔に少しずつ蝕まれる母親を見ているうちに、少年は母親を失うのが怖くてたまらなくなった。

デイヴィッドという名の少年は、母親を死なせまいと、できるだけ「いい子」にふるまい、自らに課した「決まりごと」で験を担ごうとした。物語の世界で善が報われるように、己の行動が母親の運命を決めると信じたのである。母親の病状が悪化した1年間、少年は小さなグリム童話集と『マグネット』という漫画本を持ち歩き、ときおり母親にせがまれて昔話を読み聞かせていた。

物語は生きている。病気になる前の母親はデイヴィッドにそう教えていた。物語は伝わることで命を持つ。読者が読まない限り、真なる意味でこの世に生きることができない。それが物語だ。

ねじくれ男のこと
Justin Smith/gettyimages

母親は死んだ。善に報いはなかったのだ。母親の愛した本を守るのはデイヴィッドの役目となった。母親を思い起こさせる古い物語の数々をデイヴィッドは忘れようとした。だが、物語はまるでデイヴィッドの頭に居場所をみつけたように留まるのだった。時折、現実と物語の境界は揺らぎ、混ざりはじめてしまうことがある。デイヴィッドのもとにねじくれ男が現れたのはそんな時だ。

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要約公開日 2023.09.29
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