近年、リモートワークの推進やオフィスのフリーアドレス化など、働き方の自由度が高まっている。また、価値観の多様化に伴い「飲みニケーション」などの対話機会も減った。さらに、テクノロジーの普及によりチャットなどのツールによるコミュニケーションが主流になっている。そのため、以前よりも対話の場や機会が減り、社員同士での信頼関係は構築しにくくなっている。
こうした課題に対し、組織内コミュニケーションの質と量を高めるための手段として効果的なのが「1on1ミーティング」である。1on1は主に上司と部下による1対1の定期的な対話の場を指し、その目的は「部下のための時間」というのが大きなポイントだ。
企業は一般的に1on1で「社員の主体性・自律性の向上」、「自律的キャリア形成の支援」を行いたいと考えている。一方で、1on1導入の効果は「対話量が増えて関係性が少し良くなってきた」程度に留まっているというのが、組織における1on1の現在地だ。
変化の激しい環境において、自ら考えて行動できる「自律型人材」の育成が多くの企業で課題となっている。しかし、現状ではなかなか進まない。その原因について著者は「上司と部下のコミュニケーションパターンにある」と考えている。
業務における上司と部下のコミュニケーションの大半は「教える」「指示する」「問題解決する」などの指示・問題解決型に集約される。しかし、このパターンに慣れると部下側は「言われたことをやる人」になってしまい、自発性が損なわれがちだ。
そこで1on1ミーティングと「支援型上司」の出番だ。1on1という現場と異なる「場」と「モード」を設けることで、部下が主体的に自ら考えるようになっていき、上司はその支援をする。上司はまず部下が主体的に動きやすいような環境を作る必要がある。
1on1が浸透しない最大の原因は「部下が“自律型”を目指すことが役割という認識が欠けている点」だと著者は言う。事前の準備を怠ったり、上司との一問一答に終始したりといった事象は、認識不足の典型例だろう。
場の主体である部下が1on1を自律的に活用しようとすれば、1on1の質が飛躍的に高まり、良質な効果が得られる。もちろん、「自律型部下」と「支援型上司」の両輪があってこその1on1だが、これまで上司側のアプローチや要望が大きかったような意思疎通のケースでは、部下側の伸びしろは大きい。
日本で1on1が普及していくための最も効果的な手段は、部下への啓発にある。
竹田さんは人材開発チームに所属する入社3年目の若手で、思ったことは忖度なく発言し、何事も柔軟に受け入れる素直な性格の持ち主だ。この日初めて上司の小谷課長との1on1に臨む。
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