食のリスク学
氾濫する「安全・安心」をよみとく視点

未 読
食のリスク学
ジャンル
著者
中西準子
出版社
日本評論社
定価
2,160円
出版日
2010年01月15日
評点(5点満点)
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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レビュー

本書は公害問題、環境問題に取り組む中で、「環境リスク学」という研究分野を立ち上げ育ててきた著者が、環境問題とも関わりの深い食の安心・安全について、「食のリスク」という観点で明瞭に解説した一冊である。近年、食の安全問題について語られることは非常に多いが、その程度を定量的に扱っている例は少ないのが実状だ。著者は、食の安全に対して「食のリスク評価」という視点を取り入れ、それを基に判断し、安全度を定量化している。この手法を用いれば、リスクの裏側にはベネフィットがあることが明らかになり、その上でリスク削減の対策を考えることが可能になる。

リスクを削減しようとすると、別のリスクが浮上してくるリスクトレードオフという考え方に関しても、水道水に含まれる発がん性物質や、BSE(狂牛病)のリスクなどの事例から解説がなされている。また、「フードファディズム」と言われる、食べ物が健康や病気に与える影響を過大に評価したり信奉したりする考え方についても、発刊当時の食の安全に関するいくつかの事件を事例に問題提起がなされている。

単純に善悪では判断しにくいのが食の問題。あるかないかわからないような小さなリスクに対して大騒ぎする向きがある一方で、実際のリスクに対しては「風評被害の防止」というスローガンで口をつぐむ今の日本の現状を浮き彫りにする。リスク評価という視点で食のリスクを考え、食の安心・安全を定量化してとらえる、非常に重要な考え方を示した良書である。

著者

中西 準子
独立行政法人産業技術総合研究所フェロー。1938年、中国大連市生まれ。1961年、横浜国立大学工学部化学工業科卒業。1967年、東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了。東京大学工学部助手、東京大学環境安全研究センター教授、横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センター長、同安全科学研究部門長を経て、現在に至る。横浜国立大学名誉教授、専攻は環境工学、環境リスク評価。工学博士。2003年春に紫綬褒章受章。2010年文化功労者顕彰。(本書刊行当時)

本書の要点

  • 要点
    1
    「安全」とは、何かと比べてより安全だといえても、この状態であれば安全だということは言えない。そのため、安全の指標となるリスク評価が重要となってくる。
  • 要点
    2
    「リスクトレードオフ」とはあるリスクを削減したことで、別のリスクが出てくる現象だ。場合によっては、後から生じたリスクの方が大きくなることもあるため、定量的な見極めが重要だ。
  • 要点
    3
    日本における食品の安全問題は、たいていの場合は「何かが心配される」という程度のもので、実は実質的なリスクはないことが多い。
  • 要点
    4
    さまざまな食の問題を通して「リスクの概念」を身につけることが大切だ。

要約

安全の定量化

oticki/iStock/Thinkstock
「安全」とは、何かと比べてより安全だということはいえても、この状態であれば安全だと断言することは難しいものだ

第一章では、『食の安全——その費用と便益』というタイトルで、食の安全とリスク、安全とお金という問題について述べられている。冒頭で著者は、「食の安全は、命に関わる問題だから、その安全を守るための費用に制限を加えるべきではないという考え方」を否定している。そもそも「安全」とは何か。この状態であれば安全であるというのは、その時代や、その人、その国によって異なっているという事実を認めることが、安全問題を考える上での第一歩だと著者は述べている。

また、安全はとても大事なものだとしている私たちが、実はやすやすと、またはしばしば、その安全を犠牲にしている事実もある。例えば、安全な食を求める私たちは、食材を集める段階から自分で作った方が安全だと多くの人が思っているにも関わらず、時間がないなどの理由から、できあいの食品を手にする。つまり、時間の節約のためにできあいの食品を食べることの危険は、しょうがないと受け入れているのだ。中国製ギョーザの危険性が問題になり、中国製の冷凍食品の需要が激減した事件のあとも、その需要が事件発生前の9割程度にすぐに戻った例もしかり。安全は極めて大事だというものの、現実にはそういう安全をしばしば犠牲にしているのである。

安全とは何らかの危害を避けた状態であるので、そもそも問題とする危害が何かをはっきりさせる必要があり、そのためには相対的な概念である「安全」の尺度、指標がなくてはならない。著者は、安全をリスクと置き換えて定義し、定量的にそのリスクを評価することを推奨している。リスクとは、あるエンドポイントの生起確率であるとも言える。発がんリスクとは、がんになることをエンドポイントにした確率を意味し、同様に、ある種の神経症状を起こす確率も同様に確率で表すことができる。しかし、人間にとって、どちらのリスクが大きいのか? ということは確率だけでは判断できない。

これに、重篤度を掛けたものを用いれば、リスク評価が可能になる。リスクをその現象の生起確率と重篤度で評価することで、何を下げようとしているのか、何を避けようとしているのかをはっきりさせることができるのだ。そして、一定の対策をとったときに、本当にリスクが削減されているのかをチェックすることが可能になる。

【必読ポイント!】リスクトレードオフ

Juri Samsonov/iStock/Thinkstock
あるリスクを削減すると、別のリスクが出てくる現象をリスクトレードオフといい、生じた別なリスクの方が大きいこともある

リスク管理においては、リスクを削減する対策をとる場合に、リスクトレードオフに対して考慮することが最も大事であると著者は述べている。ひとつのリスクを減らしたらそれで良いということはなく、同時にどこかで何か別のリスクを生じさせていることが多い。当初、削減を考えていたリスクよりも小さいものなら問題はないが、往々にしてそうではない。

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食のリスク学
未 読
食のリスク学
ジャンル
サイエンス 健康・フィットネス
著者
中西準子
出版社
日本評論社
定価
2,160円
出版日
2010年01月15日
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